水
【情報開示】
▶あたしは自分以外の誰かの夢に入り込む。理由は不明。
▶夢では夢を見ている人が一番強い。
▶夢では夢を見てる人が思い通りに夢を進めることが出来る。
▶ただしその人の深層イメージを一番強く反映する為、心の奥底で恐怖や嫉妬等々負のイメージを持つと悪夢になっていく。
▶あたし自身も夢を見ている人程ではないけど、夢をある程度は操れる。但し悪夢の根源を何もせずに殺す、消す、未然に防ぐ等は出来ない。
コポリ………コポリ……………息を吸って吐く度に洩れる小さな音。目を開けばいつもの殺風景な景色がゆらゆら揺らめく。あたしはこの小さな牢獄のガラスケースを叩き、その向こう側で何処かへ運ばれていく塊を見つめる。
今日も助けられなかった―――……
その想いばかりが募り、あたしの頬を伝う涙は周りの青の世界に融けて、誰にも気づかれることなく消える。あたしの叫びは届かない。あたしの嘆きは届かない。伸ばした腕は届かない。ただ記憶が残るだけ。夢でしか会ったことのない塊が棄てられていくのを眺めるだけ。
気づいたら此処にいた。
それ以前の記憶はなくて、ただ漠然と息をしているだけだった。ガラスの向こうで流れていく右から左に流れていくモノにも興味はなくて、ただ何も考えずにそれを眺めていた。
そんな生活が変わったのは多分一年前、いつも通り悪夢を見た後だった。
あたしは夢で仲良しの女の子がいた。夢で同じ少女が毎日出てくるなんて可笑しいと今ならわかるけど、当時のあたしは『眠れば会える』程度の認識で、自分が誰か、全くわからないまま漂っているあたしには夢でも幸せだった。
でも―――……
唐突にその夢は崩れた。
あたしに【麗紅】という名をくれた少女は儚く散った。
その後からだった。あたしの意識が初めてガラスケースの向こうへ向いたのは。あたしの目の前を通り過ぎていく塊。手を伸ばしても簡単に遮られ、初めて涙を流した。
それから幾度となく夢を見て、全ての夢が死に向かって流れていくことに気づいた。幸せオチなんて稀。そもそも幸せな夢に浸っている人はあたしの存在を“認めない”から、気づかないから、すぐわかる。
何百と死を見てきた。何百もの夢を失ってきた。
・・・――――あたしはいつまでこんなことを続けるのだろうか?