5話~鼓舞する佳人と新たな一歩を踏み出す冒険者達~
今回は短めです
王都に部に着いたメレス一行はクエスト達成報告のためギルドへやってきていた。
剥ぎ取っていたゴブリンの討伐証明の部位を提出してクエストの達成認定と、報酬を受け取る。
無事に帰ってきたシギル達を見てシギル達のクエストを認めた担当の受付嬢は安堵の表情を浮かべていた。今回の任務は二次職のゴブリンの強さの推定が定かではなく、渋々認めた受付嬢もこの間ずっと心配していた。それだけに自分が送り出した冒険者パーティーが無事に帰ってきたのは嬉しかったのだろう。
それだけでなくシギル達は若手のホープとしても将来を望まれていた。将来有望な希望の星がこんな半人前とも呼べるランクで野垂れ死んでしまわえたらギルドとしても大きな痛手となってしまう。
「今回のクエストの達成により貴方方のCランク昇格を認めますが、貴方方はCランク昇格を望みますか?」
Cランク相当のクエストを達成してきた。これはまぎれもなくCランク相当の実力があるという証明になる。
そして帰ってきたシギル達四人の表情も出発前と比べて一皮むけた覚悟の違う顔をしていた。それを見て受付嬢もこれなら安心だと感じた。
今回はCランクの助っ人が一人いたがそれでもCランクが一人加わった程度で難易度が大きく変わるわけではない。しかも今回はCランククエストの中でも難しいものに分類されている上、不確定要素もあった。評価には十分に値する結果といえただろう。
実を言えばメレスの実力はCランク程度で収まるものではないのだが、受付嬢は当然そんなことは当然知らない。メレスのようなランクに見合わない者がいるため、今回のような例外は難易度制限制度の穴といえた。
「いや、俺達はもうしばらくDランクでやっていくつもりだ。すまないが今回の昇格は保留にしてほしい」
シギルのパーティーを代表して答えた言葉に受付嬢は驚きを隠せなかった。出発前にあれだけ自分達の実力に自信を持っていた男が昇格を辞退したのだ。驚くのも無理は無かった。
「良いのですか?今回の任務達成はそれだけ評価される結果なのですよ?」
「あぁ、かまわない。俺達に上はまだ早い」
それはシギルを除いた三人の心の問題だった。
自分達はまだ恥辱を晴らしていないと。Cランク昇格からでもいいのかもしれない。しかしそれでも四人はそれを良しとしなかった。
Dランクの自分達はCランクのモンスターに圧倒されたのだ。ならまだそのステージ立つことはできない。昇格して、それに見合うだけの実力があるのはシギルだけというのは我慢できなかった。
それに当然Cランクに昇格すればこれから受けるクエストの難易度もこれまでとは比べ物にならないだろう。当然ハプニングも今回のようなものが増えるかもしれない。そんな状況になれば間違いなくシギルの足手まといになってしまう。四人はクエストの危険に対するボーダーラインを格段にあげての考えだった。
「わかりました。貴方方が望まれるのでしたら今回は保留といたします。しかし私達は有能な冒険者を常に待ち望んでおります。Cランクへの昇格への打診はつまりそういう事だと思ってください」
Cランク冒険者。
それは冒険者全体のわずか一割の者が辿りつける一流の証。
冒険者は皆このランクを目指す。ここまで来ることができれば少ない冒険で大きな稼ぎが期待できるラインだからだ。このランクで一年ほど活動してお金を貯めて引退する冒険者も多い。謂わばこのランクは一つの壁とされている。
一般的な人物がここまで来るのはギルド側のクエストに対する的確な診断と、長い冒険の中生きていけるだけの運が必要とされている。つまり才能の乏しいものはこの二つに恵まれ、辛抱強くしがみついてこられた者が到達できる領域だった。
その者達がこのランクに掛かる年月はおよそ十年以上。それを僅か二年で足を踏み入れようとするこのパーティーは間違いなく逸材だった。ギルドからの注目度は非常に高く、Aランクも夢ではないと思われていた。そんなパーティーもギルドも遊ばせておくにはいかない。早く適正のランクで実力を伸ばしてほしいというのが本音だった。
ギルドを出たメレスとシギル達四人。
ギルドの門から少し離れた所で四人がメレスに頭を下げた。
「今日は本当に助かった。あんたからいろんな事を学んだ。仲間とこうしてまた無事に帰ってこられた。全てあんたのおかげだ」
シギルの声には確かな安堵があった。リーダーとして判断を誤ったシギルは今回一番自身を責めただろう。しかしそれはこの先無いだろう。少なくとも油断からの致命的な判断ミスは無くなるとメレスは思った。
「格上がどんなものなのか知らず舐めてかかってた。今日の事で自身を見つめ直すきっかけになったわ。ありがとう」
デビィはこの中で一番危険にさらされた人物だろう。しかしそれでも生まれたはずの恐怖に打ち勝ってこうして仲間と冒険を続ける意志は変わらない。彼女の心は強かった。
「メレスさんには本当にお世話になりました。私達が強くなったら必ず恩返しに行きますから待っていてください」
メレスに直接助けられたミエルは中でも特にメレスに対する恩義は大きかった。恩返しに行くという事はつまりAランクに必ずなるという事。気弱な彼女がメンバーの中で一番大きなこと言ったのは恐らくいい方向へと進んでいるのだろう。
「…ありがとう。あんたがいなければ今頃死んでいた。それと最初失礼な態度ですまなかった」
ディスターは相変わらず女性の目を直視できないようだが、それを悪いと思っているのかちらちらとこちらをうかがっている。戦闘や冒険への意識が変わってもこういうところは相変わらずのようだ。
「皆さんが新たな一歩を踏み出す事が出来て私も嬉しく思います。私はとある任務がありますので三日後にここをでます。そしてその任務が終われば私はヴィーグリーズへと帰ります。貴方方がヴィーグリーズに来ることを待ち望んでおりますので、はやく強くなってくださいね。では私はそろそろ帰りますね。皆さんお元気で」
そういってにこりと笑うメレス。四人はその表情に心が和らぐのを感じた。そしてシギルの顔がやや赤いように見えたが気のせいだろうか?今の太陽が傾き夕日模様だ。たぶんそのせいだろう。
メレスはそう思う事にした。
そうしてメレスは背を向けて歩きだす。その背中は線が細くたおやかなものだが四人には大きく感じられた。
「きれいだな」
シギルはポツリと呟いた。
「ほんとよね…もしかしたらヴィーグリーズの貴族かもね。本人は否定してたけど。謎の多い人だったわね」
メレスはただの冒険者だと言っていたがそんな事は無いと四人は思っていた。あれだけの実力を持つ人物がCランク程度で収まっているわけがないからだ。それこそ先程の受付嬢の言葉通りギルドは常に有能な人材を欲している。それならばあれだけの実力者なら今頃Bランク、いやAランクはなくてはおかしい。もしかしたら彼女の実力は自分達の目標である開闢者の別名で呼ばれるSランク冒険者にも匹敵するかもしれないと四人は考えていた。
「今度はヴィーグリーズまで行ってもう一度お礼を言おうね。」
強くなったと三人は思った。ミエルがここまで意志の乗った大言を言うようになったのだ。幼馴染である三人も驚きだ。
「迷惑かけたからな。きちんと恩返ししないとな」
四人はメレスがいたから変わることができた。生き残ることができた。四人は感謝の気持ちでいっぱいだったが本人達は気づいていないだろう。
今回の危機を乗り越えたのは自分達の力があってこそだと。実際に実力を持って敵を倒したのはこの中でシギルだけだ。しかし三人も心を入れ替える事ができた。
そしてこれに挫ける事もなく強く前を見据える事が出来ている。これは立派な自分達の力である。大概の者はあれで心が挫かれトラウマを残すことになっていたはずだ。しかし三人は元凶を倒せずとも乗り越えることができたのだ。いまある実力よりも大切なものといえた。
「なによりも早く強くならないとな!」
シギルがメレスの歩いて行った道をいまだ見つめながら両手を腰に当て大きな声でそう言った。
四人はメレスの歩いた別の道へと体を向ける。
シギルが歩こうとすると不意に指を掴まれ足が止まる。
右手の小指を掴んだのは細い綺麗な指だった。
ミエルとディスターは先を歩いていた。
シギルが後ろを振り向くと半歩後ろで指を掴んだままデビィが俯いていた。身長差があるためシギルからはデビィの表情はうかがえない。しかし僅かに震えている指からどんな表情なのかはだいたい察しがついた。
「もう…あんな危険な真似はしないでよね。私も前衛なんだからあんたの隣は私でしょ。次一人で突っ走ったりしたら許さないから」
怒ったような声音だったが震えた声は隠せていなかった。
デビィは今まで必死に隠していたのだろう。強がりな彼女の事だ。簡単に想像できた。デビィはシギルがあのゴブリンと命懸けで戦った事を本当はよく思っていなかった。けれどシギルの気持ちを尊重した。自分も痛いほど気持ちが分かったからだ。しかしそれでも今の傷だらけのシギルを見て思い出す。一歩間違えばシギルが死んでいたことを。そうなっていたかもしれないと、そう考えると体の震えが止まらなくなった。
「あぁ、すまん。もうあんな危険な真似は一人でしないさ。今度からはお前達に、お前に頼らせてもらうよ」
「うん」
デビィは顔をあげ笑う。その幼馴染の笑顔はこの夕日よりも眩しく、またシギルの顔を赤く染めた。
デビィはメインヒロインだった!(違う)
番外編書くとしたらシギル一行のストーリー書こうかな
この子ら絶対そのぐらいのポテンシャルあるでしょ
主人公補正あるよこれ(笑)
主人公はメレスだよ?(真顔)