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実践

 翌日。

 早速、昨日の夜考えた美那子先輩を巻き込んだ作戦の実行だ。

 作戦はこうだ。

 放課後、生徒会室に行き、美那子先輩とお姉ちゃん、アイツが来たら行動開始。

 私がお姉ちゃんを生徒会室から連れ出す。

 アイツの隣に美那子先輩が座る。

 そのまま時間を空ける。

 以上だ。

 ここで重要なのは美那子先輩がアイツとどう接するか。要するに、アイツの事は美那子先輩任せという訳だ。

 この話は、美奈子先輩には昼休み中に話してある。昨日チャットIDを教えてもらっていたので、それで連絡したのだ。




「今日はこれで終わりだ。授業が始まったからしっかり受けろよー。号令」

「はい。起立――」


 帰りのホームルームが終わり放課後となる。

 私は直ちに生徒会室へ。

「こんにちはー」

「おいーっす、いつも早いねー」

「……荒野先輩ほどではありませんよ」

 この人、私が来るときいつも居ないか?

「それほどでもないぞ」

「褒めてないです!」

 考えが甘かった。この人と小河原先輩が居たではないか。二人っきりになれなきゃドキドキ空間が作れないじゃない。

 ……どうしよう。

「どうかしたか?」

 先輩に問われる。

「な、何がですか!?」

「いや、何か困った顔してたからな」

「と、特にないですよ」

 そう言い私はソファーに腰を下ろす。

「ん? そうか。俺はこれから出掛けるから助けられないぞ」

 えっ!?

「どこ行くんですか?」

「さぁな、司に聞いてくれ」

「小河原先輩も居ないんですか?」

「ああ。あいつに呼び出されたからな。どこ行くかは教えてくれんかった」

「それはそれは」

 なんという好都合。

「ま、俺はあいつの事、今でも好きだからな、逆らわん。惚れた弱みに何とかってやつだな」

「惚れた弱みにつけこまれてるんですか? あんなに殴られてるのに」

「殴られるのは司なりのスキンシップと俺は理解している」

 フンっと鼻息を上げる先輩。

「そうですか……」

 ……うん。どうでもいいな。むしろ、聞かなきゃ良かったかも知れない。

 先輩がドの付くMさんでも私は今まで通りに接しますよ。

「興味をなくしたね! 今、どうでもいいかと思ったでしょ!」

「ソンナコトアルワケナイジャナイデスカ。デート楽しんできてくださいね」

「おう。久しぶりだから楽しみだ! じゃ、行ってくる」

「さよならー」

 騒がしい人が居なくなった。

 生徒会室で一人になるのは初めてだ。

 そういえば、荒野先輩は今一人で何をしていたんだろう。すぐに帰ればいいのに。

「あら、早いわね」

「あ、お姉ちゃん」

 考えているとお姉ちゃんがやって来た。今日は一人だ。こういう時に限ってあいつを連れて来ていなかった。

 お姉ちゃんは部屋を見て他の人が居ないかを確認してから話し始めた。

「朝、言おうかどうか悩んだんだけど聞いてくれる?」

「うん? なに?」

「昨日、草間君の下駄箱にね、脅迫文が入っていたのよ」

「脅迫文?」

 ……あっ。

「そう。私と別れないと不幸になるって書いてあったのよ」

 それ、私が入れたやつだ。美那子先輩との帰り道で話していたことで頭がいっぱいになって、すっかり記憶から抜け落ちていた。

「そ……そうなんだ」

「そうなのよ。誰がこんな事をしたんでしょうね。まったく」

「そ、そうだよね」

 ………………。

 気まずい。何この空気。お姉ちゃんと一緒で嬉しいのに空気は気まずい。というか重い。

 お姉ちゃん……そんなにアイツの事が……。

「すまない、遅れた」

 良い所に美那子先輩が来てくれた。助かったぁ。

「し、失礼します」

 アイツも居るじゃないか。もう先輩は手を出したのかな? やることが早い!

「先生に用事押し付けられて遅くなった。途中で小春にあったから連れてきたぞ」

 手を出したのではなく偶然出会っただけみたいだ。それでもナイスです、美那子先輩。

「そう……」

 お姉ちゃんはテンションが低くなっていた。こんなお姉ちゃん見たくない。

「き、今日は荒野先輩と小河原先輩は来ないみたいですよ」

「あら、愛理良く知ってるわね」

「さっき会ったんだ」

「そうなのか?」

 美那子先輩も話に混ざる。

「デートらしいですよ」

「もしかしてよりを戻したのかしら。私達がからかい続けたかいがあったわね」

「ふむ、そうだな」

「二人ともそんな事してたの!?」

 アイツが驚いていた。

 私は美那子先輩と目配せをする。

 よし、やるか!

「あっ、お姉ちゃん話したい事があるからちょっといい?」

「うん? 今日もやることないから別にいいわよ」

「ありがとう」

 私はお姉ちゃんの手を取り生徒会室から出た。


「えっ? ちょっと愛理!」

「なに、お姉ちゃん?」

 歩きながら答える。お姉ちゃんの手は離さない。

「どこ行くの?」

「中庭だよ」


 この前お姉ちゃんとアイツが座っていたベンチに私は腰を下ろした。

「いきなりどうしたのよ」

「ちょっと思いついたことがあってね」

「思いついたこと?」

「そう、さっきの下駄箱に入ってたっていう手紙だけど、もしかしたら……小春先輩の自作自演かもしれないよ」

「な、何でそんなこと思ったのよ! 草間君はそんなことしないわ」

 お姉ちゃんは怒り気味に話してくる。

「言い切れるの?」

 私は真剣に問いかけた。

「え、ええ。言い切れるわ」

「どうして?」

「どうしてって……き、決まっているでしょ。彼はそう言うことはしない。というか出来ないわよ。……そう、彼はそういう人なの」

「でも、今言葉に詰まったよね? 完全にそうとは思えなかったんじゃないの?」

「そんなわけ……」

「ない? 本当に?」

「そ、そんなこと言って、愛理は私に別れてほしいの!?」

 話を誤魔化そうとしているの? そうはいかないよ。

「うん」

「えっ!?」

 お姉ちゃんは驚いた表情をした。

「そう言うとは思わなかった? 私の本心だよ」

「……そう」

「確かに小春先輩の仕業じゃなく第三者かも知れない。けど、私はお姉ちゃんに小春先輩は合わないと思う。それに私の質問に少しでもイラッときたってことは、小春先輩の事を信用しきれずに戸惑っちゃったんじゃないの?」

 お姉ちゃんはベンチから立ち上がり私を睨みつけてくる。

「でも! それでも私は彼が好き! 小春草間が好きなの!! 愛理に何と言われても別れないからねっ。さようなら愛理、これからは一人で学校に行くわ」

 そう言い残し、早足でお姉ちゃんはどこかに行ってしまう。

「…………はぁ」

 ベンチに腰を滑らせ深く座り直す。

 怒らせちゃったか。これで不信感を持って別れてくれれば良いんだけどな。そこに私が慰めに入る……完璧だ。

 でも、そう簡単にはいかないよね。取り敢えず様子見かな……。



 少し時間を置いてから生徒会室に戻る。お姉ちゃんはすでに帰って来ていた。

「あら、遅かったわね愛理」

 いつもより冷たい口調でお姉ちゃんは言う。

「ちょっと友達に捕まっちゃってね」

「そう」

 こんな嘘お姉ちゃんならすぐ見抜けると思うが、これ以上何も言わなかった。

 ソファーにはアイツと美那子先輩、もう一つの方にお姉ちゃんが座っている。

 美那子先輩が私に小さく手を振ってきた。

 私も振り返し、美那子先輩の前側、お姉ちゃんの隣に座る。

「草間君、寄りたい所があるから一緒に帰らない?」

 私が座ると同時にお姉ちゃんは立ち上がり、アイツに話しかけた。

「え、あっ、うん。いいよ」

 アイツはソファーから立ちお姉ちゃんと一緒にドアに向かう。

「じゃあ、またね」

「……ま、また明日」

 そう言いお姉ちゃんとアイツはドアに向かう。

「お、おう」

「うん、さようなら」


 二人は生徒会室から出て行った。生徒会室に残っているのは私と美那子先輩のみだ。

「な、何だあの結紀のオーラみたいなやつは! 帰って来て早々居心地が悪くなったぞ」

「私が怒らしちゃったみたいです」

「それでか……」

「でも後悔はないですよ!」

 そう。言いたいことは言えたのだ。私の気持ちを少しでも分かってくれれば良いな。

「それは胸張って答えるとこじゃないぞ」

 と美那子先輩に突っ込まれる。

「先輩はどうでしたか?」

「へっ?」

「へっ、じゃなくて、小春先輩とはどうだったんですか?」

 アイツの名前を覚えてしまった……。呼びたくもない名前なのに。

「えーっと、最初は緊張して」

「はい」

「次は意識したら心臓がバクバクして」

「はい」

「頑張って最近の趣味を聞いて」

「うんうん」

「結紀が来た」

「……ごめんなさい。私がもう少し引き付けておけば」

「いや、大丈夫だ。後輩にそこまでしてもらったら先輩という立場がなくなりそうだ。……ってあれ? 結紀は小春に飽きたんだよな?」

 まずい。

「は、はい。そう聞いてましたよ」

「じゃあなんで今一緒に帰ったんだ?」

 矛盾点に気付かれてしまった。上手く話を誤魔化さなければ!

「い、今はまだ彼女なので、一緒に帰ろうと思っただけではないですか?」

「ふむ。そうなのか」

「そうですよ。小春先輩に好きな人ができたって分かれば、すぐお姉ちゃんとは別れて美那子先輩と小春先輩は付き合えますよ」

「そ、そうかな」

 先輩は頭をかく。照れている様だ。

「そうですとも。これからもアタックしてください」

「が、頑張ってみるよ」

 美那子先輩は気合を入れ直してくれたみたいだ。

 良かった。これで当分は様子を見ましょう。


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