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食事

 結紀お姉ちゃんに何処で食べたいか聞かれたので、私は昔よく行っていた地元にある駅近くのファストフード店を選んだ。


 高校から地元の最寄り駅までは電車で三十分程度の場所にある。

 登下校時間は、家から駅までの歩く時間も入れたら五十分位かかるだろうか。電車を待つ時間を入れなければそのくらいだ。余裕を持って一時間を目安にするのが良いかも知れない。


 私とお姉ちゃんは学校の最寄り駅から電車に乗り、目的のファストフード店に到着した。

「本当にここでいいの?」

「はい」

「遠慮しないで、もう少し高い所でもいいのよ? ファミレスとか」

「大丈夫。ここがいいの」

 このお店は中学の頃お姉ちゃんと良く一緒に来ていた。

 勉強をしたり、どうでもいい話をしたりと、思い出が沢山ある。その思い出の中に高校生になって初のお姉ちゃんとの食事が一つ増える。だからここがいいのだ。

「そっか。じゃ入ろうか」

「うん」

 自動ドアを通る。

 今はお昼過ぎだからか、人はそれ程居なかった。

「席取っておくね」

「分かったわ。じゃあ愛理の分も一緒に買うから何食べたいか教えて?」

「お姉ちゃんのと同じでいいよ」

 そう言って私は席を取りに向かった。



「お待たせ」

 お姉ちゃんはトレーを持って来た。その上にはポテトとバーガー、ドリンクが二つずつ置いてある。

「ううん。何時間でも待つよ」

 お姉ちゃんなら。

「ふふ。そんな冗談言ってないで食べましょう」

 冗談じゃないのに……。

「入学祝いがこれなのも何か虚しいわね」

「そんなことない! 私はとっても嬉しいよ。お姉ちゃんありがとう」

「そう? 愛理が喜んでくれるなら奢ったかいがあるわね」

 そして、私とお姉ちゃんはバーガーから先に食べ始めた。



「久しぶりに食べたけど美味しいわね、それに結構お腹も一杯になるものね。昔はもっと食べられたのに」

 お腹を擦りながらお姉ちゃんは言う。

 お姉ちゃんはポテトを半分くらい残していた。バーガーは完食済みだ。

 私もポテトが残っていたが、まだ食べられる。

「そうなの? じゃあ私が食べてあげようか?」

「愛理はまだ食べられるの?」

「うん。まだまだいけるよ」

「じゃあ食べてもらおうかな。お腹一杯だったら言ってよ? 無理して食べちゃ駄目だからね」

「りょうかい」

「じゃあ、はい」

 私がお姉ちゃんのポテトに手を伸ばそうとした。その時、お姉ちゃんがポテトを一本私の口元に持ってきてくれた。

「……?」

 私は首を傾げる。

「はい、あーん」

 最初、何をやっているか分からなかったが、この一言で私は卒倒しそうになった。

「…………あ、あーん」

 お、お姉ちゃんが、お姉ちゃんから食べさせてくれる!? 恋人同士でやるといわれる食べさせ合いというやつ!!?


「美味しい?」

「………………」

 コクン

 頷くので精一杯だった。


 お、落ち着くのよ私!

 顔が熱くなるのが分かる。きっと赤くなっているのだろう。

「じゃ、じゃあ私も……」

 冷静を装いつつ、自分の前にあるポテトを一つ手に取り、お姉ちゃんの方へその手を伸ばす。

「んー、あむ」

 お姉ちゃんはそれを口で取ってくれた。

「ふふふ、これ結構恥ずかしいわね。愛理が顔を赤くしたのも分かるわ」

 お姉ちゃんも頬を赤に染めていた。

 


□□□



「愛理、鼻はもう大丈夫?」

 私とお姉ちゃんは住宅地を歩いている。今は十七時半位だ。

「うん、たぶん……」

 鼻を触りながら私は答えた。

「そう、良かったわ」


 ファストフード店の窓から入ってくる赤い光が、夕方という時間を伝えてきていたとき、お姉ちゃんから「そろそろ帰りましょうか」との一言。

 その言葉で内心は泣く泣く、しかし表情は素直に店を出たのだった。




 ファストフード店から出る前。

 あのあと、更にお姉ちゃんは私の口元にポテトを持ってきてくれたのだが、そこで問題が起きた。

 久しぶりの本物のお姉ちゃんを間近に、私は耐性が無くなっていたみたいだ。

 自分の部屋には写真が飾ってあり、それを毎日見ていたから大丈夫だと思っていたが、やはり本物は違った。話しかけたら答えてくれる。私がアクションを起こしたら、それに反応してくれる。それが嬉しい。恋しかったお姉ちゃんの傍に居れて、食べさせてまでもらい、興奮して血流が良くなってしまった様だ。


「愛理! 鼻、鼻」

 お姉ちゃんは私に出したポテトを引っ込めて鞄を漁り始めた。

「鼻?」

 私は何の事だか分からず、鼻を擦る様に手を当てる。

「ん?」

 液体の感触が……それもトロッとした感じだ。

「……鼻血?」

「あった。はい、これ使って」

 お姉ちゃんはポケットティッシュを渡してくれた。私のために探してくれていたみたいだ。

「あ、ありがとう」

 私はティッシュを一枚取り鼻に摘めた。

 この出来事により、食べさせっこは終わってしまった。

 残りの二つのポテト。合わせたら丁度一つ分になりそうな量を、私はお姉ちゃんとお話ししながら食べたのだった。



 食べ終わってからもお話をしていたら、あっという間に夕日が差し込む時間になっていたという訳だ。




 帰り道。

 もうすぐお姉ちゃんの家と、私の家の分かれ道に差し掛かる。

 そうだ! これを言わないと!

「お、お姉ちゃん! 明日からまた一緒に学校に行きませんか?」

 この高校に入学した目的の一つといえる事柄だ。危うく忘れるところだった。

「うん? んー……いいよ。生徒会の仕事とかあって一緒になれない時もあるけどね」

 やった!

「じゃ、じゃあ駅待ち合わせでいいかな?」

 お姉ちゃんの家の前まで私が言っても良いのだけど、気を使わせてしまうかもしれないと思い駅にする。

「了解。久しぶりね、こういうの。7時30分に集合ね。遅れたら遅刻しちゃうから気を付けるのよ」

「はーい」

「じゃあ、また明日」

「うん、じゃあねー」

 丁度分かれ道に着き、ここで別れることとなる。


「……初日でお姉ちゃんと会えて、ご飯まで一緒に食べちゃった!」

 これからの高校生活、楽しく過ごせる未来しかみえない!



「たっだいまー」

「お帰りー、機嫌良いわね。高校はどうだったの?」

 家に帰りつくとお母さんが話しかけてくる。

 うちの両親は放任主義で自分で自分の事は決めなさいと言う人達だ。そして私に余り干渉してこない。こうやって聞かれるのも今日が最後だろう。

「ふふん、楽しかったよ。久しぶりにお姉ちゃんと会えたしね」

「あら、結紀ちゃん? 懐かしいわね。愛理ったらいきなり結紀ちゃんと会わないって言うんだもの。喧嘩して友達やめたかと思ってたわ」

「そんなことないよ。私はお姉ちゃんと一緒の学校行きたくて勉強始めたんだもん」

「そうだったの? 愛理の成績中学三年で一気に伸びたのはそれだったのね」

「そうだよー。部屋居るから晩ご飯できたら呼んでねー。あ、少し食べてきたから少なめで」

「はいはい」


 私は自分の部屋に行くため階段を上がる。

 家はごく普通の一軒家だと思う。二階建ての小さい庭付きだ。

 私の部屋は二階にある。両親の寝室も二階にあるけど、それはどうでも良いよね。


「うふふ」

 部屋に鞄を投げ飛ばし、勉強机の椅子に座った。

 今日は良いことが沢山あったなぁ。明日も結紀お姉ちゃんと一緒に過ごせたらいいな。

 中学生の時、最後に撮ったお姉ちゃんとの写真。

 高校の制服のお姉ちゃんと中学の制服の私が写っている写真を眺めながら私は思いを巡らせる。


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