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決別

「そ、草間君……」

 どうしてここに居るのか分からない。

 そんな表情をお姉ちゃんはしているのだろう。

「結紀ちゃん、ど、どうしてここに……?」

 アイツも狼狽えている様だ。お姉ちゃんと同様に、どうしてここに行くか聞かされていなかったのかも知れない。声が裏返っている。

「私は、愛理と一緒に……。そ、そうだ。草間君に会ったら言いたい事があったの」

 お姉ちゃんは明るく振る舞おうとしたのか、途中から声を大きめに発言している。その声は震えていた。

「……な、なに?」

「私は、……葉月結紀は、小春草間の事が今でも好きです。別れようと送ったあのメッセージは手違いで、それから連絡取れなかったのも事情があって……本当にごめんなさい」

 お姉ちゃん頭を下げた。

「…………」

 アイツは黙り込んでいる。

 私はお姉ちゃんの言葉を聞き内心では驚いたが、声には出さない。ここで何が起ころうと私は手を出さないと決めているのだ。

 そう、お姉ちゃんとアイツがよりを戻しても。

 よりを戻したということは私の作戦は失敗に終わったという訳である。その時、二人の絆は強くなってしまうかもしれないが、また新たな作戦を立て別れさせるつもりだ。

 なので、ここはお姉ちゃんとアイツのみの話合いをしてもらい、私と美那子先輩は見守るという話を美那子先輩にもしている。

「……このくらいじゃ許されないわよね」

 お姉ちゃんはそう言うと膝を床につき頭を下げる。

 アイツにそこまでしなくていい。そう言いたいのを私はグッと堪えた。

「本当にごめんなさい」

 私がやった事なのに、私の事は一切言わずにただただ謝るお姉ちゃんを見ていて、私はお姉ちゃんを謝らせてしまった罪悪感と同時に、私の事を大切にしてくれているのだと感激を受けた。

「あ、あの、頭上げて結紀ちゃん……いや、葉月さん」

 アイツはお姉ちゃんの呼び方を変える。

 お姉ちゃんはアイツの言葉を聞き、体をビクッと揺らすが頭をまだ上げていない。

「僕はね、葉月さんにチャットで別れようと言われた時、凄く悲しくなったんだよ。電話やチャットをしたけど全部無視されたしね。それからはもう家から出たくもなくて、何もする気が起きなくて……喪失感ってやつかな。それを感じていたんだ」

 アイツは話しながらお姉ちゃんの前に来て正座をした。

 お姉ちゃんは動く気配がない。

「最初光也に相談したら、励ましのメッセージが来て、これからどうなるのかはお前の意思次第だ。って来たんだけどね、僕は何もできなかった。今更だけど、二ヶ月間付き合っていても葉月さんの家の場所も知らなかったんだ。調べようとすれば出来たかもしれない。でも出来なかった。小河原さんや、さと、美那子さんからもメッセージが来て、特に美那子さんに僕は救われたんだ。そして、僕は気付いてしまった」

 アイツは一呼吸置いた。

「……僕は美那子さんに恋をしたんだ」

 アイツはそう言い放った。

 ドアの向こうで顔を赤くした美那子先輩が姿を消す。きっと恥ずかしくなって横に移動したのだろう。

「自分勝手だとも思う。でも、ごめん葉月さん」

「……ううん。わ、私も自分勝手だったから……」

「ごめん……じゃあ、また」

「……うん」

 アイツは生徒会室から出る。

 バタン、とドアが閉まった。

「……お姉ちゃん……」

 私はお姉ちゃんに近づく。

 お姉ちゃんは頭を下げた状態から、うずくまり体を震わしていた。

 私はお姉ちゃんに後ろから覆いかぶさる様にして抱きしめた。



「……ありがとう愛理」

 三十分程してお姉ちゃんが口を開いた。

 私は無言で離れ、お姉ちゃんの正面に回る。

「えへへ。愛理、こんな私でもこれから一緒に居てくれる?」

 お姉ちゃんは、泣いて赤くなっている顔を笑わせて私に問いかけてくる。

「勿論だよ」

 私はお姉ちゃんの首回りに、正面から再度抱き付いた。

「ありがとう。一旦ソファーに行かない?」

「うん」

 お姉ちゃんから離れソファーに座る。

 お姉ちゃんは私の横に座って来た。

「あ、ごめんね、お茶かかっちゃったわね」

 お姉ちゃんはハンカチを取り出して、私のスカートのシミが付いている部分をポンポンと叩きながら拭いてくれた。

「このくらい干せば大丈夫だよ」

「ごめんね……」

 目の前の、机の上のお茶が散乱した状態を見ながらお姉ちゃんは固まっていた。

「いいよ」

 私は軽く笑いながらテーブルん片付けを始めた。


「……私、今から本当の事を言うわね。聞いてくれる?」

 私がテーブルの上を片付けていると、唐突にお姉ちゃんは言う。

「う、うん」

 何だろう。

 もしかして、私のせいでアイツと別れることになったから嫌い! とか言われちゃうのかな。そうだったらイヤだなぁ。……でも、これからまた挽回していけばいいか。

 などと私は考えていたのだが、お姉ちゃんは、「これで私に事が嫌いになるかもしれないけど」と、前置きをしたのだ。

 お姉ちゃんが私を、じゃなくて、お姉ちゃんを私が? そんなことありえない。いいでしょう、話を聞きましょう!

「私ね、最初から草間く、……小春君の事は諦めていなかったの。愛理が別れたって言った時ね、本当に落ち込んで愛理を恨んだわ。でも、それを声にすると何されるか分からなかったから、愛理を刺激しない様に黙っていたの」

「……私が聞いた時、曖昧な返事だったのもそういう理由だったんだ」

「うん。他にも一度私が階段に居たことあったわよね」

「あれは驚いたよ。そんなに漏れそうだったのかと思って、我慢させて悪かったと反省したんだよ」

 トイレにお姉ちゃんを連れて行ってから買い物行けば良かったと思ったほどだ。

「あれはね、本当はトイレじゃなかったのよ」

「えっ!?」

「よくテレビとかであるじゃない、そうやって拘束を緩めさせて逃走したりするシーンが」

 ……確かに。今思えば確かにそうだ。

「それの真似をやっていたのよ。愛理が出て行ってから部屋を探してスマホで助けを呼ぼうとしたの。でも、スマホが見つからなかったから、とにかく外に出ようと思って階段に向かったわ。そしたら階段で滑って少し落ちちゃってね。怪我はなかったから、体勢を立て直して降りようとしたら愛理が帰って来たのよ。……あと、最初の日の夜、私の息が上がっていたときがあったでしょ」

 ……お父さんが邪魔で歯ブラシが取れなく戻ったときの事かな。

「うん」

「その時は、腕の紐を取ろうと動いていたのよ。結局取れずに、動き疲れたところで愛理が戻って来たんだけどね」

 他にも色々あるわ、とお姉ちゃんは言う。

「でもね、愛理の事を恨んだと言ってもね、心の底からは恨むことはできなかった。正直に言うと、拘束を解いてくれてからは、逃げ出そうと思えば逃げられたんだと思う。でも、それは出来なかった」

「……どうして?」

「私は、昔からの知り合いで、友達、幼馴染、親友だと思っている愛理の事が好きだから。もちろん親友としてね。だからかしらね……。一緒にお風呂入ったときに愛理とのこんな関係も、閉じ込められたことは別として、良いと思ってしまったのだと思うわ……」

 お姉ちゃんは自分でも良く分かっていない様であった。

「そう……」

 親友としてという部分が恋愛対象としてという形だったら手放しで喜んでいたが、親友となると、嬉しいけど私の目標とは違った。

 短い沈黙が訪れる。


「……小春君と私はもう駄目みたいね。調子が良いかもしれないけど……愛理に嫌われない様に嘘をついていた卑怯者だけど、こんな私を見捨てないでくれたら嬉しいな」

 沈黙を破ったお姉ちゃんは苦笑をもらす。

 私だって薄々は感づいていたんだ。お姉ちゃんはアイツの事を諦めてはいないことを。でも、そんなことは気にせず接していた。そうであってほしくないと思って接していたのだ。

 卑怯者と自分で言っているけれど、私の方がよっぽどだと思う。お姉ちゃんを勝手に部屋に閉じ込めていたんだから。

 私がそんな事をしてるにもかかわらず、お姉ちゃんは私と居たいと言ってくれた。アイツに拒絶されて、すがる人が私しか居なかったからだとしても、自分を部屋に閉じ込めた張本人にそんなこと言うのだろうか。

 自分で言うのも何だが、私もお姉ちゃんもどこか頭のネジが数本抜けているのかも知れない。

 私だって周りと違う感情を持っていておかしいと自覚はしている。けど、それでいいと昔に受け入れてたのだ。

 お姉ちゃんの場合は、今そうなったのかも知れないが。

 何はともあれ、この状況は私の望んでいた状況だ。

 私はお姉ちゃんの手をそっと握る。

「当たり前だよ。これからもずっと、ずーっと一緒に居ようね」

「……愛理……」

「お姉ちゃん……」

 私はお姉ちゃんの顔に自分の顔を近づける。

 そのままソファーのお姉ちゃんを押し倒しながら柔らかいピンク色の唇を奪った。

 その時、お姉ちゃんからの抵抗はない。


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