再会
『――以上で私の話しは終わります。入学できたからと遊んでばかりいたら勉強についていけなくなります。そこだけは気を付けましょう』
『生徒会長、ありがとうございました。続きまして校長先生のお話――』
四月、入学式。
新品の制服に包まれている人達が体育館に集まっていた。かく言う私もその一人。
そう、私は無事に彼女が居る高校に受かったのだ。
男子は紺のブレザー。女子も紺のブレザー。女子はリボンではなくネクタイだ。その色は緑。確か一つ上が青で、二つ上が赤だったと思う。
さっきから頭が禿げかけているおじさんが体育館のステージの上で何か喋っている。私はそんな言葉、耳に入らない。私はさっきステージに立っていた上級生に目を奪われていた。
――彼女だ。
私が追いかけていた彼女がスピーチをしていたのだ。
一年かけてこの学校に入り、これから探さなくてはと思っていた矢先の出来事だった。
……これはきっと神様が私にくれたご褒美……。
□□□
入学式が終わり、決められたクラスに行く。
クラスが何処だろうと私には関係ない。クラスメイトと仲良くする気もない。彼女と一緒のクラスならば、他にも友好関係を気づいたかたもしれない。しかし、一緒になることは無いのだから……。
「皆、席についたなー。入学式お疲れ様。入学おめでとう!」
先生らしき若い男が教卓で何か言っている。
……あぁ、早く終わらないかな。
「では、自己紹介からだ。窓側からでいいか?」
「えー」
窓側に居る女子生徒は嫌そうな声をあげた。
座席は窓側から女子、男子、女子、男子と交互になっている。クラスの人数は約30人、6列の縦5、6人だ。
「そうか。じゃあ廊下側から」
「じゃんけんで決めれば良いじゃないっすか?」
進学校では珍しいかもしれないヤンキーぶった男子生徒が先生に提案している。
「そうか……じゃあ一番前の席の人、立ってじゃんけんだ。勝った順に列の前から自己紹介な」
そうして、じゃんけんが始まる。
私はじゃんけんに興味がなく、順番なんてどうでもよかった。結局は自己紹介するのだから。
窓の外を眺めながら一連の話を聞き流す。ちなみに私の席は窓側の一番後ろだ。
「あー、勝っちゃった」
私の列の女子生徒が勝ったようだ。
「じゃあ一番目はその列な。次を決めるぞー」
残った人達でまたじゃんけんが始まる。
「ごめんねー」
女子生徒は列の後ろに謝りを入れ、他の人は、「いいよいいよ」とか、「大丈夫だよ」などと言っている。ほとんどの人は初対面なのだ、文句は言いたくても言えないのだろう。
私はそれに反応することなく、また窓の外を眺める。
じゃんけんも終わり、自己紹介が始まっている。
「次ー、き、衣更月愛理……でいいのか?」
私が呼ばれた。
「はい、合ってます。衣類の衣、さらにの更、月と書いてきさらぎと読みます」
立ち上がりそれだけ言って私は椅子に座る。
「お、終わりか? 他にないのか? 好きな食べ物とか好きなスポーツとか……」
「特に無いです」
ここで生徒会長が好きですと言って競争率を上げるようなヘマはしない。
「そ、そうか。じゃあ次! ……どこの列だっけ?」
どっと教室が沸く。
今のが受けたようだ。どこが面白いんだか……。
『キーンコーンカーンコーン』
「今日はここまでだな。明日は昼以降も授業あるから弁当なり財布なり持ってこいよー。では……君、号令お願い」
先生の前に居た子が指されている。可哀想に。
「は、はい。起立! 気を付け、礼」
ありがとうございましたー。
クラスほぼ全員が同時に挨拶をした。
やっと終わった。今日は入学式と一時間だけのホームルームで終わった。今は昼前、十一時だ。
私はすぐさま帰りの支度をする。行きたい所があるのだ。
「衣更月さん」
前の席の子が話しかけてくる。
「何?」
「これから皆で遊び行こうという話になっているんだけど、一緒にどう?」
「行かない」
一言だけ言って教室を出る。
「何あれ、感じ悪いね」
「もう誘わなくて良くない?」
「そうだねー」
クラスメイトの話し声も右から左に抜けていった。
「ついに……ついにこの時が来た」
生徒会室の前まで行き、ドアに手をかける。
ここを開ければ生徒会長と……彼女と会える。
そう思うと緊張でドアを開けることができない。
彼女は私を待っていてくれているだろうか。約一年も会わなかったのだ、忘れられているかもしれない。
そんなことを考えると気持ちが暗くなる。
「こんにちは。生徒会に何か用事?」
「!?」
後ろから声をかけられた。
こ、この声は!
「お、お姉ちゃん……」
そこには体育館のステージで見た私の最愛の人。葉月結紀が立っていた。
「安いお茶しかなくてごめんね。愛理が来るって分かっていたら、もっと良いお茶か紅茶を準備しておいたのに。はい、口に合うか分からないけど」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
私は生徒会室の中に居た。入口で結紀お姉ちゃんに会った私は、そのまま生徒会室に招かれてしまった。
生徒会室に入ったとき、中には誰も居なかった。
もし、お姉ちゃんが来る前に生徒会室に入っていたのなら誰も居なかったということになる。その考えは私になかった。だから、心の準備を生徒会室前で数十分していたのは怪我の功名というやつかも知れない。
まだ心の準備は終わっていなかったけど、会えば何とかなるものだった。
ソファーに座ると前のテーブルにお茶を置かれる。
生徒会室は入ってすぐに二つのソファーと、ソファーに挟まれた長方形のテーブル。部屋の右奥にはカーテンで仕切られた給湯室らしい場所があった。お姉ちゃんはそこでお茶を入れてきてくれた様だ。左奥には机が数脚並び、パソコンが置いてある机もある。作業はそっちでするのだろう。
「ふふ、そんな固くならなくて良いのよ? さっきお姉ちゃんって呼んでくれて嬉しかったわ。一年も会わなかったんだもの、電話もメールも返してくれないから忘れられてると思ってた」
何も乗っていないトレーを持って、給湯室に向かいながらお姉ちゃんは言う。
「そんなことないです!! 私が結紀お姉ちゃんの事忘れるわけがないでしょ! ……連絡を返さなかったのは……話しちゃうといつでも会えると思って勉強しなくなりそうだったから……ごめんなさい」
「そうだったの。ありがとう、私のことを覚えていてくれて」
お姉ちゃんは給湯室から戻って来たかと思うと、私の首周りに後ろから抱き付いてきた。
「きゃっ!?」
いきなりの事で驚いて小さい悲鳴を上げてしまった。
「あっごめん。嫌だった?」
そんな事はない。むしろ嬉しい。ずっとしてもらっていたい。
「あっああ、だだだいひゅうふ……」
嬉しさのあまり呂律が回らなくなってしまった。これじゃあ誤解されてしまう。
「久しぶりで嬉しくてついね。もうしないわ」
お姉ちゃんそう言うと私の首元から腕を外した。
「あぁ……」
お姉ちゃんは私と反対のソファーに座り向かい合う形になる。
お姉ちゃんは容姿端麗で、綺麗な黒髪。髪型はハーフアップで、紺の髪留めを使い後ろ髪を留めている、いわゆるお嬢様結びと言われる様な型。髪を下ろすと胸くらいまでありそうだ。身長も女子にしては高く、私と顔ひとつ分くらい違う。体つきはスマートで、胸は大きいわけではないが、かと言って小さくもない。理想の体型だ。
胸が貧しい私にもそのくらいあったらな……。
それにしてもお姉ちゃんは一年前より可愛くなった気がする。一年前も綺麗で可愛かったけど更にパワーアップしていた。
「それにしても良く頑張ったわね。お祝いにどこかに食べ行きましょう。勿論奢るわ」
「本当ですか!? 是非行きます!!」
「愛理、昔みたいにタメ口でいいわよ。何か敬語使われるとくすぐったいわ」
「そうです……そう? 久しぶりで私も緊張しちゃって」
「分かるわ。私も入口に立っているのが見えた時、もしかしてと思ってドキドキしちゃったもの」
お姉ちゃんが私にドキドキ? 本当なら嬉しい!
「わ、私もお姉ちゃんが生徒会長なんてびっくりしたよ。いきなりステージで話しているんだもん」
「ふふ、驚いた? この学校、進学に力を入れているのは知っているわよね」
「うん」
「だから生徒会は二年生で三年生はもう引退。受験勉強なのよ。他の部活や委員会もそうだったと思うわ。生徒会長なんてやる気なかったんだけど、推薦で選ばれちゃってね。去年、生徒会のお手伝いをしたときの評価が高かったみたいで、先輩達から選ばれてしまったの。だからやるだけやってみようと思ったという事よ」
「さすがお姉ちゃんだね」
「ふふ、褒めても何も出ないわよ。それより、愛理は良かったの?」
「何が?」
「本当にこの学校にき――」
「こんちはー」
突然ドアが開き見知らぬ男が入って来る。ネクタイの色からして、お姉ちゃんと同じ二年生だ。
「あら、今日は仕事無いわよ?」
「あらま。じゃ帰ります……ってその子誰です!? 新しいメンバー?」
「違うわ。私の後輩、近所の子なの。久しぶりに会ったからお話ししてただけ」
「そうっすか。俺は荒野光也ね。よろしく」
「はぁ」
私は空返事を返す。
早くどこかに行ってくれないかな。せっかくのお姉ちゃんとの時間が……。
「ほら愛理も困ってるから用が無いなら帰りなさい」
「はぁーい。じゃ会長また明日」
そうして荒野とかいう人は部屋から姿を消した。
「さて、私達も帰りましょうか。早速だけどお昼奢るわ。と言っても高いの駄目よ」
そう言ってお姉ちゃんは茶目っ気にウィンクをしてきたのだった。
主人公の容姿
整っていて愛嬌のある顔立ち。
身長は150センチ後半、スレンダーな体つき。
髪型
セミショート。前髪をヘアピンで留めている。
こんな感じの子を想像(妄想?)しながら書いております。