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お泊り

「…………」

 左側を下にして寝っ転がっているのは分かるが、視界がぼやけている。

 目に生暖かいものが溜まっているのも分かった。更に顔のほんの一部、両目から左に落ちる感じの場所が冷えている様な気がする。まるで涙が通った痕が冷えたかの様に。

 ……私どうしたんだっけ?

 目をこすろうと左腕を動かすが動かない。右腕には何かが乗っていたみたいだが、少し動かしたら自由に動くようになった。

 私はその手で目をこする。

 視界をクリアにするために。

「んっ……あっ」

 ぼやけた視界から回復したと思い目を開けると、お姉ちゃんが目の前で寝ていた。

 私の方を向いて、私の左腕を枕代わりにして。

 私の右腕はお姉ちゃんの左腕の下にあった様だ。

「…………」

 お姉ちゃん。

 自由に動く手でお姉ちゃんの髪を撫でる。頭を撫でる。頬を撫でる。

 こんなにも好きなのに、どうして昨日はあんなことになったんだろう。

 気持ちよさそうに寝ているお姉ちゃんの顔を見続ける。

 ……お姉ちゃん。

 私は無言でお姉ちゃんに顔を近づける。



 □□□



「えへへ、お姉ちゃんおはよ!」

 私はお姉ちゃんの寝顔を見続けていた。時計は見ていないからどのくらいの時間が経ったかは分からない。数十分かも知れないし、数時間かも知れない。でもそんな些細な事、私にはどうでも良い。

「お、おはよう……」

「お姉ちゃん、今日からうちに泊まる事になったから自由にして大丈夫だよ」

「えっ、……え?」

 しっかり理解できていない様だ。起きてすぐならしょうがない。

「お姉ちゃんはうちにお泊りに今日から来るという事になってるから、もうこそこそしなくても大丈夫なの」

「……トイレも行けるの?」

「勿論。お姉ちゃんの洋服も買ってあるからね」

「わ、分かったわ」

 明るめの声で返事をしてくれる。

「じゃあリビングに行こっか」

「あ、その、先に着替えたいわ」

「分かった」

 私はまだ動かない。

「愛理?」

「うん?」

「よ、洋服を……」

「うん」

 まだ動かない。いや、動けない。

「あっ!? ごめんね」

 お姉ちゃんは気付いてくれた、私の腕を枕にしていたことに。

「お姉ちゃんなら私の体のどこでも枕にしてくれても良いよ?」

 苦笑いを返された私は、体を起こし買い物袋を漁る。

「下着はこれで、服はこれで良い?」

 私は純白の下着上下セットと、淡いピンクの膝上ワンピースを渡す。ネグリジェと似たような色のやつだ。

「こ、この服高かったんじゃない?」

 受け取ったお姉ちゃんはそんなことを言うが、お金は使うことが無かったため結構貯まっているので問題はない。事実、私が普段買って着ている服より高いけどね。

「そんなこと気にしなくて大丈夫。気に入ってくれたなら、また着てくれるだけで私は満足なんだよ」

「あ、ありがとう」

「いえいえ、さぁ着てみて。似合うと思うから」

 お姉ちゃんのために考えて買った服だもの。似合ってなかったら返品だ! ……そして今度はお姉ちゃんと一緒に行って買ってあげる……というのもありだなぁ。

 ごそごそと着替えているお姉ちゃんをまじまじと見ながら待つ。

 お姉ちゃんはこの2日間で、だいぶ羞恥心が薄れたと思う。普通はこんな見られていたら気にするだろうに、すました顔で着替えている。私はお姉ちゃんならどこを見られても、いつまで見られてても良いけどね。

「で、出来たわ」

 どうかしら、とお姉ちゃんは私にひらひらと体を動かし聞いてくる。

 ワンピースはノースリーブの様だが袖がある。生地が肩の部分は繋がっていないが半袖である。したがって首回りと肩から腕の部分は肌が見えている。全体的にはゆったりしている服だ。

「似合ってるよ! お姉ちゃん可愛い」

 飛びつきたい衝動を抑え、本心からの絶賛。

「そ、そうかしら」

「そうだよ。一枚撮っても良い?」

「この格好なら良いわよ」

「やったー。……あれ? スマホどこにやったっけ……」

 昨日最後に触ったのはご飯を食べる前。……それから私はどこに置いたのだ?

 ベッドの上を、布団をどかして探すが見つからない。ヘッドボードにもない。

「机の上は?」

 お姉ちゃんの提案で勉強机も見るが見つからない。

「……見つかったら撮っても良い?」

 私は出てくるまで待つことにした。そのうち見つかるだろう。

「分かったわ」

「今度こそ、朝ご飯を食べに行こう」



 リビング向かう。その前に一つ寄り道。

 私の部屋からお姉ちゃんの靴を持っていき玄関に置く。そしてリビングに向かう。

 リビングにはお母さんからの手紙が置いてあった。

「『おはよう、ご飯は自分でやってください。あと、家事もお願い。結紀ちゃんによろしく言っといて。』と、おばさんからの連絡だわ」

 先に来ていたお姉ちゃんが読み上げてくれた。

「まずはご飯食べてからかにしよう」

 時計の針は十時を回ったところだ。

「お昼も近いし軽めのものでいいわね」

「うん。パン焼くからそれでいい?」

「トーストね。もちろん大丈夫」


 遅めの朝食をさっと終わらせ家事に移る。

 家事といってもやる事は昨日とほとんど一緒だ。違うのは洗濯物を干すのもあることだろうか。お姉ちゃんと分担してやるから、その分早く終わると思うけど。

「あっ!」

 お姉ちゃんが思い出したかのように声を出す。

「どうしたの?」

「あ、いや、ちょっと思い出したことがあってね。気にしなくていいわ」

 私に隠れる様にして手を口に当てている。

「そう?」

「歯磨きしてから始めましょうか」

 息を気にしていたみたいだ。

 そういえば昨日は歯を磨かずに寝ちゃったんだった。気付いたら寝てたもんね……。

 私もお姉ちゃんも黙っているけど、というか私が話をする機会をわざとなくしたんだけど、昨日の話もちゃんと終わっていない。しっかり話しておいた方が良いよね……? 私はお姉ちゃんと居たいだけなのだから……。

 お姉ちゃんは先に洗面所に行っていた。私も後から行き歯を磨く。

「お姉ちゃん、風呂掃除と洗濯物を干すのどっちがいい?」

 話すことは後回しにして掃除の話をする。

「どっちでもいいわよ」

 私もどっちでも良かった。

「うーん……あっ! 私、洗濯物やるね」

 考えた結果、洗濯物には私の服だけでなく、親の服もある。それをお姉ちゃんが干すのも何か気を使わせちゃうかもしれない。

「じゃあ私が風呂掃除ね」

「うんっ、お願い。スポンジと洗剤はあそこにあるから」

 私は洗面所から風呂場のドアを開け場所を指さす。

「了解よ」


 口を濯ぎ行動開始。

 私は洗濯機から服を取り出し洗濯籠に入れる。

 お姉ちゃんは風呂場へと入って行った。

「あ、お姉ちゃん。ここにあるタオル使っていいからね」

「はーい」

 お姉ちゃんは私の方をを見て返事をする。

「じゃあ庭に居るからー」

 私は洗濯籠を持ち庭に向かう。

 リビングに着き窓を開ける。

「ん?」

 洗濯籠を置いたとき右のパジャマのズボンに何かが引っかかった。

 気になったので、右手でポンポンとズボンの上から触れる。

「あっ!」

 スマホがポケットに入っていた。

 こんな所に入っていたのか。全く気付かなかった。

 電源を付けるとメッセージありの文字。

 もしかして美那子先輩から!!

 緊急の用だったらヤバい。それに、私から返信が無くて行動できなかったと言われたら考えた策略が破綻してしまう。

 急いでチャットを開く。


美那子先輩 『小春から連絡はなかったが、荒野が家の場所知ってる様だから行くことにする。』

美那子先輩 『私も考えたんだ。』

美那子先輩 『けど、愛理の言うと通り小春を励ましてくる。私もこれが一番いい方法だと思うから。』


 このメッセージは今日の朝八時過ぎにきていた。

 質問じゃなくて良かった。もう先輩はアイツに家に行ってるよね……下手にスマホを鳴らさない方がいい、邪魔はしたくないし。

 私はそう考え、スマホをポケットにしまい直して洗濯物干しに取りかかった。


良いサブタイトル名がが思いつきませんでした……。

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