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誘導

 数分して、結紀お姉ちゃんが落ち着きを取り戻したので、私はさっきの条件を復唱してもらう。

「一つ、愛理が許可しない限りこの部屋から出ない。一つ、大声を出さない。一つ、逃げない、助けを呼ばない。一つ、愛理とイチャラブする。以上四つ。条件は増える事も有り。で良いのよね」

 さすがお姉ちゃん、分からないと言っておきながら、私がちゃんと喋れてないところまできっちり理解していた。

「うん。約束ね」

 指切りをしようと私は小指を出した。

「分かったわ。約束する」

 お姉ちゃんの小指と私の小指を絡めた。



 □□□



 日は暮れ、夜となる。

 お母さんはもう帰って来ている。今はお風呂に入っていると思う。

 お父さんはあと一時間ぐらいしたら帰って来るだろう。

「あ、愛理……」

 私の持っているマンガを読んでいたお姉ちゃんはモジモジとしながら私を呼ぶ。

「どうしたの?」

 お姉ちゃんの横でスマホをいじっていた私はお姉ちゃんに顔を向けた。

「……と、トイレに行きたい」

 そういえばお姉ちゃん下着付けてない。完全に忘れていた。

「ご、ごめんね。忘れてた」

 私は立ち上がり、おむつを手に取りお姉ちゃんに渡す。

「お母さんがもう帰って来ちゃったから、これ付けて」

 お姉ちゃんは明らかに嫌そうな顔をした。

「明日からはもう付けなくて大丈夫だから。今日で最後。ね、漏らすより良いと思うんだ」

「で、でもこれ、濡れたりすると気持ち悪いのよ」

「すぐ新しいのに交換すれば大丈夫。防臭の袋もあるからにおいも気にしなくていいよ。あっ、自分ではくのが嫌ならはかしてあげる。勿論、交換もするよ」

「あ、え、じ、自分でやるわ。ありがと愛理」

 そう言い私からおむつを取り、モソモソとお姉ちゃんは動きだした。

 私はスマホに視線を落とす。

 今は美那子先輩とチャットをしていた、横に居るお姉ちゃんに見えない様に。

 お姉ちゃんと仲直り出来たことを話し、アイツと別れたことをお姉ちゃんの口から直接聞いたということも。


『今がチャンスなんですよ。少し卑怯かもしれないですが、気持ちを紛らわすように小春先輩をデートに誘ったりするのはどうです?』


美那子先輩 『今、小春の奴引きこもってるみたいなんだ。』


『連絡したら返事は返ってくるんですよね?』


美那子先輩 『ああ。』

美那子先輩 『でも、何て言えばいいのか・・・』


『そんなの、遊びに行きましょうと言えば良いじゃないですか』


美那子先輩 『もし、断られてしまったら。』


『断られても、直接家に行っちゃえば良いじゃないですか。あ、家の場所知っていればですけど』


美那子先輩 『知らない。』


『…荒野先輩が知ってたりしないですかね?』


美那子先輩 『成程。』

美那子先輩 『聞いてみる。』


『はい、あまりお役に立てず、すいません。応援してます』


美那子先輩 『ありがとう。』


 ふぅ、アイツの家を知っていれば良かったのだけど……もしかしてお姉ちゃんが知っているかもしれない!

 おむつをはいて脱いではいて、とやっていたお姉ちゃんがひと段落したようで、私の隣にまた寝転がってマンガを読み始めていた。 

 ……駄目。お姉ちゃんに聞いたら、理由も言わなければいけなくなってしまうと思う。それは出来ない。アイツにお姉ちゃんとの未練を切ってほしいが、お姉ちゃんには今はアイツの事を思い出させたくない。

 アイツが断らないことを祈ろう。そして、断られたとしても荒野先輩が知っていることを……。

「愛理ー、ごはんよー」

 お母さんの呼ぶ声が。

「はーい! 下、行ってくるね。お姉ちゃんのご飯も持ってくるから」

「分かったわ」

 もう何も言わなくても大丈夫よね。

 私はスマホをポケットに入れ、リビングへと向かった。



 リビングにはお父さんも居た。そして、お父さんとお母さんはもう食べ始めていた。

「いただきまーす」

 席に着き、私も食べ始める。

「明日さ」

 私は食事中に一言。

「ん?」

「何だ?」

 二人は同時に私の方を見て言葉を待っている。

「結紀お姉ちゃんが泊まりに来るんだけど良い?」

「結紀……お姉ちゃん? ……ああ! 母さんがずっと前話してくれた子か。昔から仲の良かった子だな」

「うん」

 お父さんはお姉ちゃんの記憶が曖昧なのかうろ覚えみたいだ。

「いいわよ。お布団持っていかなきゃね」

 お母さんはお泊りの許可をしてくれた。これで、お姉ちゃんが家の中をうろうろ出来る様になる。

「布団は要らないよ。一緒にベッドで大丈夫だと思う」

「そう。いつ頃来るの?」

「明日の午前中かな」

「明日は俺居ないぞ」

「お父さんは居ても意味ないよ」

「ガーン!! む、娘に要らないと……俺の存在は一体……」

 何か言っているお父さんは無視しよう。

「私も居ないわ。まぁ、結紀ちゃんしっかり者だし大丈夫よね」

「うん!」


 食べ終わって食器を台所へ。

 余っていたご飯でおにぎりを二つ握り、飲み物も持ち自分の部屋に行くため二階へと上がった。

 お母さんには夜食と言うと、「夏休みだからといって夜更かしし過ぎないのよ」と注意を受けるが、別に気にしない私である。


「お姉ちゃーん。持って来たよ」

「あ、お帰り。ありがとう」

 まだ横になってマンガを読んでいたお姉ちゃんは、腰を起こしベッドに座る。

「はい、どうぞ」

 お姉ちゃんにおにぎりと飲み物を渡す。

「いただきます」

 手を合わせてお姉ちゃんは食べ始めた。

 そうだ! 美那子先輩にお姉ちゃんのスマホで連絡しなきゃ。


 勉強机に向かい引き出しに手を伸ばす。

 番号を合わせて引き出しからお姉ちゃんのスマホを取り出した。

 お姉ちゃんのスマホにはメールが一件来ていた。それ以外は何も無い。

 私はそのメールを確認した。

 メールはお姉ちゃんのお母さんからのもので、いつ頃帰って来るのかという連絡だ。

 私は、『一週間くらい?』と返し、チャットアプリを開いた。


『決めたわ。五日後に生徒会室で会いましょうと小春君に伝えといてくれる?』


 と、美那子先輩に送った。


美那子 『分かった。』

美那子 『ありがとう』


 はやっ!

 返信は即返ってきた。

 返事は返さずにお姉ちゃんのスマホをまたナンバーロック付きの引き出しにしまい、ベッドに行く。

「愛理、何していたの?」

 お姉ちゃんは一つ目のおにぎりを食べ終えたところだった。

「ううん、特に何もしてないよ」

「……そう」

 お姉ちゃんはそう言い、二つ目のおにぎりを口に咥える。

 私は隣に座った。

 これからは美那子先輩の行動が重要になる。

 先輩……アイツの心を射抜いてお姉ちゃんの事を忘れさせてください。

「ご馳走様でした」

 隣からお姉ちゃんの声。

「お粗末様でした……あっ」

 お姉ちゃんの口元にご飯粒が付いている。お姉ちゃんはそのことに気付いてはいない様だ。

「うん?」

 私がお姉ちゃんを見ていたら、お姉ちゃんは首を傾げる。

「お姉ちゃん」

 私はお姉ちゃんの顔に自分の顔を近づけた。

「愛理?」

 お姉ちゃんは私の行動に戸惑いを見せる。

 そんなことはお構いなしで私はさらに顔を近づける。

「お米が付いてるよ」

 そう囁くと、お姉ちゃんは手で米粒を取ろうと動かすが、私は腕を掴み阻止する。

「私が取ってあげるから。……あむっ」

「ひゃっ!?」

 私はお姉ちゃんの口元の米粒を口で直接食べ取った。

 ふふっ、これ一度やってみたかったんだ。手で取って食べるのも良いけど、直接食べたほうが、愛が大きい気がするしね。

「取れたよ。あれ?」

 お姉ちゃんは硬直していた。

 もしかして嫌だったのかな。

「お、お姉ちゃん、嫌だった……?」

 こういう事の好き嫌いは人それぞれだ。今は私が欲望のままにやってしまったが、お姉ちゃんが嫌だと言うならもう少し控えめにしないと。

「あっ! ううん、違うの。キスされたのかと思ってびっくりしちゃった。ご飯粒取ってくれただけだよね」

「!! じゃあ驚かしてあげるっ!」

「え――っんん!?」

 お姉ちゃんをベッドに押し倒し、唇を自分の唇と重ねた。

 柔らかい感触に体温の温かさがある。更に幸せな感情が私の中に溢れている。これがキスというものなのか。

 私はファーストキスをお姉ちゃんに捧ぐことが出来た。

「……ふへへ。私のファーストキスだよ」

 赤くなっていると思われる顔をお姉ちゃんから離す。

 お姉ちゃんに被さるかの様に両手両足をつき、四つん這いになる。

 名残惜しいがずっとはしていられない。だって息が続かないんだもん。

「……あっ……」

 お姉ちゃんは震えた声を漏らす。

「ど、どうしたの!?」

「……わ、私の、……初めてのキスが……」

 お姉ちゃんもファーストキスだった様だ。アイツに奪われる前に貰う事が出来て良かった。しかも、初めてを2人で共有できるなんて嬉しい限りだ。

「な、何でこんなことしたの? 女同士なのに……」

 目を潤ませながらお姉ちゃんは私を睨んできた。

「あ、え? どうして泣くの!?」

「は、はじめては、すきなひとの、ために、とっておいてたのに……」

 すすり泣きながら話す。

「そ、それじゃ私のことは嫌いなの!?」

 お姉ちゃんは首を横に振る。

「じゃあ好き同士で問題ないじゃん!」

「でも、……女同士なんて、変、だわ」

 その言葉に私は苛立ちを覚えた。

「そんなこと言われたら私のこの気持ちはどうなるの!? 変なの? なら、どうすればいいのよ!!」

「……知らない……」

「無責任だよ! 私だって!! 私だってね――――!!?」

 突然ドアをノックする音が聞こえた。

 私は膝立ちとなりドアに視線を向ける。

「愛理? 叫んでどうかしたの?」

「あっ!? お母さん。大丈夫、ちょっと電話で喧嘩しちゃっただけだから」

「そう。喧嘩も良いけどしっかり仲直りするのよ。友達は一生の財産という言葉もあるんだからね」

「……うん」

「分かったなら良いわ。おやすみ愛理」

 部屋の外でドアの閉まる音がする。お母さんは寝室に行った様だ。

 お母さんとお父さんには中学に入った頃から私の部屋に入らないでと言っていて、それを守ってくれている。だから、私の部屋の現状には気づいていない。それに、今入られたら危なかった。お姉ちゃんは明日お泊りの予定なのだから。

 この事には安堵するが、胸のモヤモヤは取れない。

「……お姉ちゃん」

 私の下でお姉ちゃんは声もなく涙を流している。

 私はお姉ちゃんに乗っかる様に体を倒し、首に両腕を回し抱き付いた。

「……お姉ちゃん。なら私はどうすれば良いの…………」

 返答はない。無言な時間が過ぎていく。


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