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決意

 お風呂で先に音を上げたのは私だ。

 そう、のぼせてしまったのだ。

 私は我慢できなくなり、「先に上がるね」と言うと、お姉ちゃんも上がると言って一緒にお風呂から出た。

 そうして、今は一階の台所でご飯の準備をしている。お姉ちゃんと一緒に。

 お姉ちゃんは、淡いピンクのフリル付きのネグリジェを着ている。半袖で下の丈は膝より下だ。

 これは、今日買い物に行ったとき買ったものだ。他にも外服も合わせて数着お姉ちゃん用に買ってきている。本当は偶然見つけたラップタオルを着てもらおうと思っていた。その方が手錠を付けたとき着替えが楽だと考えたのだ。

 でも、リビングに居てその格好は流石に嫌だろうと思いネグリジェを着てもらった。

 下着は着けていない。買って来てはいるが何も言わなかったら、お姉ちゃんも何も言わずにネグリジェを着てくれたのだ。


「愛理、料理上手なのね」

 食材を切っているとお姉ちゃんがそう言ってくる。お姉ちゃんにはパスタを茹でているお鍋を見てもらっていた。

 見ていなくても大丈夫だとは思うけど、お姉ちゃんも何か手伝いたいと言ってくれたのでお願いしたのだ。

「そう? 結構作ってるからかな」

「私もこの前料理を始めたのだけど、全然上手に行かなくて……」

 誰のために始めたのは聞かない。

 いや、聞きたくない。

「料理は慣れだよ。やってれば出来る様になるよ」

「そうかしら」

「そうだよ。私も最初は出来なかったもん」

「……私も出来る様になりたいわね」

「出来なくても私が毎日作ってあげるよ」

「それじゃあ愛理に申し訳ないでしょ」

 お姉ちゃんは、毎日、という所を否定もせずに、むしろ肯定した上で答えてくれた気がする。

「私は美味しく食べてくれれば嬉しいのに」

 嬉しさを隠して私は返答した。

「私も愛理に美味しいって食べてもらいたいわ」

 ――ズキューンッ!

「かはっ!?」

 食材を切っていた腕を止め、包丁を置いてから膝を着く。

「ど、どうしたの! 大丈夫!? もしかして手切っちゃった!!?」

 お姉ちゃんも腰を落とし、心配そうに私の手を触っていた。

「大丈夫……き、キュン死とは……こう、やってなるものなのね…………」

「あ、愛理!」

 私はお姉ちゃんの方に寄り掛かるように倒れた。

「本当にどうしたの!?」

 お姉ちゃんは私を受け止めてくれる。

「分かってるくせに。……お姉ちゃん、大好きっ」

 私は寄り掛かった状態からお姉ちゃんに抱き付いた。



「さっきの事だけど、いつから芝居だって分かったの?」

 お姉ちゃんに抱き付いた後、しっかり料理を完成させて、今から食べ始めたところだ。

 作った料理はナポリタンスパゲッティ。手軽に作れて美味しいから私は好きだ。お姉ちゃんの口に合えばいいのだけど。

「んっ! 美味しいわ」

「ほんと!? 良かったぁ」

 愛情を込めて作ったかいがあったよ。

「質問の答えはね、最初は驚いたけど、愛理が倒れ掛かって来たとき体重をあまりかけないでくれたでしょ? だからよ」

 お姉ちゃんは食べる手を一旦止めて答えてくれた。

 確かに、私は全体重をかけなかったが、それだけで分かるものなのだろうか?

「分かるわよ。何年一緒に居たと思ってるの。一年の溝くらいすぐに埋まっちゃうんだから」

 なっ!? 喋ってないのに何で分かったの!?

「ふふっ。喋ってないのにどうして分かったの? って顔してるわね」

「ほぇ!!? もしかして、お姉ちゃんはエスパー……なの?」

「そんな訳ないじゃない。前にも言ったと思うわ、愛理は感情が顔に出やすいって。だから分かったのよ」

 そ、それじゃあ今までのたくらみも全部バレて……。

「でも、こんなに正確に分かるのは、今の状況をしっかり把握しているからよ」

 それって、今だけ分かったという事だろうか? 普段は、私の顔を見て喜怒哀楽が分かっても正確な心情は読まれていないという解釈でいいのかな。

「愛理は私にメロメロなのよね?」

「ぶっ!?」

 ちょ、直接攻撃ですとっ! 防御という名の心の準備が間に合わない!!

「私も愛理の事は好きよ」

 ………………もう私は満足です……。

 はっ! いけない。そんなことでお姉ちゃんが逃げ出して、誰かに私の事を言われたら家族会議になってしてしまう。最悪ここには居られなくなるかもしれない。

「早く食べないと覚めちゃうわよ?」

「そ、そうだね」

 お姉ちゃんは何事もなかったかのようにナポリタンを美味しいと食べてくれた。

 ……深読みのしすぎかな?

 ナポリタンは私も美味しいと思った。これはなかなかの出来だ。


 食べを終わるとお姉ちゃんはトイレに行きたいと言う。

 お姉ちゃんに逃げないか聞くと、もちろんと返答してくれた。

 さっきの話は私の考えすぎだと思い、その言葉を信じてお姉ちゃんに許可をして洗い物を始めた。


「ありがとう、愛理。すっきりしたわ」

 お姉ちゃんがリビングに帰って来た。

 約束はちゃんと守ってくれたみたいだ。もう逃げようと考えるのはやめてくれたのかな。

「お帰り、もう終わるからそしたら私の部屋に行こ」

「了解、私も手伝うわ」

 微笑んで私の傍に寄って来てくれた。

「大丈夫、これで最後だから」

 言いながら私は泡のついた皿を洗い流した。

「よし終わったー。じゃあ行こう」

「分かったわ」

 お姉ちゃんと手を取り合い、リビングを後にする。



 私の部屋に戻るとお姉ちゃんは自らベッドに寝転んで手錠を付けられていた時と同じ格好を取った。

「……愛理、付けないの?」

 お姉ちゃんからそう聞いてくる。

「う、うん。今はいいや」

「そう」

 お姉ちゃんは上半身を起こす。

 私はベッドに腰を掛け真剣な眼差しでお姉ちゃんを見た。

 お姉ちゃんに真剣さが伝わったのか何も話さずただ待っている。

 しかし、私は話せなかった。

 今は話せない。でも決めた。五日後。五日後にアイツとお姉ちゃんを会わせる。その時お姉ちゃんの気持ちもはっきりするかも知れない。

 結果がどうなるかは分からない。でも私にとって、美那子先輩にとっても良いようにする努力をしよう!

「お姉ちゃんは手錠付けた方が良い? それとも無い方が良い?」

 私は自分の中で結論が出たので、お姉ちゃんに違うことを聞くことにした。

「えっ!? 真剣に考えていたと思ったらそんな事を考えてくれていたの?」

 お姉ちゃんもこの問いかけは予想外だったようだ。

「ふふふ。まだまだ私の心は表情だけでは読めないよ」

「な、なんか悔しいわね。愛理が良いのなら私は無い方が良いのだけど……」

 遠慮がちにお姉ちゃんは言う。

「分かった。じゃあいくつか条件をのんでくれるならこのままでもいいよ」

「む、無理難題じゃないでしょうね」

 ゴクッとお姉ちゃんの生唾を飲む音が聞こえてくる。

「まず一つ、私が許可しない限りこの部屋から出ない。二つ、大声を出さない。三つ、逃げない、助けを呼ばない。四つ、…………」

「……お、思いつかないで四つ目言っちゃったの?」

 お姉ちゃんが痛い所を突いてくる。

「ち、違うもん! 四つ目は……そう! 四つ目は私とイチャラブすること!!」

「そう。……ふふっ、あ・い・りっ!」

 むぎゅぅ

「ふにゃ!?」

 少し考え込んだお姉ちゃんは、いきなり私に飛びついてきた。

「んー、すりすりー」

 お姉ちゃんは私の頬に自分の頬をこすり合わせてくる。やわらかい肌が私の思考を奪う。

「…………っ!!、おねえいひゃん! じょうへんはふへるほともはるはらね!」

 思考が止まりかけながらも何とか正気を保てた私は言葉を発するが、お姉ちゃんの頬で私の頬が押されてうまく言葉が喋れなかった。

「何言ってるか分からないわよ」

 お姉ちゃんは顔を離し、私の両頬に手を伸ばしてくる。

「お姉ちゃんがほっぺを強く押していたからでしょ!」

「だって愛理の頬すべすべで気持ち良いんだもの」

 両頬をむにゅっと引っ張られる。

「うにゅぅ、だはらってへっぱることないへしょ」

「ふふふ。愛理ー」

「きゃぁ」

 私はお姉ちゃんに抱かれて後ろに倒される。

 お姉ちゃんのテンションが高い! どうしたんだろう?

 私はそのままお姉ちゃんにされるがまま撫で回された。

 勿論、嫌な訳がないっ!!



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