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お風呂

「えぇ!?」

 私は、驚くお姉ちゃんの動きを制限していた紐を取った。

 お風呂は掃除した後に沸かしたから、もう沸いているはずだ。

「え!? 愛理、本当にいいの?」

 唐突な、何の脈絡もなく言ったんだもん。驚くのは当然。動じなかったら私が驚いていたよ。

「ん? いいよ。私もいるし、お姉ちゃんもずっと寝ているのは嫌だよね」

「そ、そうだけど……」

 お姉ちゃんは慌てふためいている。

「手錠も取っちゃうね」

「あ、ありがとう」

「いえいえ、じゃあ行こう」

 私はお姉ちゃんの手を取り洗面所へと向かった。


「ふふ」

 お姉ちゃんと一緒にお風呂に入る事が出来るなんて。

「あ、愛理、おうちの人は居ないの?」

「うん。何か遅くなるって書いてあったよ」

「そうなんだ」

「そんなことより、いつまで服着てるの? 脱いで脱いで」

 もじもじしているお姉ちゃんを見ながら、私は着ていた服を全部脱ぐ。

「で、でも恥ずかしい」

「お姉ちゃんが何言ってるの。昔だって一緒に入ってたじゃん」

「それは小学校の時の話よ! 今とは事情が……」

「しょうがないなぁ、脱がしてあげるね」

 じれったいのでお姉ちゃんのスカートを掴み下へ。

「きゃっ!」

 怯んだその隙に上着を上に捲りあげる。

「うぁ! あ、愛理前が見えない!」

「お姉ちゃんが身長高いんだよぉ。バンザイして腰曲げて」

「う、うん」

 観念したのか、無駄な抵抗をしないお姉ちゃんを私は生まれたままの姿にした。

「じゃあ行くよ」

 いざお風呂へ。

「……うん」

 お姉ちゃんは恥じらいながらもお風呂場に入って来た。


「はい、座って。最初に洗ってあげる」

「わ、私が洗ってあげるわ」

「いいから、いいから。ささ、座りなさい」

 肩を強引に押して、風呂場にある椅子に腰を下ろさせる。

 うちのお風呂には椅子は一つしかないため、私はお姉ちゃんの座っている後ろに立つ。

「まずは、心臓から遠い所にかけ湯をしていきます」

 いきなり体にお湯をかけると、心臓に負担がかかるとか何とか聞いたことあるからね。

 お風呂の蓋を開けて、手桶でお姉ちゃんの足の方からお湯をかけていく。

「あ、温かい」

「気持ちいい?」

「うん」

 それは良かった。

 足から体と、お湯をかけていく。

 最初は頭を洗おうかな。

「目つぶって息止めてー」

「んーっ?」

 目をつぶったのを鏡越しに見て、お姉ちゃんの頭からお湯をかけた。

 綺麗な黒髪がお湯でしっとりと濡れ、水が光を反射して煌びやかに光っている。

「お姉ちゃんの髪、綺麗だね」

 私はお姉ちゃんの髪の毛の先端を優しく掌に乗せる。

 触った感じもしなやかであった。

「そ、そんなこと言われたのは初めてかもしれないわ。お世辞でも嬉しい。ありがとう、愛理」

「本心だよ! お姉ちゃん凄く綺麗」

「て、照れるじゃない!」

 お姉ちゃんは下を向いてしまった。

 赤くした顔を見られたくなかったのだろうか?

 でも残念。鏡でその顔は見えちゃったんだな。まだ鏡は曇っていなかったからね。

「私のシャンプーで良いよね?」

 そう言いながら手にシャンプーを出す。

「もちろん」

「じゃあ洗うよー」

 お姉ちゃんの髪全体を洗い、頭皮も優しくごしごしと洗う。

「痒い所ない?」

「大丈夫、気持ちいいわ」

「良かった。それじゃあ流すね。息止めといてー」

 髪の毛全体についた泡を洗い流す。

「次はリンスつけるよー」

 リンスを手に出し、髪の毛になじませる様につける。

「また流すよー」

「うん」

 リンスも流し終え、私がいつも髪を拭いているタオルでお姉ちゃんの髪を拭く。

「サッパリした?」

「うん。今度は私が頭洗ってあげる」

 そう言ってお姉ちゃんは立ち上がり私を座せた。

「えへへ、ありがとう」

「洗ってもらったお礼よ」

 そう言い、お姉ちゃんが私の頭を洗ってくれた。

「次は体も洗うわね。このタオルで洗えばいいのかしら」

 お姉ちゃんは壁に掛かっているボディタオルを手に取り、ボディソープで泡立て始めていた。

「わ、私が先に洗ってあげるよ」

 立とうとするが肩を押さえられ阻止される。

「ふふ、綺麗に洗ってあげるわ」

 泡立てたタオルを私の背中に当て、ごしごしとこすってくれる。

「どう? 気持ちいい?」

「当たり前じゃん」

「ふふっ、次は腕を上げて」

 言われた通り腕を上げる。

「愛理って肌すべすべね」

 腕を掴みながらお姉ちゃんはそんなことを言ってきた。

「そ、そう?」

 何か照れる。

「そうよ、羨ましいわ」

「でも、お姉ちゃんも、もちもちしてて良いお肌だと思うよ」

 昨日体を拭いていたとき、そう思ったのだ。

「本当? ありがと」

 嬉しいわとお姉ちゃんは言う。


「さて、次は前を洗うからこっち向いて」

 背中、両腕も洗い終わると、お姉ちゃんはそう言ってきた。

「えっ!? ま、前はいいよ。自分でやるから」

「遠慮しないでいいのよ。あ、私が愛理の前に行けばいいのね」

 遠慮ではなく、ただ単に恥ずかしいだけなんです!

 心でそう思っても、お姉ちゃんは私の前に来てしまった。

 まさか、無理やり脱がしたからその仕返しとか!?

「狭いから少し下がってほしいわ」

 私は下がりながら後ろ向きになろうとした。


 ガシッ!


「ふぉあ!?」

 私の泡がついた両腕を、お姉ちゃんの泡がついた両手で掴まれてしまった。

「逃げようとしないの」

 私の目をお姉ちゃんはまっすぐに見てくる。

「……う、うん」

 私は後ろを向くのを諦めて、両手を自分の内股で挟んで座り直す。

 顔全体が熱くなる。

 こ、これは見つめられたせいじゃなくて、お風呂のせいなんだからねっ!

「よしよし、愛理は良い子ね」

 顔だけじゃなく体も熱くなってきた気がする。

「…………」

 お姉ちゃんにそのことを気付かれない様に私は俯いた。

「じぁあ洗うわね。顔上げて」

 俯いた私の顎を手で軽く上にあげ、お姉ちゃんは私の首元から洗い始めた。

 ま、待って、顔が赤いのに! お姉ちゃん分かっててやってない!?

 そのまま下へ下へと体は洗われていく。

「……ひゃっ!」

「あ! ごめん。大丈夫?」

「う、うん。くすぐったかっただけだから」

 最後に足の裏を洗われる。人に洗われるのはくすぐられてるみたいで声が出てしまった。

「これで終わりよ。流すわね」

「うん」

 体についた泡がお湯により流されていく。

「次は私が洗う番だね!」

 完全に泡を流し終わったので私は立ち上がった。


 ボディタオルを受け取り、お姉ちゃんを座らせる。

 ふっふっふ。私の体を洗ってくれたお礼にお姉ちゃんの体を洗い尽してあげましょう。

 お姉ちゃんの後ろに膝立ちで座りボディソープをつけ直す。

 まずは背中からだよね。

 背中から洗い始める。

「はい、腕出してー」

 背中を洗い終わり腕へ。

 両腕も洗い終わり次の場所へ。

「両腕を少し上げておいて」

「ん? 分かったわ」

 私は両手にタオルの泡をたっぷりつけて、お姉ちゃんの両脇に手を当てる。

 そして、そのまま脇腹まで下ろす。

「あ、愛理、どうして手でやるの? 少しくすぐったいわ」

「我慢して、手でやった方が体に優しいんだよ」

 適当なことを言いお姉ちゃんを納得させる。

 嘘をついた理由は二つ。

 一つはお姉ちゃんに触りたかったから。

 そしてもう一つは――

 これを数回やった後に、指先ですぅ~っと脇から脇腹までなぞる。

「ひっ!? あ、愛理? ちょ、く、ぷっあはは。や、やめて、わたし、わ、わきよわ、あっはははは――っ!?」

 ――お姉ちゃんにイタズラしようと思ったからだ。

 お姉ちゃんは脇を閉めて体を左右に揺らして私のくすぐりから逃げようとするが、脇には泡がついているため、閉めていてもするっと手を入れられる。

「逃げられないよ、お姉ちゃん! 覚悟っ!」

「や、や、めてっふぁははっは、、も、もぅはははっだめあははは、あはは――」

「――あ、危ない!」

 ドスン!

 お姉ちゃんは笑いすぎたせいか後ろに、私の方に椅子から滑り落ちてしまった。

 当然、私が下敷きとなる。

 私はお姉ちゃんを抱く様に腰に手を回し、お姉ちゃんを受け止めながらお風呂場の床に転がった。幸いな事に、私もお姉ちゃんも頭を壁にぶつけたりはしていない。

 背中は痛いけど、お姉ちゃんのためなら体を張るよ。……今回は私が原因なんだけどね。

「ははは……、はぁはぁはぁ」

 お姉ちゃんの疲れた息遣いが聞こえてくる。

「はぁ、あいり、だいじょ、ぅぶ?」

「勿論。お姉ちゃんこそ大丈夫? ……調子に乗ってごめんね……」

「わ、私こそ、倒れちゃって、ごめん、なさいね。重いわよね、すぐどくわ」

 お姉ちゃんは体を私の上で起こそうとするが、それをホールドしている私の腕がとめる。

「あ、愛理? 動けないんだけど」

 お姉ちゃんは呼吸をもう整えていた。

「このままで大丈夫」

 私はそう言い、泡のついた手でお姉ちゃんのお腹を優しく洗う。

「え、この格好のまま洗うの?」

「うん」

 お腹から胸に手を移動。

「こ、これは!?」

 二つの山に手を置いた。

「ど、どうたの。そ、そこをそんなに揉まれたら……!?」

「お姉ちゃん……大きくなってるね?」

「きゃ、ちょ、ちょっと、や、やめて、手動かさないでっ!」

 お姉ちゃんの言葉を無視して、私は忙しなく手を動かす。

「昔より大きくなってる……」

「あ、愛理ー!!」



 ちゃぽん。

 水滴が髪から湯船に落ちる。

「……ごめんねお姉ちゃん」

 私とお姉ちゃんは体も洗い終え、湯船に浸かっている。

 うちのお風呂は大きいとは言えない。流石に二人で浸かるのは狭かった。

 なので、私は考えたのだ。

 私より背の高いお姉ちゃんに先に入ってもらい、次に私がお姉ちゃんの上に乗る形で入る。

 これで二人で入れるし、私はお姉ちゃんに寄り掛かれて幸せ度アップだ。

「あ、あんなことされるなんて……恥ずかしかったんだからね」

「声出てたもんね」

「愛理ーっ」

「く、苦しいよ……」

 お姉ちゃんは私の首を腕で絞めてくる。

「お仕置きですぅー」

 お姉ちゃんはそう言いながら、絞める力を緩めて私の頭の上に顎を乗せてきた。

「お姉ちゃんが胸大きくしたからいけないんだよ。私は全然変わってないのに」

 目線を湯船の中に落とす。

 私の胸は中学入ってから高校に入るまでで大きさはほとんど一緒だ。だからお姉ちゃんが羨ましく思う。

「大丈夫よ、高校で大きくなるわよ」

「でも、変わらないかも知れないじゃん。……大きくなくてもお姉ちゃんは私のこと嫌いにならない?」

「何言ってんのよ、私は男の子じゃないんだから胸の大きさなんて関係ないわ。愛理を嫌ったりする訳ないじゃない」

 私を両腕で優しく包んでお姉ちゃんはそう言ってくれる。

「……ありがとう」

 それは心から嬉しい言葉だった。

「ふふっ」

「ん? どうしたのお姉ちゃん?」

「懐かしいなって思ってね」

「そうだね。一緒居お風呂入ったの小学生以来だもんね」

「それもだけど、こうしてずっと一緒に居るのもよ。……ほんと懐かしいわぁ」

 小学生の頃のことを言っているのだろうか? 確かにあの頃はいつも一緒だった。夏休みになると交互にお泊りに行ったりしていたのだ。

「あの頃は背丈も体格も変わらなかったのに……」

「愛理は今のままでも十分可愛いわよ」

「っ!!? ……ブクブク」

「愛理! 溺れちゃうよ!?」

 体をわざと滑らせ、顔を湯船に入れて隠れようとしたがお姉ちゃんに両脇を掴まれ元の位置に戻されてしまった。

 不意に言うのはズルいよ……。

「もう、愛理ってばいきなり潜らないでよ」

「お姉ちゃんこそいきなり今みたいなこと言わないでよ! て、照れるじゃん!」

 私は体を反転させお姉ちゃんの方を向いてそう言う。

「……愛理、ふふ」

 ぎゅ!

 お姉ちゃんは私に抱き付いてくる。

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 こんな事をお姉ちゃんの方からやってくれるなんて……嬉しいけど、裏があるのかと疑ってしまう自分がいる。

「どうしてか、愛理が愛おしく感じるわ」

 耳元で囁かれる。

 その言葉に私は歓喜する。

 声が出せないほど嬉しかった。

 私もお姉ちゃんの首元に腕を回し、力を込める。

 力で嬉しさを表現したつもりだ。


 そのまま数分。

 私もお姉ちゃんも動こうとはしなかった。


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