連絡
「あっもうこんな時間」
時計を見ると十二時を過ぎたところだった。
結紀お姉ちゃんとベタベタしていたら時が経つのは早いなぁ。もう寝ようかな……。
いつもの習慣で寝る前にスマホをチェック。
「あれ?」
私のスマホに美那子先輩から九時頃に電話がきていた。電話に出なかったからか、チャットにも連絡がきている。
何だろう。
チャットを開く。
美那子先輩 『小春が結紀にいきなり別れてと言われて連絡が取れないって言ってるんだけど知らないか?』
……早速アイツは言いふらしたのか。
美那子先輩に返信をしておかないと。
『返信遅くなってすいません。今まで寝てました。お姉ちゃんと別れたんですか? やったじゃないですか。チャンスですよ先輩』
すると、すぐに返信が来る。
美那子先輩 『そう……なんだけど。それより、結紀のこと知らないか?』
美那子先輩 『いくら連絡しても帰って来ないんだ。』
『知らないですよ。まだ仲直り出来てないですから……』
嘘をついた。
美那子先輩 『あ、えと、ごめん。』
『大丈夫です。夏休み中に仲直りしますから。それじゃあ先輩おやすみです』
美那子先輩 『応援してるぞ。変なこと聞いて悪かった。おやすみ。』
美那子先輩もお姉ちゃんみたいで優しいな。お姉ちゃんには勝ててないけどね。
ベッドから降りて勉強机向かう。
勉強机に一ヶ所だけついているナンバーロック付きの引き出し。ここにお姉ちゃんのスマホ入れておいたのだ。
番号を合わせて、引き出しからお姉ちゃんのスマホを取り出す。
「うわ、いっぱい来てる。お姉ちゃんは信頼されているんだね」
私はベッドで横になっているお姉ちゃんの方を見た。
「んっ、ん!」
「ん? 一緒に見る?」
お姉ちゃんのスマホを持って、私はベッドに寝転んだ。
「まずは――」
電話着信履歴
下の方にアイツからの電話番号。拒否してからは他の生徒会メンバー二人からの電話履歴が残っていた。
荒野先輩以外だ。小河原先輩は一回のみだが、美那子先輩に至っては数回掛けてきている。
「次にチャットね」
画面を切り替える。
荒野君 『そうまのやつが泣きついてくるからなんとかしてくれ。以上』
軽い返しだった。
普通の反応はこうなのだろうか?
私はお姉ちゃんに成りすまして返事を打つ。
「んーんっ! んっ!!」
「お姉ちゃん静かに。じゃないと見せないよ」
「……んぅ」
『遅くにお返事をごめんなさい。小春君にはもう私の事はほおっておいてと言っといてもらえないかしら。私が言っても聞いてくれなくて』
「……これでいいかな? 送信と。次は――」
司 『聞いたよー別れたんだって? わたしは結紀が嫌なら別れて良いと思うよ。それで、また好きだと気づくかもしれないし、そのまま良い思い出で終わる事もあるんだから。好きな人がまた出てくるよ。一期一会ってやつね。わたしが言えるのはこれ位かな。あ、返事は要らないから、そんじゃおやすみ』
小河原先輩って性格も結構さばさばしたてるのかな? 見た目もボーイッシュだし、性格が男の人っぽいのかな。でも、荒野先輩に実はデレデレで、照れ隠しに攻撃……ギャップ萌え!?
そういえばあの二人は、もうよりを戻したのかな? はたから見ても両想いっぽかったし。
……最近会ってなかったから分からないや。
気になるけど下手を打つといけないから我慢しよう。
チャットに書いてある通り、返事は書かずに次にいく。
「最後は美那子先輩……」
美那子『小春と別れたと聞いたが理由が知りたいそうだ。良ければ教えてあげてくれ。』
美那子『あと、小春が会いたいと言っている。会ってやってくれないか?』
美那子『連絡を待つ。』
この言い方だとアイツと美那子先輩は繋がりを持てているんじゃないか? 直接聞いている感じがする。
私に内緒でいつの間に。
私も美那子先輩の事を応援していますよ。
――さて、どう返事を打とうか。
「お姉ちゃんは何かアイツの嫌いなところある?」
粘着テープを剥がし質問する。
「あ、愛理!! かえふぃふぅむむーんっ」
「お姉ちゃん、大きい声出さないでって言ってるじゃん。いいや、私が考えるね」
再び口に貼り直す。
「むー! んー!」
えっと……。
『喋るときおどおどした感じで話しにくい。もう少しがっちりした人が好きという事に気付いた。箇条書きだけど、これが嫌いになる要因です。どうして私は小春君と付き合ったのでしょうか? 夏休みが始まり、家で考えていたらこの気持ちは恋じゃないと気付きました。なので別れることにしたんです。そう彼に伝えてください。お願いします』
こんな感じでいいかな? ……うん、なかなかの出来だと思う。
「送信!」
よし、今度こそ寝よう。
私とお姉ちゃんのスマホをヘッドボードに置く。
「お姉ちゃーんっ」
むぎゅっとお姉ちゃんの体に抱き付いた。
本物の抱き枕だ。
ぬくもりがあり、抱き心地も良く、何より安心する。
「おやすみなさい……」
私はお姉ちゃんを抱いて眠りについた。
□□□
「んー! んんっ!」
隣で唸る声。その声はお姉ちゃんの声に似ていた。
……あ、そうか!
「おはよう、お姉ちゃん」
お姉ちゃんが来てくれていたんだった。
「んーんっ」
「どうしたの?」
何を言っているか分からないが、私に何か伝えたいような感じだ。
うちに来てから今までお姉ちゃんから頼られた事はなかったから嬉しい。
「どうしたの?」
口の粘着テープを剥がし再び聞いてみる。
「あ、あの、ね、その……ね」
お姉ちゃんが目線を動かして、自分の下半身の方と私を交互に見ている。
あっ! 分かった!
「おむつ変えてほしかったのね。言ってよ、もう。何の事か分からなかったじゃん」
「……うぅ」
お姉ちゃんは徐々に顔を赤らめる。
「待っててねー、今替えるから」
そんなことは気にもせず、私はベッドから降りて一旦伸びをする。
「よし、今日も楽しもう!」
私はお姉ちゃんのお世話を始める。
「これでよし。もう気持ち悪くないでしょ?」
取り替えを終えてお姉ちゃんの横に座った。
「うん……ありがとう」
「気にしないで、お姉ちゃんのためなら何でもするよ」
「……じゃあ、この枷を外して……」
「お姉ちゃん……私と一緒はいや?」
「えっ、そ、そんなことはない……けど」
「ならいいじゃん! お姉ちゃんの身の回りの事は全部私がやってあげるから!!」
「…………分かったわ」
「うんっ! ご飯取ってくるね」
お姉ちゃんは分かってくれたみたい。
粘着テープをお姉ちゃんの口に貼り、一階に降りる。
階段を降りると、家の中は静まり返っていることに気付いた。
「お母さん今日は休みじゃなかったっけ?」
リビングに向かうとコピー用紙がテーブルに置いてある。
用紙には、『遊びに行ってきます。帰りは遅くなります。お昼はてきとーに食べてね。 母より あと風呂掃除と洗濯ものも頼んだわ。いってきます。』と書いてあった。
「め、めんどくさい……」
でもやっとかないと、あとで文句をもらうのは嫌だ。
テーブルにはコピー用紙の他におにぎりが三個。上に布をかぶせてお皿に置いてあった。
一つは私が食べて、二つはお姉ちゃんにあげよう。
そう決めて、飲み物と一緒に二階に持っていく。
「ごはんだよー」
「……うん」
お姉ちゃんと一緒に朝ご飯を堪能。
食べ終わったら、ちょっと出掛けてくるとお姉ちゃんに伝える。
「分かったわ。なるべく早く帰って来てね」
「もちろん! 暑いから窓開けていく?」
八月の午前中だからまだいいが、昼を過ぎるともっと暑くなるだろう。
「いいの?」
「お姉ちゃんの口を塞いでいくから大丈夫」
「……そう、じゃあお願い」
「ごめんね」
「いいわ、慣れてきたもの。それに愛理は私のために窓を開けて行ってくれるんでしょ?」
私の部屋はエアコンも扇風機も無い。だから夏は暑く冬は寒いのだ。
「うん。色々買ってくるからね」
私は食べた時の皿とコップを流しに置き、パジャマから普段着に着替えてから家を出る。
買いたい物は服に、においが漏れないゴミ袋みたいのも欲しいな……あるのかな?
少し時間がかかりそうだ。待っててねお姉ちゃん!
三時間後。
「た、ただいま」
汗をだらだらと流しながら私は家にたどり着いた。
「み、みず……」
手洗いうがいをして、速、水分補給。
「ぷはぁー、生き返る。お姉ちゃんも喉渇いてるかな?」
お茶を入れて、買った荷物も持ち、私はお姉ちゃんの様子を見に行く。
「ただいまー……あら」
「すー、すー」
お姉ちゃんは静かな寝息を立てていた。
「ふふ、寝顔も可愛い」
あどけない寝顔がまた私の心をぎゅっと掴む。
ああ、お姉ちゃん。
タオルケットを掛け直し、お姉ちゃんの髪を優しく撫でる。
「うぅん、……すー」
「……お茶どうしよう」
ヘッドボードに置いておこう。
ほこりが被らないように上にティッシュを被せて置いた。
「うん?」
お茶を置いたとき、お姉ちゃんのスマホの一部が光った。
誰からか連絡来てるのかな?
一応自分のスマホも見たが、こっちには何のメッセージもなかった。
お姉ちゃんの携帯を見てみると美那子先輩からのチャットだった。
美那子 『実際にあって結紀の口から聞きたいそうだ。』
美那子 『暇なときに会わないか?』
美那子 『私もどうしてか知りたい。』
私が返事を返した後にきていた。つまり、私が寝る前だ。
「結構時間経っちゃったな。大丈夫かな」
返事を考える。
『気付かなくて返事遅れました。ごめんなさい。昨日書いたことが全てです。それ以外はありません。あと、私達の問題に美那子が入ってくるのもどうかと思います』
美那子先輩にきつく言っちゃうけどいいよね? こうすれば、もう聞かれないかもしれないし。
美那子 『私こそ遅くにすまん。』
美那子 『興味があって聞いてしまった。失言だったな、謝る。』
美那子 『でも、小春の気持ちも考えてやってくれ。』
美那子 『頼む』
私が何て返そうか考えていると、少し時間が開いてから最後のメッセージが来る。
先輩……。
美那子先輩の言う通り、お姉ちゃんがアイツに会って別れると言うのが一番良いんだけどお姉ちゃんの気持ちが分からない。まだ好きなのかな? それとも、もう諦めてくれたかな?
こればかりはお姉ちゃんに聞くしかない。
『少し時間を頂戴』
美那子 『分かった。期待して待つ。』
先輩とのやり取りはこれで終わった。
肝心のお姉ちゃんはまだ寝ているし、お風呂掃除しよう。
洗濯物は乾いているかな? 暑すぎる良い天気だ。乾いているに違いない。
そう勝手に決め、グビッとお姉ちゃんのために持ってきたお茶を飲み干しす。
お姉ちゃんのスマホをしまってから一階に戻った。
風呂掃除をして、早いけどもう沸かしたし、洗濯物も乾いていたので取り込んだ。
……取り込んだのは畳まなくて良いよね。
自室に戻るとお姉ちゃんはもう起きていた。
「おはよう、お姉ちゃん」
「んんっ」
口のテープを取る。
「お姉ちゃん、話があるの」
「……なに?」
「お姉ちゃんは……今でもアイツ……小春草間の事が好き?」
「えっ!?」
お姉ちゃんは目を丸くした。
「どう……なの? 正直に答えて」
再び私は問いかける。
「……き、嫌いではないわ」
あやふやな答えだ。それでは、私は納得できない。
「好きか嫌いかで言ってよ」
「……分からないわ。私は彼の事が好きだったはず。でも……」
お姉ちゃん自身も良く分からなくなってきているのかな?
だとしたら良い傾向だ。そのまま忘れちゃえばいいんだよ。
アイツに今すぐは会わない方が良いか。数日時間を空けてから……。
「……そっか。もう大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「え?」
「じゃあ、今から一緒にお風呂入ろ?」




