復讐
様子見をしていたため、一回しかやっていなかったアイツの下駄箱に手紙を入れるのを翌週から私は再会した。週に二回。曜日、時間は決めずに入れるのだ。
内容は、この前と言葉は変えるけど意味は変わらない事を書く。それに、『いつも貴方を見ています』と一言を加えた手紙だ。
翌々週、手紙と一緒に外靴にプレゼントも入れる。
次の日のホームルームで、靴に画鋲を入れた人が居ると言う担任からの連絡があった。
……少し自重した方がよさそうだ。
自重をすると言っても手紙は週に二回、時間は決めずに入れ続ける。
最近、先生が下駄箱に立っていることが多くなった気がする。見張っているのかな? そうしだとしたらずっと見ていないと意味がないよ。
そんなこんなで七月の初めとなる。来週から期末テストが始まる時期。これが終われば夏休みだ! 学校では結紀お姉ちゃんと会えなくなってしまうが、家に遊びに行けばいいし、夏休みが待ち遠しい。
三時間目と四時間目の間の休み時間。私はいつものように、近くに誰も居ないか見ながらアイツの下駄箱に手紙を入れた。
その日の昼休み。
お姉ちゃんからチャットで連絡が来ていた。
放課後、生徒会室に来てほしいとのことだ。
かれこれ二ヶ月くらいだろうか、お姉ちゃんと話していないのは。
でも、お姉ちゃんの姿は良く見ている。廊下で見つけたり、全校集会の集まりなどでだ。お互い一人で廊下をすれ違うこともあったが、話はしなかった。
お姉ちゃんは私の事なんて見向きもせず歩いて行ってしまうのだ。私はすれ違ったあとに後ろを振り向いたが、お姉ちゃんはそのまま行ってしまった。だけど、まだ大丈夫。アイツとさえ別れられればお姉ちゃんは、昔の私に優しいお姉ちゃんに戻るのだから。
私はすぐに、了解。と返事を返した。
お姉ちゃんに呼ばれたのだもの、断るはずがない。
ふふ、早く放課後にならないかな。
放課後、早足で生徒会室へ。
ここに来るのも久しぶりだ。
「こんにちはー」
ドアを開け挨拶をする。
「……待ってたわ、愛理。取り敢えず座って」
お姉ちゃんがソファーに座っていた。他の人の姿は無い。
「うん!」
私はお姉ちゃんと向き合うように、テーブルを挟んでソファーに座る。
久し振りにお姉ちゃんの顔を近くで見た。やっぱりお姉ちゃんは綺麗だ。今日は不機嫌そうな顔だけど、どうしたのかな。
「愛理……貴女がやっていたの?」
うん? いきなり質問されても何の事だか分からない。
「何を?」
「これよ」
お姉ちゃんは一通の手紙をテーブルの上に置いた。
それは今日、私がアイツの下駄箱に入れた手紙だ。
「あれ? 何でお姉ちゃんが持っているの?」
「私が草間君の下駄箱から取ったのよ。三時間目と四時間目の間にね」
「お姉ちゃん居たの!? 話しかけてくれれば良かったのに」
しっかり周囲の確認をして誰も居ないと思ったんだけどな。流石お姉ちゃんだ、私が気付かないとは。
「そうじゃないでしょ!!」
バンッ! とお姉ちゃんはテーブルを叩いた。
「ど、どうしたの?」
「前に……草間君の靴に画鋲を入れたのも貴女なの?」
「う、うん」
「……何でこういう事したの? 彼は怖がってしまっているわ。どこからか見られているんじゃないかといつもきょろきょろとしてるの。分かる?」
アイツを精神的に攻撃しようとして書いている手紙なのだ。アイツが怯えているのは、私の手紙が効いているという証拠。……やったね。
「私、あの人好きじゃないから」
「好きじゃない人にはそういう事してもいいと、本当に思っているの!? 普通はそんなことしないわ。草間君に恨みでもあるの? 彼も嫌がっているのよ!!」
「あるよ。だから嫌がらせをしてるんだよ」
「なっ!? い、言ってみなさい」
「私のお姉ちゃんを取った。美那子先輩を泣かした。私はアイツが大嫌いなの」
お姉ちゃんは体を震わせていた。
怒鳴られるのかと思ったけど、お姉ちゃんは怒りを消したように物静かな喋り方になる。
「っ!! ……そう、話は分かったわ。でも、私は愛理の物ではないわ。美那子を泣かせたというのは分からないけど、貴女は草間君に悪い事をしたと思っていないのね?」
「私が悪いんじゃない、アイツが悪いの! お姉ちゃんは何も分かってないよ!!」
「草間君に謝る気はないのね」
「当たり前だよ!」
「……最後に、もうこの手紙みたいな事はしないで。あと、私の……いいえ、私達の前に二度と現れないで。すれ違うくらいはしょうがないけど、意図的に関わるのはやめてちょうだい。先生に貴女の事は言わないであげるからそれくらいの条件はのんでくれるわよね」
「えっ……?」
お姉ちゃんは今何と言った?
「分からなかった? 先生には黙っておくから、こんな事はやめて、もう二度と関わらないでと言ったの。話はそれだけだから。時間取らせて悪かったわね、……もう帰っていいわよ」
「そ、……そう……」
私は立ち上がり、重い足取りで生徒会室を出る。
生徒会室の前で私は立ち尽くした。
……なんで?
私何かした?
どうして?
手紙が駄目だったの?
どうすればいいの?
関わるな?
どうして?
私はお姉ちゃんと一緒に居ちゃいけないの?
なんで?
私が全部悪いの?
どうすれば良かったの?
……あっ!?
そうか!
お姉ちゃんが彼氏なんて作ってるのが行けないんだ!
そうだ!
そうだよ!
お姉ちゃんも悪いじゃないか!
私だけが悪くない!
これからどうする?
目的は変わらない!
ということは?
やっぱり別れさせれるのがいいよ!
どうやって?
夏休みがあるじゃないか!!
「……あはは、あははははは――」
□□□
期末テスト期間に入った。
あれから、私はお姉ちゃんに言われた通り手紙を出していない。
テスト勉強に集中していたからだろうか。
お姉ちゃんに言われた、二度と私の前に現れないで。という事を忘れて話しかけそうになったこともあった。でも、お姉ちゃんの、私なんか眼中にない様な目を見て思い出したのだ。その時は激しく落ち込み、また勉強に没頭して忘れる。という事を繰り返していた。
お姉ちゃんの事を忘れるということは一度もない。
そんなテストも先週で終わった。これで自由な時間は増える。早くお姉ちゃんとアイツを別れさせなければ。
「愛理どうした、ぼーっとして? もしかして赤点あったか?」
「えっ、なかったですよ。美那子先輩のおかげです」
今は下校中だ。昇降口でたまたま会った美那子先輩と一緒に帰っている。
今日はテスト返しの日だった。一気に全教科帰って来るのだ。
点数は良いとは言えないが全教科赤点は免れた。中間よりは良いと言える。赤点ギリギリの教科もあったが。
これも美那子先輩が勉強を教えてくれたおかげだろう。今回も、私はしっかりお世話になっているのだ。
「そんなことない。愛理は中間の時より基礎が分かっていたよな。最近はちゃんと授業受けているだろ」
「よ、良く分かりましたね!」
入学当初は授業なんて聞き流していた。それで、中間テストは苦労したのだ。だから、それからはしっかり授業を聞く様にしている。今では優等生の一員であるのではないかとも思っていたり……この点数でそれは言えないか。
「そうそう、明後日から夏休みだぞ。愛理は予定立てたか?」
「少し立てましたよ」
そう、明日の終業式が終われば夏休みだ。
お姉ちゃんと仲直りをして、アイツと別れさせる絶好の機会。
「へー、何するんだ?」
「それは秘密です。それより先輩は予定立てたんですか?」
「あー……私は特にないんだよ。今のところは、夏休み後半に生徒会の仕事のために学校行くくらいかな」
「夏休みもあるんですか」
「そうなんだよ。……良かったら愛理も来るか?」
「……それまでにお姉ちゃんと仲直り出来ていたら行くかもしれないです」
「……そうか」
「はい」
「じゃ、また明日な」
「はい、また明日」
駅で先輩と別れる。
夏休み中にどうやってお姉ちゃんを誘おう……。
そして夏休みに入る。
まず、仲直りをしないとお姉ちゃんに近づけない。夏休みにやればいいと思ったが、具体例が何も浮かばなかった。
それでも仲直りの方法も考えるが未だ思い付かず、一日が経ってしまっている。
「うーん。どうしよう……」
私は自分のベットの上で転がりながら頭を悩ます。
どうしたものか。
「うわー、浮かばないー!」
枕を抱いてごろごろと転がる。
「うーん……きゃっ、――あいたっ!?」
ベッドの大きさを忘れて転がり過ぎた。床に落ちて腰が痛い……。
「……そうだ!!」
今の衝撃で閃いた。
思い立ったら即行動。早速、準備に取り掛からなくては。
サブタイトルは直感でつけております。
合わないのもあるかも知れませぬ。
変だと思われたら御一報を……!




