2
オリエンテーリングは、日程通りに進行をしている。冷静になって辺りを見和ますと、よっちゃんの通っている高専程ではないけれども、S高も男子の方が多い学校だ。三組は単純計算で女子一人に男子が二人……見事なまでの逆ハーレム状態。もちろん、単純計算だから個人の好みは加味されていない。これに個人の好みを入れると……とっても大変な事になりそうだから考える事は止める事にしよう。
一部の女子の間では何組の誰がいいなんて話をしている。卒業するまでは恋をしないで過ごそうと考えている私は、若干冷めた目でクラスを見ていた。
今の私は、とりあえず同じ中学だった博子ちゃんと一緒にいる。博子ちゃんは幼稚園から一緒の腐れ縁といえるだろう。人当たりはいいのだけど、思った事をすぐに口にするタイプだから誤解されてしまう事もしばしばある。
二月の相当の時は、理絵にそれを利用された形になるだろう。あの事件があったことから、理絵と私達三人の構図が出来てしまい、保護者をそれに巻き込む形になっていた。私の場合は、叔母が来なかったので最初は博子ちゃんのおばさんが母親代わりを務めてくれた。その後からは弁護士さんが一緒に学校に来てくれて、緊急連絡先は、よっちゃんの家と弁護士さんの事務所にして貰っている。弁護士さんの方は、他の二人の保護者とも打ち解けてくれたので本当に感謝している。そんな私達が、今年度は揃って同じクラスというのは皮肉以外に何と表現していいのだろうか?
「ちいと一緒で助かったよ」
「なんで?」
「理絵だったら絶対に大喧嘩したと思うからさ」
「うーん、博子ちゃんの場合はないと言い切れないんだけど」
私と博子ちゃんは目を合わせて笑った。どうやら同じ事を考えているようだ。それなら口に出す必要性はないだろう。
「何もない?」
「ないように思える?」
「思えない」
「そういう事よ。最初に知られるのは英語と数学のクラス分けじゃないかな。」
「そうだね。あのテストの時……何を話したの?」
「できた?と聞かれたから、答えは全部埋めたって答えただけよ。できたなんて自信のある言い方は一切していない。そこからまた何かを言われる恐れがあるんだから」
「埋めただけとできたというのは違うものね。もし、クラスAの事が聞かれたら?」
「結果は偶然だとしても、それを維持し続ける事が重要でしょう?で逃げる予定よ」
「そこまで聞かないと思う。あいつの事だもの。ずっと勉強していたんでしょう。私出来たって言っても七割位だし。それに解けない問題もあったわよ」
博子ちゃんの実力テストの出来を今になって聞くのも変な話だ。博子ちゃんは国立大学を志望している。そんな博子ちゃんと加瀬君はグループBにいる。そのグループBだって結構レベルは高いと思う。
逆に今のままでいたいのなら、どうすべきなのかという答えだけは明確に分かっている。今のペースで勉強を続ける。それ以外の選択肢はないと思う。
「昨日は広瀬先輩に会えた?」
「うん、会えたよ」
そんな私を博子ちゃんは苦笑いしながら見ている。そうだよね、直君の私への態度はペットの犬と同等だろう。
「昨日は皆と帰るのが遅かったから知らないだろうけど、広瀬先輩かっこいいっている子がいたから注意しなさいね。それこそ理絵の……」
「分かっているよ。簡単にあいつの想い通りにさせるつもりはないわ」
私は即答すると、博子ちゃんはちょっと驚いていた。その後にクラス役員をきめることになって、私は誰にも何か言われる事も無く文化祭実行委員になれた。そんな三組の委員長は綾瀬君だった。
「とりあえず実行委員になれたか?」
「はい、なれましたよ」
「おー、いい子だ」
直君は大きな手で私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「直君止めてよ。髪の毛が乱れるじゃない」
「直也。ちいちゃんが困っている」
嫌がる私の事はお構いなしにぐしゃぐしゃにしている直君の胸元をポカポカと叩く。
「もっと言ってやって下さいよ。千世さん」
「実行委員の顔合わせが決まったら、俺らが引っ張るから安心しろ」
「それそ信じるのもちょっと……まなちゃんは?」
「怖いという前に直君に睨まれたので私は話題を反らした。
「まなはね……あの子は非常勤だから図書委員あたりよ。違うかしら?ちいちゃんも書記と会計は常任の委員会を兼任できるから覚えておいてね」
「正解です。校内の図書室を使う人なんていないから遊びに来てね」
「まなちゃんと一緒だと思っていたのに残念」
「ちいちゃんも来年は兼任で委員会をやってもらうか、行事の会計担当として専任して貰うかになるわ」
「それは……今決めなくてもいいですよね?」
「もちろんよ。まなと一緒に何かをやりたいのなら、部活をやったら?どこかに入る予定でもある?」
「えっと……写真を撮るのが好きなので、写真部には興味がありますがその前に授業についていくのが先なので見学にだけは行こうと思っています」
「そうね。ゆっくりと考えたらいいと思うわ。私達は英語部だけども、他の文化部とは違って引退が弁論大会後になるから高内でも一番遅いのよ。他の部活はほとんどが夏休みの前には引退するわ」
千世さん達に言われて、今すぐに部活に入る事を決めなくてもいいのかもしれない。写真部は見学だけはするつもりだけど。文化祭は六月だし、今のタイミングで入っても実行委員の両立は難しいと思う。
「まあ、ゆっくり決めろ。ちいの場合は今までも写真やっていたじゃないか」
「直君。それはそうだけど」
「これ以上は俺がいうことじゃないけど、お前は一人でのびのびと撮った方が合っている様な気がする」
「ちいちゃん、写真やるんだ」
「本の少しだけです」
直君が何気なく言った事に、真理さんが反応する。
「嘘を付けよ。去年新聞に載ったじゃないか」
「アレは偶然です。私は機材にお金をかけていませんから、たいしたものじゃないですよ」
人に写真を撮る事が好きとあまり言っていないので私は焦ってしまう。あの写真は、塾の先生達と一緒に撮ったものだったはずだ。
「実績があるのなら写真部からお声がかかりそうね。でも自分の目で見て決めた方がいいわ」
「アドバイスありがとうございます」
私は千世さんにお礼を言った。




