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In other word・・・  作者: トムトム
2章 歩いていこう ~Ich werde gehen.~
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この道の先

「おはよう……本当に二人がいた」

「おはよう、ちい。直也先輩をそんなに邪険にするなよ」

「だって……こっちの都合に関係なく自分のペースを通すじゃない」

「それは……俺はノーコメント。電車の時間もあるんだからもう行こうぜ」

よっちゃんはそう言うと、先に自転車のペダルを漕ぎ始めた。私と直君も寄っちゃんの後を追う様にペダルをこぎ出す。

今日から一泊でオリエンテーリングが始まる。朝はいつも通りの登校だ。今日からはよっちゃんと一緒に君塚に行く予定だった。それが急に変わったのは、私の家でのお花見の時だった。酔っちゃんが朝の通学途中に直君に捕獲されてしまって最終的に直君も含めた三人で君塚まで通うという事になってしまっていた。恐らく二人で良かれと思って決めてくれた事だろうから、その決定に反論をする気は一切ない。

でも……私ってそんなに問題児なのだろうか?今、私が自転車で進んでいる道の先は、これからどう変化して行くのだろうか?

「直也先輩……こいつ大丈夫そうですか?」

「時間通りに君塚方面に発車する電車。工業地帯で働く人達も一緒に乗っている社内は、まだ早い時間なのに限りなく満員電車と同じ位混んでいる。

「オリエンテーリングから戻ってきたら、もう一本早い電車にするか?」

寄っちゃんは私に聞いてくる。早くするのは別に構わないが、そうなるとよっちゃん達も早く学校に着いてしまうのではないのだろうか?

「私、一人でいいよ。二人はいつも通りにして?」

「「それは無理」」

私の提案は即刻却下されてしまう。いいアイデアだと思ったのに。

「いいよ。たまにコンビニでサンドウィッチでも奢ってくれよ」

「俺は……いつもはこの前の電車だから、何も変わらないぞ」

私が気にしていたのは電車の時間。一本早くすると6時台になってしまうのだ。私の我儘に彼らを巻き込めない。

「気にするな。だったら土曜日だけは今日の時間にしよう。それでいいだろう?」

私が何に躊躇っているのか分かった直君は、私達の着地点を示した。私はそれを承認するしかなかった。

私が何に対して不安に思っているのか察した直君は、私の頭をポンポンと叩くように撫でる。

「安心しろ。俺たちなりに何とかする。ちい……悪いがお前の事は創と智から既に聞いている。今までみたいなことはもうさせない」

「直君、それは嬉しいけど……。でも千世さんとの仲を壊そうとしているって噂が流れちゃうよ」

私が直君に問いかけるとそうだよなあ……と言ってから暫く考えているようだった。

「お前はさ、こう答えたらいいさ。二人ともいいお兄ちゃんとお姉ちゃんですよ。だから二人とも大好きです。これなら誰も反論できないだろう?」

二人とも大好きって答えても噂を全否定する事になるのだろうか?その為には二人にも同じ事を言って貰わないといけないのでは?

「俺達は既に可愛い妹分が入学すると言ってある。だから安心したらいい。でも、相変わらずお前は考え過ぎだなあ」

直君はそう言ってデコピンをする。

「そう言う事をするから噂になるの。全くもう」

私は頬を少し膨らませる。

「はいはい、分かったよ。そう言うことな。気を付けるよ」

直君は、呆れ気味に私を見ていた。


学校で集合してから、バスに乗ってダム湖のほとりの青少年の家に着いた。どうやらここで一晩過ごすようだ。着いてすぐにジャージに着替えてダム湖の周りを一周ランニングといわれる。毎日30分はランニングをしている私は全く辛くなかった。運動部に入りそうなイメージの多い男の子達に混じってゴールした。

「佐倉?お前走ったのか?」

「はい、走ってきましたよ。私、体力がないので毎日1時間程は身体を動かす様にしているんです」

隣の……4組の担任の中井先生に聞かれる。

「お前、運動部経験者か?」

「中学二年で止めましたけど、元水泳部員です」

「ほう……水泳ね。うちの学校にはプールがない事は知っていたか?」

「もちろんですよ。入試前にちゃんと学校見学もさせて貰いましたから。私のキャリアはこの学校では全く使えない不要なものです」

「キャリアって……実績があるのか?」

「市のレベルは優勝していますけど……県になると大したことないですよ。競技を長期間やっていたら自分のレベルの限界って分かるじゃないですか。限界を感じて止めただけです」

「ふうん、そこまで行くのだって大変なのにな。お前の同期はそれ以上か」

「そこの所は察して下さい。今は見ての通り平凡な女子高生ですから」

「平凡な女子高生は体力の維持に毎日一時間身体を動かしたりはしないぞ。雨の日は?」

「雨の日は、歩くだけにしています。それとストレッチ位ですかね」

「それは本当に体力がないから?」

「本当にそうですよ。元々身体が弱いので。皆と同じに過ごす為には基礎体力や筋力の維持は必要なので」

「自己管理能力が高いのは凄いな。こりゃまた変わった新入生だ。クールダウンはしろよ」

先生に言われて、ゆっくりとストレッチをする。身体を解している所に佐藤さん達が戻ってくる。

久しぶりに運動をしたみたいで、もういきなり走れはないよって愚痴を言っていた。

「佐倉さん、中学は運動部?」

「二年生まではね。三年生まではやっていないんだ」

「どうして?」

「体調を悪くして入院して、体力が一気に低下したの。だから競技に復帰はしなかったの。それ以前にあの当時の自分のレベルにも満足していなかったから」

「そうなの?」

「私が必死に努力しても、皆は私の二歩先にいるの。それを追いかけるの……疲れちゃった」

「そっか。今でも体を動かしているの?」

「うん。一時間は体を動かしてはいるよ。でもそれ以上はしていないよ」

「それ……うちの学校じゃあ運動部クラスと同等だと思うけど」

「そうなんだ。それとね……本当は太りたくないからって言ったら信じてくれる?」

「本当に、そんな理由?」

「うん、そんな理由」

「そんな理由だとしておこうか」

こうして、ようやくクラスの中等部出身の人と初めて話をしたのだった。


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