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木曜日に出されていた課題も生徒会室から出てから職員室に立ち寄って提出したばかりだ。けれども提出期限は最初の授業の時だったみたいで、私以外はまだ提出していないという。その代わりに私は新しい課題を貰っている。だから、綾瀬君の課題と私の課題が同じとは限らない。
それにしても、中学を卒業してからずっと勉強をしている。実力テスト前は実力テスト対策で、テストが終わった後に教科書配布があったから、それからはずっと教科書ガイドを購入してずっと予習をしている。この生活は自分の生活リズムが出来上がったらそのままになっていくんだろうなあと漠然と思う。
「それは確かに。だけど、うちの学校レベル以上ならどこの学校も同じかもしれないな」
「そうかもね。私の場合は皆の目が怖いわ。何かしたって事はないけど、クラス分けで既に話題になっているんでしょう」
「佐倉さんの場合は特にそうだな」
「これからはクラスが変わらない様に、ちゃんと勉強しないと。それは綾瀬君も同じでしょう?英語は同じクラス何だから」
「俺もまぐれだよ。それより、貰った課題は……終わった?」
「うん、さっき提出した所。合っているかどうかなんて全く分からないけどね。その分新しいプリント貰ったわ」
「えっ、提出って今日だったっけ?」
「違うけど、終わったから出しただけ」
「もしかして……ずっと勉強していた?」
「うん。地元の友達は既に学校が始まっているから、お昼は暇になるでしょう?放課後は友達が様子を見に来てくれたから一人って事はなかったけど」
毎日、誰かが家に寄って勉強をしていたから。私も予習をしていて分からない所は彼女達に聞いていた。静香だけはお腹すいたって言って補給基地にしていたみたいだけど。
「それも確かに。入学して早々、とんでもない学校に来た気がしない?」
「凄くそれは痛感している。でもこれだけ勉強したらちゃんと結果が出るとも思わない?」
「そうだな。俺達の学年は子供の数も多いからな。今度から分からない所は教えて貰ってもいいかな?佐倉さん」
「私で良ければ……いいよ」
綾瀬君に何気なく言ってしまったけれども、大変な学校に入学してしまったことに今になって驚いている。だからといって高校を中退するなんてかんがえていないけど、これからはいろんな人にチェックされやすい状況である事は痛感している。
バスに乗った私達は、オリエンテーションキャンプ後から始まる授業の事とかをはなしながら駅に向かうのだった。
駅前の本屋で綾瀬君と別れた私は一人で上りの電車に乗る。午後一時台の電車は空席が目立ち、私は数学の予習の続きをやる事にした。とも君と出かける約束と授業の予習は別のものだ。それに明日は勉強なんてできないだろうから、今日はその分の予習をやる予定だった。
そして、最寄り駅に着いて改札口を出る。そこには本当だとこの時間にはいない人が私の目の前にいた。
「ちいちゃんお帰り。それから入学おめでとう」
本来なら今日の授業は六時間なはず。今は午後二時前。一体何があったのだろう?
「今日って六時間じゃなかったの?」
「そうだったんだけどね。いろいろあって、給食後に授業が打ち切りになったんだ。それでも生徒会の仕事はしたよ。それに一度自宅に戻って荷物だけは置いてきた位だし」
言葉を選んで私に説明してくれているけど、何があったかまでは話してくれない。確実に彼の負担になりそうな何かがあった事は分かった。
「生徒会は?大丈夫なの?」
「うーん、今の俺達じゃ何も決められないから。できる範囲の仕事は割り振っておいたけど。保護者会が夜にあるんだって。終わったら迎えに来てくれるって言うからちいちゃんの家で待っていてもいいかな?」
「別にいいわよ」
突然の話だけど、最近の叔母達は姪の選手コース移籍で夕方から夜8時すぎまで自宅にいない。だから彼がその位の時間まで家にいる事は特に問題はなかった。
給食を食べて授業打ち切りということだから……午前中もかなり早い時間に何かあったという事だろう。
とも君は制服姿であるけれども、デイパックを背負っている。彼のいう親は彼の母親の事だろう。今、私が彼を連れ出す事は、彼にはリフレッシュになるのだろうか?
「じゃあ、次の電車で行こうか?」
「うん」
そして、私達はホームに向かう。
「もう一度、入学おめでとう」
「ありがとう。でもね……今の制服もセーラー服だから中学の頃とあまり変わらないでしょう?」
「そんなことはないよ。リボンタイ……結ぶんだ。朝が大変そう」
「慣れじゃないかな。それに制服……来年には変わるしね」
「えっ?そうなの?」
「うん。運営母体が変わったのもあってね。セーラー服だと夏服の頃って暑いじゃない。それもあるのかな?」
「何か残念。ちいちゃんのセーラー服って俺が入学したら見られないの?」
私の制服姿を見てとも君はいう。中学の頃はリボンタイは止めるだけだったので今から比べると朝が楽だった事は事実ではある。私達も入学式の直前に経営母体が変わる事を知らされた訳で、具体的な事はこれから分かって行くのだと思う。
「今の所はね、入学式に着た制服を卒業式に着用する事だったかな。来年度以降に転入してくると卒業式の時に悪目立ちしちゃいそうね。これに準じて行事の時は統一するかもしれないって先生は言っていたわ。普段はどちらを着用していてもいいらしいの。在校生の私達はかなりお安く購入できるみたいだし。夏のセーラー服は結構気に入っていたから着ていてもいいかなって思う位だし」
「ふうん。ねえ、カメラ持っている?」
「インスタントカメラなら持っているわ」
とも君に急に聞かれて私は答える。今は撮りたい時に取れるようにインスタントカメラは鞄の中に入れてある。
今日も学校の正門の前で直君に撮って貰った。
「俺も……地位ちゃんと一緒に撮って貰っていい?」
「いいわよ。桜の写真も撮りたいしね」
「ちいちゃん写真は好きなの?」
「そうだね。写真でも残ったものは形になるもの。記憶だけだと薄れちゃうでしょう?」
「そうか。ちいちゃん……ごめん」
「気にし過ぎよ。次の電車まで結構時間があるみたいよ」
私達はホームに電車が来るまで取りとめのない話をするのだった。