12
そんな私を見つめていた千世さんはにっこりと微笑んでくれる。
「ちいちゃんは、本当に賢い子ね。直也から聞いていた通りだわ」
「ちいちゃんにお願いしたい事は一つだけ。オリエンテーションでクラス役員とクラス委員を決めるからその時に文化祭実行委員になって貰いたいの」
「文化祭実行委員会ですか?それは何か意味があるのですか?」
わざわざ常設委員会ではなくて臨時委員会扱いであるはずの文化祭実行委員をしているあたりに絶対に意味があるのだと私でも理解できた。
「そうね、生徒会も執行部として参加するから、私達の作業サポートとしてちいちゃんを引っ張るわ。だから実行委員会に入ってくれたら私達に任せて貰えばいいのよ」
真理ちゃんが私に教えてくれる。そうなると……まなちゃんは?私がまなちゃんを見ているとまなちゃんが笑いかけてくれた。
「私は……中学で役員をやっていた関係でいるのね。私も何か委員会やった方がいいですか?」
「まなはね……会計監査に入って欲しいの。でも会計監査は非常勤だから兼任できるわよ。まなはその言質を取って図書委員になりたいんじゃないの?中学で役員の時にお手伝いでカウンターにいた事は知っているわよ」
「流石、真理さん。だったら図書委員と会計監査兼任でいいですか?」
「いいわよ。でも、まなの会計監査は本当に厳しいからね。ちいちゃんもしっかりね」
「えっ?」
「変な言い方しないでください。普通にお仕事していたら問題はないでしょう?」
「そう言われたらそうだけど。お祭り関係はどうしても不明経費が発生するから」
「それを調べ上げるのが私の仕事。ちいちゃんはそれを発生しない様にチェックするのがお仕事。私のメインは部活の支出から不正支出を見つけ出す事だから。忙しい時期がかなり違うのよ」
私の前でにこやかに話している人達が、本当はかなり癖のある人だと分かった。確かに直君も相当な人だからなあ。そんな人達と私は一緒にいてもいいのだろうか、凄く不安になってしまった。
「大丈夫よ。他にも役員になって欲しい人材がいない訳じゃないけど、クラス役員になりそうなメンツが多いからクラス役員の結果次第では釣りあげる予定よ。同じように釣りあげたい新人はいるから、ちいちゃんは気にしない」
最後に千世さんに言われてしまい、私はお断りのタイミングを完全に断たれてしまった。これもまた私の運命なのかもしれない。
「本当にお手伝いでいいんですか?」
「そうよ。それで十分よ。やって貰えるかしら?」
「どうかな?」
真理ちゃんやゆーや先輩も私に確認してくる。ちょっとしか会っていない人を信じていいのだろうか。ちょっとだけ考える。朝直君は私にここで家族を作ってくれると言っていた。直君がいう私の新しい家族がここの生徒会ということならば……少しだけ人を信じてみたく思ってしまうのは私も甘ったれているのだろうか。
「私でもいいというのなら引き受けます。朝に直君から聞いていた事ですし」
「私達もね、直也先輩からずっと聞いていたのよ」
まなちゃんが私の隣に座って話しかけた。
「えっ?どんな話?」
「他校の推薦の話を全て蹴って、君塚まで来る後輩がいるって」
ちょっと待って欲しい。どうして……どうして直君がその話を知っているのだろう?
「ちい、人の口には戸は立てられないからな」
直君はそう言ってから私に向かってニヤリと笑いかける。直君に対しては昔から隠しごとが出来ない事は分かっているのだけど、かなり悔しいのが本音だ。
「直君は……相変わらずなのね。そのデビルイヤー。その話に多少の誇張はありますが否定はしませんよ」
私は苦笑いをしながら答えた。
「ちいちゃんは、何でうちの学校にしたの?」
「それはですね……。私の中学のレベルでは受ける人がいないと踏んだからです」
「ちい……お前以外の三人はどういう事だ?」
すかさず直君に聞かれてしまう。
「加瀬君は真面目に決めたらしいですが、他の二人はかなり邪な考えがあっての事です。そのうち一人とは完全に絶縁状態になっているので構いませんが、もう一人はゆっくりと距離と作ろうと思っていますよ。私の事をどうやらなめているようなので。」
「ふうん。で、どうしてここなのさ。他にも学校はあっただろう?」
「本音ですか?学校の敷地にプールがないのを確認した。それだけですよ」
直君に本音を明かすと笑い始めた。余りにもあほらしい理由だったのだろうか。これはきっぱりと言い切れる。公立ではプールがない学校もあったけれども、それなりに離れた距離で同級生が進学しなそうな学校で敷地にプールがなかったのはS高だけだったのだ。
先生が絶対にお勧めといって推薦の話を持ってきたM学園は屋根付きの温水プールがある。しかも水泳部専用なのだ。K学園にもプールはあるけれども、水球部とシェアして利用するので毎日プールに入って練習している訳ではなかったのだ。それと、実際に通学する事を考えて、私の学力的に周囲を納得させるにはS高しかなかったというのが本当のところだったりする。
「お前な……中二シーズンまで競泳選手で県大会まで言った人が何をいうか」
今度は逆に直君につっこまれる。誰よりも私のレベルをある程度分かっているはずなのにな。
「私は……あのレベルが限界だったんですよ。引き際としては誰よりも美しかったはずですけど?まあ、結果はそれなりに満足はしていますよ」
「本当に地味にむかつくよな。お前のその自己評価。そういえば、クラブの連中はどうなった?」
直君は思い出したようにクラブの私の同学年達の事を思い出したようだ。私達の学年は確かに多かった部類に入る。
「それなりに別れたわよ。クラブに専念する人もいるし、高校でも部活で泳ぐ人もいるし。学校は見事な位にバラけたわ」
「ふうん。そうか。お前は相変わらず同期とべったりか?」
「あそこは私にとっての家みたいな存在なの。クラブを止めても皆は私の兄弟みたいな存在なの。それだけはかえられないわ」
私がそう言うと。直君は少しだけ微妙な顔をした。
「ちい……。今度は俺達がお前の家族になる。いいな」
「そうね、そうしましょう」
千世さんも私に笑いかけてくれている。やっぱり直君の目的がソレだったと私も理解できた。
私の居場所を……私の為に作ってくれるという。そんな直君の気持ちは凄く嬉しい。けれども……今までの事があって素直に受け入れられない自分がいた。
この節はこれで終了です。もちろん続きます。