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「そうなると、こんどは直君のさっきの話だと……私も噂になっちゃうよ。直君には千世さんがいるじゃない」
「それは平気だ。俺の方は部活を中心に根回しは終わっている。俺がお前を連れていても問題はない。それにお前は俺にとって妹の様な存在なのは、千世も勇也も知っている。勇也は……会っただろう?」
直君が私を伺う様に見ている。勇也先輩は……三月の説明会で会って少しだけ話をしたっけ。
「うん、覚えているよ。直君と違って優しい人だったよね。痛い!!ちょっとソレ酷いじゃない」
私が思った事を言うと直君がこめかみをげんこつでグリグリと押してくる。これが痛くない人に私は会ってみたい。
「おお、痛かったか。それじゃあ……痛いの痛いの飛んでいけ~?」
「私、子供じゃないし。高校生だし」
「うーん、それにしては成長が乏しい所がありますなあ」
人のまっ平らな胸元を見ながら直君が言う。セーラー服ってさ、胸がある子は更に大きく見えるし、逆にないと更に平たく見えるのよね。胸は……まだ成長期が来ていないだけ。むっとして直君を睨みつける。
「はいはい。ちいなりに大きくなっているのは分かっているぞ。言い過ぎた。それと……お前生徒会に入れ」
人の頭をぐしゃぐしゃにして撫でた後にさらりととんでもない発言をしてくれた。前にもそんな事を言っていたけど……本気なんだ。
でも……生徒会って普通は選挙だよね。それだけに生徒会活動が活発じゃないって事だけは分かった。
だとしても、こんなにかんたんでいいのかな?その事だけが私の不安となる。
「あれは本当の話な訳ね。直君それって平気なの?」
「平気。そこはお前が心配する事じゃない。会長だけが選挙で決まる。他の役員は会長が引っ張ってきて選挙後の生徒総会で承認を受けるだけだから。お前には会計を頼む予定だ。入学式後のホームルームが終わったら生徒会室に来いよな」
「うん……でも……」
「これはもう決定。今日は役員顔合わせがあるからさ。キビキビ働いて貰うから楽しみにしていろよ」
こうもいい切られてしまうと、受け入れざるを得なくなる。直君らしいなあと思いながら受け入れることにした。
「分かったよ。直君受け入れる。それと……ありがとう」
「ありがとうは余計だ、馬鹿」
直君は再び私の頭を何度か撫でた。
学校について、昇降口に張り出されているクラス表が見えた。既に知ってはいるけれども、理絵とは同じクラスではない。先週あったガイダンスの時は同じ中学だった博子ちゃんと一緒にいた。もう一人いる同じ中学の加瀬君も同じクラスだ。加瀬君の入学の経緯は聞いていないけど、博子ちゃんが私と同じ学校に最終的に決めたいきさつを他の人経由で聞いた時、私はうんざりしている。
博子ちゃん……私の学力を正確に把握していたのかな?受かって同じクラスにもなってしまっているので、表面的には仲良くしているけど……申し訳ないが疑いたくもなる。彼らとは何事もない事を祈る……それだけだ。
「ちい……お前は三組か。一人で行けるか?」
「うん。大丈夫。直也先輩ありがとう。千世先輩によろしく」
そう言って私達は別れた。学校に着くまでに私達はルールを決めた。私達以外の人がいる場所では私は直君と呼ばない。これは中学の頃から続いているから慣れている事だ。何か困る事があったら、千世先輩の所に行く事になっている。
あまり生徒会が盛んな学校でないとは言っても生徒会長の権限は絶大なのだそうだ。
今の所……あり得るのは、私が直君の事が好きというタイプの噂だろう。私としては、あの二人の妹的ポジションでありたい。学校説明会後の学校帰りにあの二人と一緒に既に帰っているので、在校生相手には既に既成事実は出来上がっているはずだ。いつも通りの私でいればすぐに立ち消えるだろうと思っている。
直君と私の関係はほんの少しだけややこしい。学年では、私の一学年上だけど選手コースとしてのキャリアは私の方が先に入っているのでそういう意味では私の方が先輩になる。
直君は一年だけ選手コースが一緒で翌年に近隣学区に出来たスクール移籍したので、そこまで厳密に対応はしていない。プールで知りあう前に私の隣の家のお兄ちゃんの友達でクラブが休みの時には一緒に遊んでいたのが今の関係の切っ掛けになっている。今もそうだけども、私の兄の様に振舞っている。
そんな直君の弟であるとも君と知り合ったのは、それからかなりの時間がかかっている。直君から弟の話はきいていたけれども、初めて本人と会ったのは私が小学校六年生の時の学校の水泳部の時のプールサイドだ。彼が直君の弟である事は知っていたけれども、面識がないから話す事は一切なかった。
私が試合でのエントリー種目で先生達と揉めていた時に口を挟んだのがとも組んだ。泳ぐ事に対しては、私の数少ないプライドの一つを否定する言い方をしてきた彼に対してカチンときて彼とプールサイドで大喧嘩をしてからの付き合いになる。だから夏でとも君とは知り合って五年目になるはずだ。直君は既に知り合って九年目が始まったところだ。
そんな二人とは、予定が合えば一緒に出かけるし、誕生日のプレゼントもあげている。だからバレンタインを出すのも恒例行事の様なものだ。私はチョコレートを上げるが、お返しに私が欲しいと言ったものを二人で買ってくれる。今年は学校で使うノートをリクエストしたのでちゃんとホワイトデーに貰った。学生であるうちはノートは絶対に使いものだからあっても困るものではない。早速貰ったノートは使っている。