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玄関を出た私は、自転車を出した。叔父は入学式に出席しようか?と言ってくれたが私は断った。綾乃の小学校の入学式には出席していないのに、私の入学式に出席したら叔母の機嫌が悪くなる事は分かっている。
無駄に接触しないのがお互いの為なのに……この人はきっと何一つ分かっていない。その事が私をイラつかせる。
今の私が理絵を牽制するには、直君は必要な存在である事も……また事実な訳で。卒業式の後に、私は理絵に今後何かを仕掛けたら、一切許す事はできないと警告はしている。その警告が三年間有効に作用するという保障もないのが、私の不安だった。
結局、優君私を守ってやれない……という意味が何であるかは、まだ私は何一つ分かっていない。これに関しては長期戦を覚悟していて、私はその答えを得てもいいと思っていた。昨日の電話で、創君と優君がN高で同じクラスになった事は聞いている。
「時間をかけてでも……確実に聞いてやるから待っていろよ」と創君からも言われている。それだけでも十分な気もする。
今日は、私一人で学校に行く事になっている。明日からよっちゃんと一緒に学校に行く事をお昼のお花見で確認している。よっちゃんが通う高専もS高と同じ君塚駅が最寄り駅になる。しかも路線バスの途中に高専がある。謝恩会の時に朝は一緒に通うと約束を既にしていた。そして、卒業式の直後から私とよっちゃんははとこであることを隠す事を止めた。一緒に登校して、何か言われてもちゃんと答える事にしている。下手に隠す事が理絵に利用されるのでは?と思ったからだ。
入学式後のHRが終わったら、私は生徒会室に寄る事になっている。昨日とも君から貰った直君のノートの中にメモが入っていた。今のS高の生徒会長は直君の彼女さんだ。三年生になる千世さんだ。私も3月の入学ガイダンスの後に会って少しだけ話をしている。
私とほとんど変わらない背丈で、目がくりくりとしていて、ふんわりとした癖っ毛がとてもキュートな人だ。人の事を言える状況ではないけど、悪戯好きな子猫をイメージさせる。ああいう人をきっとかわいいって言うのだろうなあ。直君だって彼女といる時の顔……結構緩んでいた気がするんだ。そんな事を言ったら……凄い勢いで怒られちゃいそうだけど。千世さんも……直君経由で私の事を知っているはず。私がかつて泳いでいた事も……恐らく優君の事も。
理絵と同じ学校に通うというだけで、私の心の中ではアラーム音がけたたましく鳴り響いている。そきょうgのせいだろうか、今日が入学式だと言うのに私の心は晴れやかとは言えない程だ。
入学式直前に学校であったガイダンスの時に既にクラス分けは決まっていた発表されている。同じ学校ではあるけれども、理絵と授業が一緒になることがないと確定した事は私にとっては大きな収穫ともいえた。2年生になると、文系と理系を選択する事になっている。今のままでいると恐らく理絵とは同じクラスになる確率は限りなくゼロに等しい。文系希望の私と理系希望の理絵が同じにクラスになることはまず不可能だろう。後は穏やかに無事に3年間が終わるのを祈るのみだ。
結局、理絵はS高の合格が決まった途端にN高の受験を取り消した。その行動のせいで、一部の人間から恨まれる事になってしまったが、何も失うものがなかった私は、皆の前で多分初めての反抗をした。「私が言ってもいない事をいかにも言ったように言わないで欲しい。はっきり言って迷惑だし、不愉快だ」と。
その後、結果的にクラスは分裂したまま卒業してしまった。その事に私は後悔していないし、その後のクラスの皆の事も気にはならない。3月末の離任式は面倒だという理由で行かなかった。私を受け持ってくれた担任は異動にはなっていないので、親しくもない先生に義理立てする必要性すら感じなかったからだ。
あれだけ私の事を攻撃していた安井は私に謝る事はしなかったけれど。自分の学校の方が更にお金がかかっていた事を暴かれた結果になってしまった。それ以来私に対しては何かを言う事は、表面的には無くなった。
完全になくなった訳でもなくって、それよりももっと悪意のこもったものは残っている。その噂も私自身にあてはまるものは何もない訳で……。よくもまああそこまで言えるものだなあと言っていた人間に感心すらしていた。




