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In other word・・・  作者: トムトム
2章 歩いていこう ~Ich werde gehen.~
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S高は、私立高の中でも入学式が遅く行われている事が知られている。その為に、春休みだと言うのに、課題がしっかりと出される。3月末の実力テストが終わった瞬間に各教科の課題が封筒に入って渡されるのだ。私は自分で解いたり、スイミングの同期に聞いたりしながら、公立高校の入学式前に全教科を終わらせる事ができた。結果的に、博子ちゃんが終わらないって泣きついて来て図書館で教えている所を加瀬君に見られて、終わってない加瀬君も合流と言う事で、加瀬君の家で勉強会になってしまった。

加瀬君の家は、お寺で小学校の寺子屋の流れを組んでいる。三人兄弟の末っ子とは聞いていたけど、私と博子ちゃんと宿題を消化する姿をお兄さん達もおじさんもおばさんも覗きに来たのには驚いた。

加瀬君……家族からどう見られているんだろう?

おじさんとおばさんからは「今後もよろしくね」って言われたんだけど、それは勉強のサポートをしてくれって意味でいいんだよね?将来の彼女候補なんて立ち位置は嫌だなあって思ったのはココだけの話。

入学式の前までに、弁護士さんのお陰で金銭的な面での叔母達の問題は一応解決した。これを気に叔母達は家を出て行くのかと思ったけれども、相変わらず家にいる。

彼女との関係は完全に冷え切り、会話らしいものすらなくなった。その事に関しては後悔はしていない。

けれども、彩乃……従妹は私をどう思っているのだろうか?こないだは私の家なのに、部屋がないとごねていた。彩乃……ここは彩乃の家じゃないから、あなた達は居候と言いたかったけれども口には出さなかった。


金曜日には、本来私が受け取るべきだった給付金の一部が私が中学卒業後に作った銀行口座に入金された。この入金は後4回ほどある。この他にも私の養育放棄をしたとしての慰謝料と親の遺産を勝手に使った慰謝料と引き出された金額全額が振り込まれる事になっている。今まで私が持っていた銀行口座は弁護士さん同席の元で解約手続きをした。

私がその気であれば、銀行側も訴える事もできたそうなのだが、叔母達の事でそんな事をする気が亡くなっていたのが本当の所だ。メモ帳とかの粗品を一杯貰って解約手続きをした。最終的には最近流行の建売が一軒建てられる位の額が入金される事になっている。

今度作った銀行の通帳もキャッシュカードも弁護士の先生の所に預けてある。事務所のメインバンクと同じ視点で口座を作って、私の手持ちのお金が少なくなると委任状を持って引き出して貰う事にした。

4月の末からは、家賃相当額と光熱費の7割を足した額が入金される事になっている。この契約は、私の家にいるまでと期間を決めてはいない。その代わりに、一度でも入金が遅れたら出て行ってもらう事になっている。万が一そうなったら、本家が叔母達を引き取ってくれると言う。実際、本家には部屋が余っているから今すぐでも越して来い……と言ったらしいが、あの人達はまだ一緒に暮らしている。

この事が露見するまで、叔父は全く知らなかったと言っている。叔父からは一応謝罪は会ったけど、それが本心かどうかは分からない。学資保険の満期金は、そのまま定期預金にすることにした。まだ、誰にも話してはいないけれど、高校の卒業が決まったら家を出る予定で知る。本音は今すぐにでも出たいけれども……それをすると叔母達の思う壺と思えるから今の歪んだ状況を受け入れている。その代わりに今まで私に保護者になって貰っていたのを止めて貰った。何もしないのに、保護者面される事に私自信が限界だと感じたからだ。S高の卒業が決まるのは三年生冬の早い時期になるという。後……約二年八ヶ月間は、この同居人といればいい。私はそう思う様にしようと思っていた。


玄関にある黒電話が鳴っている。この時間に誰だろうと思わなくはない。私自身はあまり電話をかけないし、かかってくる事もまいから今のままでいいかなと思っている。私はゆっくりと受話器を取った。

「はい、佐倉です」

「ちい?俺。創。今……いいか?」

かけてきたのは創君だった。今日、そう言えば何しに来たのか聞いていなかったっけ。

「いいよ。ねえ、今日は何があったの?」

「やっぱり気が付いていたか。その事だけど……ちゃんと聞けよ。俺……富田と同じクラスになったから」

いきなりの告白に私はちょっとだけ動揺した。創君が優君と同じクラス……か。新入学生が400人いるN高なのにも係らず同じクラスとは。

「ちい?大丈夫か?」

「うん、偶然って怖いね。あはは……」

「それとな、智子も同じクラスなんだ。富田の奴、お前の事を智子に聞いていたみたいで、智子の方は何となく察したようだ。それで俺に状況を聞いてきた。大雑把な話をしておいてあるから」

智子ちゃん……そこは受け流して欲しかったな。そう言う意味では彼への想いは一ヶ月前、二か月前より薄いというのか、自分の中で変化している事が実感できた。もっと時間が立てば、きっと忘れられる。

「でさ、富田の奴は智子には……決して許されない程傷付けたって言ったそうだ。向こうも気にはしていたみたいだぜ」

あっけらかんと創君が言うから、気にはならないけど。あの日の事を彼がそこまで背負う事はないのに……と今の私は思う。その事に関しては、私達は共に被害者だと思っているから。


「ちい、何か言う事あるか?」

「うーん、そうだね。もう私の事は忘れて欲しい。前に進んで欲しいって伝えて」

私は暫く考えてから創君に伝える。

「それでいいのか?」

「うん。今の話を聞いても、戻りたいと思わなかった。それに今の私の傍にはあいつがいるから」

あいつ……理絵がいる限り、彼の事が好きでも私から接触はもうしたくはない。

それだけ、恋に対して臆病になってしまった自分がここにいる。

「そうだな。まずはそこの問題があったな。だったら……あいつにバレなければいいのか?」

確かにそれはそうとも言えるのだけど、創君にされた告白の返事をまだしていない。私は思考の迷路に入り込んでしまった。

「うーん……うーん……」

「ちい、悪い。今はまだその時じゃないよな。でも、俺ならあいつ位は対処できるぞ」

「うん。創君。ごめん……まだ無理みたい」

「いいんだよ。ちょっと俺が焦ってた。ごめん」

創君は私に謝る。そういう所は、創君らしくて好きだと素直に思える。好きというよりは好ましいなのかな。

感情を言葉に表す事って難しいなって実感する。

「今はね。傍にいると安心だよ。そのままの私でいていいんだよね?」

「そっか、ソレは最大の褒め言葉だな。明日入学式だろ?この辺で切るな。お休み」

「うん。お休み」

そして、通話が切れた事を確認して、私は受話器を置いた。


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