3
「ところで、その合格パーティーで彼に会えたの?」
雅子ちゃんにいきなり確信に触れられて、私答えるのを一瞬だけ躊躇ってしまった。
「うーん、私の視界には入ったけど?」
「視界に入ったって……その日本語はいいのかしら?」
「それだけって。話とかしなかった訳?」
早速その事を指摘されてしまう。本当は近付きたかったけど、拒絶されたら怖いと思った自分もいて。
「話はしなかった。その代わり、彼の友達からはあの後の話を聞いたらね、私は彼に近づいたらいけない気がしたの」
「うん……。これ以上。無駄に傷口を広げる事も無いと思う。元々高校も、同じ学校に通う可能性はあまりなかったから。あの時に何もなくても……自然消滅になっていたかもしれないし……」
私は今、思っている事をそのままに打ち明ける。今の私に必要なものは時間だと思っているから。
「それで後悔しないのか?」
「どうだろう?あの頃と同じ気持ちかと言われたら……そうじゃない。けれどもね……彼の事をまだ嫌いというか、忘れる事が出来ない」
私は溜めこんでいた気持ちを明かす。皆何も答えてくれない。暫しのこの静けさがすごく怖いと思う。
「それなら、きっと時間が解決してくれると思うよ」
雅子ちゃんが言ってくれる。語尾に多分ねって入っていると思う。その気遣いが嬉しい。
「学校の方向が違うからさ、平気だぞ。多分な」
よっちゃんが言う事もそれらしく聞こえてくるんだから不思議だ。
「今は、それで十分でしょう?考え過ぎる方だから」
はい、静香……おっしゃる通りです。反論できません。
「辛い事があったら、すぐに俺らに言えよ」
「うーん、そうならない事を祈ってくれないの?」
相談しなかったら、本気で怒られそうな創君に私はそれしか言えない。
平凡で普通な高校生活じゃないことが決定する事を同時の私はまだ知る訳がなかった。
「ちい、お前はどんな生活がしたいんだ?」
「希望としては、平凡で地味な高校生だけど……きっと無理ね」
創君に再び聞かれて、私は答える。
「どうして?」
「直君に生徒会の手伝いをしろって言われたから」
「広瀬先輩か。あながち間違っていないというか、なんというか」
一人でいるよりは安全なのはたしかな話で。本音としては、それに甘えたくない自分がいる。
「一人でいるのは禁止。分かる?」
静香に釘を差されてしまう。一人でいる時音が最も危険な事位は分かっている。
「分かっている。大丈夫」
「S高の生徒会って選挙ないのか?」
創君が不思議そうな顔をする。私もそのシステムは最近知った様なものだ。
「なんでも、会長に権限が集約しているから、選挙は会長だけなの」
「ふうん」
「で、直君は副会長なんだって。高校だからそんなに行事がある訳じゃないと思うの」
「そうなの?」
「確か、6月に体育祭と文化祭。後は12月に生徒会選挙が合って1月に予選会位?」
「……行事が無いといえばないな」
「でしょう?それに文化祭は平日だから非公開だもの」
「本当に進学第一だな。地味に過ごしたいお前には打ってつけだな」
「私はそのつもりだからいいの。そういえば、経営母体が変わるんだって」
「なんだ?それ?」
「学校法人はそのままだけど、プロテスタント系の大学の系列に入るんだって」
こないだのガイダンスの時にそんなプリントを貰ったばかりだ。それによると、学校の裏に教会を立てるらしい。
「そうなると、来年度は倍率が上がるのか?」
「多分ね」
あまり学校に宗教色を出す気はないとは言われている。月曜日の集会がミサになる程度。
それって十分宗教色出ていないかな?そこは入ったら分かる事だから私はあまり深刻に考えてはいなかった。
「何とかなるよ」
「相変わらずのんびりと構えているな。そういう事は、周囲との交流行事が休みとかに入るんじゃないか?役員やると駆り出されるんじゃないか?」
「そうね、その時はアルバイトは午後からにして貰えばいいんだから平気だよ」
それから私達は父が残してくれた桜の木を眺めながらお茶を飲む。
一通り話終わった後に彼らは帰って行った。
私の事を心配して見に来てくれたのは嬉しかったけど、漠然とした不安が私には残ってしまった。
今回は通常よりも短めです。