番外 side智 The mornig when I noticed that there was not you. 君がいないと気付いた朝 4
「くやしいなぁ」
ある日の放課後。ベランダからふと声がした。生徒会室から覗くと3階のベランダに佇んでいる彼女の姿が見えて、俺は慌てて彼女のいる教室に向かって走り出した。
「ちいちゃん…いる?」
「広瀬…どうしたの?」
俺は打乱打の入り口から覗き込んで彼女を呼ぶ。びっくりした顔をしたまま俺を一瞬見てから、俺に背を向ける。俺の返事に答えてくれた声はいつもより弱弱しい。
「何か・・・あったの?」
俺はベランダに出て座り込んだ彼女に聞いてみることにした。
「うーん、今の状況を見られたら、大変というかなんと言われるかなぁ」
彼女の言いたいことは分かったので、俺も彼女に倣ってベランダに座り込む。
「なーんかね」
「うん。聞いてるよ」
彼女は言うことを躊躇っているみたいだけど、俺は彼女の顔をあえて見ないようにしていた。
「限界かなぁって。広瀬はそんな時…あった?」
「諦めた時もあるし、諦めきれないこともあるよ」
彼女が今…限界だと思っているって事か。俺に思い当たるのは今はプールしかない。
とは言っても、今年は県大会の決勝まで残ったはずだよな。言い方によっては火に油を注ぐことになり兼ねないから、どうしていいのか素直に悩んでしまう。
「ちいちゃんの目指すものが、根本的にレベルが高いんだよ。違うかな?」
「そこは…否定しない。私の周りのレベルが高すぎるってことは一番私が分かってる。私が平凡すぎるから…」
やっぱり、プールの事で悩んでいたようだ。この悩みは、誰にも言えないだろうなと俺は考える。
彼女の動機に相談したら…そう思えるのならまだできると言われそうだし、部活仲間に相談しても、贅沢な事を言うなって言われる可能性が高いだろう。
今の彼女は、スイミングはやめて、部活だけ続けている状態だ。もしかして、完全引退を考えているのだろうか?
「プールの事でいいの?」
「うん、完全に止めようと思ってね」
「そうなんだ。いいの?ちいちゃんはそれで?」
「今の私では、これ以上にはなれない。どんなにがんばっても県大会決勝進出って状態の自分が嫌なの。体が弱い自分を受け入れても…認めてあげてもいいかなってね」
いつもは、人の悩みを聞くことが多い彼女が弱音を吐ける場所なんてほとんどないだろう。今の悩みも俺が考えていたもの…そのものだし。悩みを打ち明ける人によっては、受け止め方が違うから誰にもいえなくて、ベランダで本音を漏らしたのか。