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In other word・・・  作者: トムトム
2章 歩いていこう ~Ich werde gehen.~
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番外 side理絵 私だって幸せになりたい4

いつもより長いです。

12月に入ると、何となくだけど、佐倉さんの表情が穏やかになった様な気がする。

それが何を根拠にしたものか分からないが、とにかく丸くなったような気がした。

進路の方も大詰めで私もようやく希望通りの学校を選べるようになった。

クラスの中でも誰がどこなのか、まことしやかに囁かれるが佐倉さんの話はでない。

相当成績が上のはずだから、私とは違って選び放題だろう。

親から進路の事でかなりきつく言われたせいだろうか…心の中に黒い何かが芽生えた…そんな気がした。

彼女を穏やかにした原因が分かったのは、冬の講習での事。

志望校ごとのクラス割で同じだった由紀子が言うには、佐倉さんが富田君と一緒にいて、土日クラスの子達に聞くと二人は付き合い始めたのだそうだ。

由紀子の所に行くふりをして二人を私は観察する。

べたべたはしていないけど、にこやかに笑いあっている二人を見る事はできた。

私が知らない二人の時間が確かにそこには存在している。

一年ちょっと前に私が告白した時には振られたのに、どうして…どうして佐倉さんはいいのだろう?

富田君は、夏の合宿では美紀ちゃんと付き合っていたはず…。そう言う事は、佐倉さんは美紀ちゃんから彼を奪った事になるのだろうか?

だとしたら、最低な事をしていると思った。どうして、彼女だけ…そんなに恵まれているのだろう。

そう思うと、あっという間に佐倉さんに対して悪意が生まれるのは自然の成り行きだろう。



冬の講習では、暇があれば二人を観察していた。授業の前にも何処かで勉強しているらしい。

放課後もすぐには戻らずに過ごしているようだし、二人を守るように、土日コースの同級生が近くにいるのもいらつかせた。

そしてある日、私は富田君の友達の話を聞いてしまった。

「ゆうの彼女ってさ」

「佐倉さんだろ?」

「ああ。佐倉さんって事は、ひでのべたぼれだった彼女だよな」

「うん。中1の那つで別れたらしいぜ。だから、あの二人が付き合う事には何の問題もないだろ?」

「ところで、ひでは、その事を…」

「ゆうが言ったらしい。隠していてもそのうち知られる事だからって…」

佐倉さんの前の彼氏は、富田君の友達だった事は分かった。

「だからか。互いに好きなのに、すぐにくっつかなかったのは」

「佐倉さんはどうか分からないけど、少なくても、ゆうは全てを分かった上でだったからな」

「そこに何にも知らない美紀が横入りしたのが、本当のところだからな。俺達にしてみたら」

「そう言う事。美紀があの二人の事をどこまで知っていたかは今となるとどうでもいい話だけど」

想い合っていた二人に美紀ちゃんが横入りか…いい気味。もっと頑張ってほしかったなぁ。

「まあ、別れてからは、ずっと一緒に勉強会だろ?あいつららしいけど」

「確かに。でも、成績はかなり上がったみたいだぜ」

「そうだな」

その事実を聞いたショックで私はその場を動けなかった。

恋なんてしていないと思っていた彼女が、私の知らない所でしっかりと恋愛していたなんて。

しかも…私が振られた人が彼女の彼氏だなんて。

私の心にドンドンと黒くて禍々しいものが覆い尽くす。私はある結論にいきついた。

佐倉が幸せでいる事…それが全て許せないと。



そこから、私の行動は早かった。富田君の家の電話番号は知っていたから、ボイスチェンジャーを使って別れろと脅した。

美紀ちゃんと同じ中学にいた時に仲が良かったという理沙が同じクラスにいたから、佐倉が美紀から彼氏を奪ったと嘘をついた。

口が軽い安井を利用して、佐倉はお金があるお嬢様だから、私立校しか受験しないらしい。だから、私達皆を見下していると。

私が言った事は全てが嘘だ。調べられればすぐに分かりそうなものなのに、皆はあっさりと引っかかってくれた。

本当に笑い転げる位おもしろすぎた。安井のお陰で彼女はクラスから孤立した。

彼女の友人たちは手のひらを返した態度を取った。

理沙は美紀に私が言った事をそのまま伝えたようだ。塾で美紀にこれでもかって罵られたそうだ。

それなのに、どれだけ富田君に嫌がらせをしても二人は別れる事だけはしなかった。

そして、私は最後の手段に出た。二人が受験するK学園の前日の授業を私は振り替え出席して、彼のテキストに直接脅迫状を挟みこむ。

彼女がどうなってもいいのか?という一文を添えて。



結果的に、二人は交際を止めたそうだ。そう、全ては私の想い通りだ。

人を不幸にすることは、私が思っていた以上に楽しい事だ。

佐倉と一緒に受験したS高の方が、私の志望していた公立校よりレベルが高い事が分かった。

レベルが高いってことは、親に対してもいい顔が出来るし、佐倉を監視する事が出来る。

彼女がいい気になれば、また何かを仕掛ければいいと思った。

教室での彼女は全てを拒んでいるように見える。

彼女の見方は今になると誰もいないはず。いい気味と思いつつ、彼女を更に陥れる為に、私は更に罠を張ることにした。

私が使ったのは、プライドの高い智子ちゃんを利用する事。

佐倉が言ってもいないN高の方がS高よりランクが低いと言ったことにした。

案の定、智子ちゃんは激怒し、クラスの皆の前で佐倉を罵った。

私はそれを見てほくそ笑んでいた。まさか其のカノを誰かに見られるとは思わなかった。

その時の私の顔は相当ご満悦だったはずだから。



私が佐倉に足して仕掛けた事は…結局全てではないまでも、クラスの連中には知られてしまった。

一時的にクラスん空気が更に悪化したがすぐに元に戻った。

クラスの謝罪に対して佐倉は受け入れはしたけれども、結局は上辺だけのそんな程度のモノよ。もうすぐ卒業何だからそれでいいじゃないとだけ言った。

私達はほとんど全員彼女に切り捨てらたのだろうなと漠然と考えた。

そんな彼女の側には、今は中野さんと太田君がいる。

中野さんは寄り添うように、太田君は自分が守るんだとアピールするように。

他の皆は彼女が取った行動から一定の距離を取っている。本当に怒った時の彼女の怖さを目の当たりにしたのだから。

そしてそれは私にも言えたことだった。私と佐倉が決めた事はたったひとつだけ…互いに近寄らない事。たったそれだけ。

私が自分のしたことに謝罪する意思がないのも見破られていたようだ。

取り合えず中学を出るまでは、その条件を飲むことにした。

高校に入ったら、佐倉の行動次第では罠を仕掛ける。あいつが幸せであってはならない。その為にはどんな事でもする。


卒業式後の謝恩会で私は佐倉の本音に気がついた。

先生達と組んで出しものをすることは知っていた。

ステージで先生達と楽しそうにゴスペルを歌っていた。

ステージからはけた途端に急に照明が消された。

暫くして、スポットライトに照らされたのは、ウェディングドレス姿の少女。

最初は誰か分からなかった。やがて、ゆっくりと透き通るソプラノでアヴェ・マリアを奏で始める。

その声でようやくステージにいるのが佐倉だと分かった。

ステージ上の佐倉は、ある一点を見つめ歌っている。そのうち、彼女の目から一筋の涙が静かに流れる。

別れても、嫌いになれない。離れてても愛していると宣言しているような気持ちだけは分かった。



4月の合格パーティー。真っ先に私は佐倉をチェックする。

佐倉はドリンク片手に先生達と話をしている。

彼のいる場所は分かっているだろうけど、近付く素振りは見せない。

そして、長居君が彼女に近寄って話をしている。

二人が何を話しているのか、凄く気になるけれども、彼が富田君の元に戻る前に私が富田君に接触しないといけない。

「ごめん、ちょっと抜ける」

私は由紀子に断りを入れてから、富田君の元に近寄る。そしてゆっくり微笑む。

私の笑顔はある程度人を騙すことができる事は分かっている。二人を引き裂く時にそのことに気がついた。

だから、今は私のその武器を最大限に利用させて貰う。

「富田君…久しぶり…今ちょっといいかな?」

今度は…今度は私が幸せになりたい。やっぱり、佐倉の思う通りにはさせない。私は心に誓ったのだった。

だからと言って、理絵のした事はいいことではありません。

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