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In other word・・・  作者: トムトム
2章 歩いていこう ~Ich werde gehen.~
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番外 side理絵 私だって幸せになりたい3

結局、私と由紀子の英検は一次試験も受からなかった。

けれども、学校で受けなかった佐倉さんだけが2次試験を受けた。

学校より1日早く受けているから、問題は知らないわけだから、私達の方が有利だったのは分かる。

ひょっとすると、彼女は計画的に試験勉強をしていたようだ。

今までだって、英語の成績がかなりいいのは知っている。一度定期テストで学年トップだと言う事が結果的に知られてしまった事がある。

その時も然程喜んでいなくて、事務的に受け流していたように思う。その時の顔は水泳で表彰された後の顔とどことなく似ていた。

彼女にとってのテストは、目的に対する通過点でしかなくて、そのゴールが高校合格だということだけが分かった。



ある日の放課後。放送委員の私は備品のチェックをしていた。

教室の向かいは進路指導室になっている。そこから漏れ聞こえてくるのは佐倉さんの声だった。

「私、納得できません。きちんと明確に私が理解できる説明を求めます」

「佐倉の気持ちは理解できるけれども…」

普段ではありえない佐倉さんの強気の発言に先生の言葉が弱々しく感じてしまう。

「先生だって、2年前は受験生の保護者だったでしょう?だったら…自分の息子が同じ事をされても平気だと言えるんですね。私の家は親は守ってくれません。自分の身は自分で守るしかないんです」

「そっ、それは…」

先生が完全に沈黙してしまった。どうやら、佐倉さんはかなり先生を追い詰めているようだ。いったい何があったんだろう?

「もういいですよ。分かりました。あの教科はきちんと授業を受けても、宿題をやっても、それなりの成績でも正当な評価をしていただけないんですね」

「佐倉、そこは言い過ぎ」

「だったら聞きますが。本来、私が評価されるべき評価は一体どこに行ったんですか?誰の通知表にすり替えられているんですか?」

「ソレは・・・さすがに…」

「どうせ、あの人の事です。安井君か智子ちゃん…あるいは理絵の所でしょうね。馬鹿馬鹿しい。本来勉強は自分の為にするものですが、自分への正当な評価が他人にすりかえられると私の進路にも悪影響だけです。

今から先生の力でどうにかなりますか?」

「それは分からない。やるだけはやってみる」

「先生に言われて、泣く泣く進路変更したんですから、その位の事はして下さいよ。それとあの人の授業はもう聞きません。聞くだけ無駄ですね。教科書全ページの予習は受験勉強の一環で既に終わってます。黒板の板書を書き写す程度とテキストを開くだけで過ごさせてもらいます」

「佐倉…それって…あなた」

「他の授業の内職はしませんよ。そこまで馬鹿じゃありませんよ。受験に必要な英語の勉強をするだけです」

「佐倉、そこまでするのは…」

「じゃあ、私をそこまで追い詰めたのは一体誰ですか?私が異議を申し立てないからってやりたい放題の人に言って下さいよ。それこそ本末転倒ですよ。私の事はいちばん先生が良くお分かりじゃないのですか?本気で怒った私がどうなるか?ご存知ですよね」

「佐倉…」

「安心して下さい。先生達が望んでいるいい子ではいますから、時間がもったいないので帰ります」

一方的に言い放った佐倉さんは帰ったようだ。



私はどうやら佐倉さんの事をちゃんと見てなかったのかもしれない。

本当の彼女はかなりのリアリストで、不要としたものは例え先生でも切り捨てていくらしい。

その事に気がついた私は彼女の中にある激情に恐怖すら覚えるのだった。

あの日以来、気がつくと私は佐倉さんを見ている。そんな中で私は気がついた。

彼女はワザと自分の個性を消しているのだ。それがクラスで目立たずに過ごせる術といわんばかりに。

授業でも挙手すらしない。最終的に先生にあてられると淡々と解答を答えるのみ。

そこには感情すら見えなくて、更に怖さが増していく。私達皆に興味がない事だけは分かった。



そんな彼女も友人と話すときは朗らかに対応しているけれども、それが本心なのか、そう見せているのか分からない。

ある日の放課後、日直だった佐倉さんと太田君が話していた。

基本的に男子を名字でしか呼ばない彼女が彼だけを名前で呼ぶ。

二人で学級日誌を書きこんでいるらしい。隣り合って作業している二人を見て何かの違和感を感じた。

「二人って仲がいいのね」

「理絵。それってどういう意味?」

私は二人の作業に割り込んだ。佐倉さんは私のこれからの行動に警戒しているように見えた。

「そういう事なんでしょう?」

私はワザと二人を煽りたてる様に問いかける。

「まさか。私は好きな人がいる。それは創君じゃない」

「残念だが、そんな存在じゃないらしいぜ。俺達さ、小学校からずっと9年間同じクラスだから、それだけ仲が良く見えるだけだろう?ちいは気が合うやつには男女の区別をつけないよな?」

太田君が私達に割り込んで状況を話す。9年一緒か。だったら少しは心を開いていてもおかしくないか。

「そうだよね。何でも、男女の仲に考えられる方が私は嫌だわ」

二人揃って、私の問いには否定する。なんか納得できないけど、今はそう言う事にしておこう。

「日直、お疲れ様。じゃあ」

「ええ、また明日」

「ああ」

私はそう言って教室を後にする。私がいなくなったせいか、二人は再び話し始めた。


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