君が嘘をついた・・・6
自転車で近くの駅まで行く。駅着くと、そこには二日間同じ学校を受ける
幼馴染の姿があった。私か彼らの元へ走り寄った。
「おはよう」
「おはよう。ちい…どうしたの?その顔?」
皆が私を見て驚いている。どう見てもボロボロな私。
瞼の腫れはどうにかできたけれども、目の下のクマはそのまんま。
学校には『ともこ』は二人いるので、チビな私は『ちいとも』と
呼ばれていたが、時間の経過と共に縮まって…今では『ちい』と呼ばれる。
「あぁ、全然寝てないだけだよ。大丈夫だよ」
まさか、付き合っていた男と別れて泣いていましたなんて…さすがに
言えるわけがない。静香だけはゆう君が受けることを話しているから
試験が終わった明日の帰りに話そうかなって思っていた。
「そっか。無理しないで行こうな」
K学園はちょっと遠いから私を含めて4人しか受験しない。
しかも、その4人が幼稚園からの幼馴染なので、気を使わなくて楽でいい。
「なぁ、テストが終わったらチョコレートよろしくな」
義人君が言う。彼女はいないけれども、性格はいいからここでアピールする
ことはないと思うんだけどなぁ。義理チョコなら貰えると思うけどなぁ。
「自分で買ったらどう?」
「妹に貰えるでしょう?」
「コメントは控えるから」
義人君に対して、控えめな事を返しながら、私はゆう君に渡すために買った
チョコレートを思い出していた。
そして今の私は多分…今すぐに泣き出しそうな顔をしているはず…。
「ちい?」
「どうしたの?」
「チョコレートはまだ買えるよ。大丈夫だよ」
私が誰かに上げるチョコレートを買っていなくて、パニックしていると
皆は思っているらしい。
それならそれでいいかなって思っていた。今ここで、昨日の事を
言うことではない。
このことを告げるとしたら、明日のテスト終了後だろう。
出来ることなら、会場に着くまで私はゆう君に会いたくなかった。
彼に自分が何をするか分からなかった。ゆう君を罵るかもしれないし、
殴るかもしれない。
自分自身が彼にどうしたいのかってのが、全く見えていなかった。
K学園の最寄り駅の直前で私はゆう君に気がついた。
正しくはゆう君の友人達によってだけども。
同じ塾に通っている彼らは、私達が昨日別れたことを知らないから、
いつものように話しかける。
私はゆう君と目が合った。けれども、ゆう君はすぐに目を反らした。
完全に拒絶されている。私はもう…ゆう君の元には戻れない。
見たくもない現実を突きつけられた…その時、私の何かがパチンと弾けた。
「ちい!?」
「ハンカチある?」
私は何の言葉を出さずに、ポロポロと涙を両目からこぼしていた。
泣きたい訳ではない。私の意思とは関係なく止まることをしらない涙。
もうどうしていいのかすら分からない。
私の姿を見て、彼らは私と彼の状況を察したようだ。
私は泣いたまま駅に着き、ホームに降りてから階段を上る。
ようやく、改札口を出ると、見なれた塾の先生がいた。
先生は私に気がつくと、足早に私の側にやってきた。
そして周りに聞こえない程度で素早く聞かれる。
「皆が泣いていると言っていたが、優と何かあったのか?」
私はただ頷くしかなかった。ぽたぽたと涙が床に模様を描いていく。
「別れたのか?」
更に涙が溢れる。折角落ち着いてきたのに…。
「分かった。よく聞け。今日は名前を書いたら、分かる問題だけを解け。
他の事は一切考えるな」
先生の言葉にただ私は頷くだけ。何でもいいから縋りたかった。
「あいつ…。とにかく今は行って来い」
先生は私の頭を撫でた。試験が終わったら、忘れられる位泣こうと
私は心を切り替えることにした。