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In other word・・・  作者: トムトム
1章 A turning point ~中3冬~
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君が嘘をついた・・・5

いつの間にお風呂に入ったのだろう?気が付いたらK学園試験当日で

私は布団の中にいた。

昨日、ゆう君から別れを宣告されてから、自分が何をしたのかすら

全く分からない。

唯一分かることは、どうやら泣いたまま寝てしまったらしい。

凄く瞼がとても重くてだるい。ふと姿見を見ると目の下にはクマができ、

目が赤く、瞼を腫らしきった私がいる。



正直に言うと…この顔どうしようって思ったけど、K学園は面接が

なくて、試験のみの学校であることを思い出した。

ただし、5科目受験なので試験が2日間あるだけだ。

それはS高も同じだから、私はあまり気にしていない。

このまま、今日の試験…受けたくないなぁ。

ゆう君にこの顔では受けたくないなぁ。

でも受けない訳にはいかないから、ノロノロと私は支度をした。

食欲がほとんどないから、ホットミルクとシリアルで簡単な朝食にした。

担任の先生が何でもいいから口にしろって言っていたしね。

制服に着替えてキッチンに向かうとまだ誰も起きていなかった。

ひんやりとしたキッチンで私は簡単に用意する。



外から見ると、仲のいい家族をしている様に見えているだろう。

でも…実態ははりぼてな家。私は居候以下なのかもしれない。

一緒に食事をすることなんて…今ではほとんどないから。

急に一人になったあの日から暫くは、祖父母が一緒にいてくれた。

私が知らないうちに、叔父夫婦が一緒に住むと言ってきて同居が

始まった。

その時は、まだ母は病院にいたけれども、意識はなくて…世間で

言うところの植物人間状態。



最初のうちは、気にかけてくれた叔母も自身が妊娠してからは

一変した。そりゃ…そうだろうね。自分の子供の方がかわいいもの。

姪が生まれてから最初のうちは、妹の様に姪を可愛がったものだ。

けれども…そこから何かが狂っていったんだと思う。

姪にお金がかかるようになると、徐々に態度が変わっていった。

生活費は、両親が残してくれたお金を決まった額を叔父の口座に

振り込むように銀行にして貰っていた。

基本的に、自分の生活に必要な物は全て親が残してくれていた口座から

引き落とされている。冷静になっておかしいと思ったことができたのは

受験するので、母が亡くなってからの通帳を見るようになってからだ。



小学校を卒業する前に、かなりまとまった額のお金が引き出されていた。

私は、そんなことをお願いしたことはない。プールはお金がそこそこ

かかる競技だけども、私はそこまでお金を使った記憶はなかった。

同時期に親戚からおかしなことを言われた。

『私にお金がかかって自分の子供が育てられない』

叔母にそう言われる理由が分からなかった。

プールに行っているから、ベリーショートな髪でクラスの女の子のように

おしゃれな服を持っているわけではない。欲しいとは思ったけど少年顔の

自分には似合わないのが分かっていたから。

ジーンズにトレーナー。シャツにTシャツ。

洋服を買う時間がまとまって取れないから、プールの同期のお母さんが

ついでと言ってたまに買ってくれたり、日曜練習の後に友達と一緒に

洋服を見に連れて行ってくれたりした。



『妹ちゃんは赤ちゃんだから』

『ともちゃんはプールの皆が家族なんだから』

『もっとわがまま言いなさい』

その頃の私は、子供らしい感情を表に出さなくなっていた。

家にいても、話を聞いてくれない。必要な物も買ってもらえない。

自分がどこにいていいのか…それすら分からなかった。



私にとって、プールは家族そのものだった。スイマーとしては決して

恵まれていた訳ではなかったと思う。人よりちょっと早いだけ。

だから、試合にエントリーするのも徐々に減らしていった。

自宅にいれば、姪の世話をして叔母が楽になると思ったから。

そうしたら…私にも目をかけてもらえるかもなんて子供ながらに

いじらしく考えたこともあった。全部無駄だったけど。



夜遅く、叔母が叔母の親戚とかけていた電話を聞いてしまった。

『この家…早く自分のモノにして、私を追い出したい。でも実行すると

娘のことがあるからできない』…と。

その時の私は中学2年生になっていた。その時…ようやく全てが

分かった気がした。どうして私への態度が違ったのかを。

悔しかった。好きでこんな人生を歩んでいるわけではなかった。

その時、自分なりに調べた。自宅の名義は私のもの。税金の支払いは

私がしている。それは母が亡くなった時にいろんなことと一緒にしたからだ。

いわゆる公共料金の支払いも全て私が相続して名義変更をした私の口座から。

食費に相当する金額も、毎月一定額が叔父の口座に振り込まれている。

その金額も…今思えば十分だと思う。


とりあえず、今後も後3年は同居しないといけないだろう。

S高には寮があるんだけども、寮に入りたいと言った私を反対したから。

叔母達の事も今のままではいけないと思う。

これ以上、関係が悪化することもないだろうから、高校に入る前に

これからのことをキチンとしたいと思う。

高校生ならば、最悪自宅で一人でも暮らせるだろう。

今日受験をする世間的な中学3年生とかなりかけ離れているなぁと

そんなことをのんびりと考えていた。

今着ている制服だって…お古だものなぁ。大きくなるから新品はいらないって。

この制服も、幼馴染の静香が入学した時に来ていたもの。今年入れ違いで

静香の妹が入学するけど、既に私より大柄な彼女の妹では着られないと。



静香だけが…今の家の内情を知っている。母達が残してくれた田畑が

静香の家の田畑を隣接しているからだ。

幼いころは、二人して畑でシートを広げて一日遊んだものだ。

一緒にプールに通ったこともある。静香はピアノに専念する為に

途中でプールを止めた。

私も…自分の限界が見えたから、中学1年のシーズンを期にスイミングも

水泳部も止めてしまった。

今は受験だから、同期の皆にも初詣以来会っていない。

今日のK学園で会うはずだ。同期の皆も受験することになっている。

この腫らした顔ではやっぱり会えないし、私が会いたくない。

出かけるまでの間、私は腫らした目を冷やすことに専念した。

変な所で、負けず嫌いで強がる自分に苦笑いするしかなかった。

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