Let's try!! 4
塾に通う前、歩行者天国になる日は、ひで君達と滑っていたローラースケート。
ジャニーズのアイドルの様にはできないけれども、ちょっと滑る位は何なくできる。
「ほらっ…早く!!置いていくわよ」
靴を履いた私は彼の背中を少しだけ押した。
歓声の法則で緩やかに動いてしまうローラースケート。
「ちょっ、ちょっと、ちいちゃん!!押すのはなし!!それにスカート!!」
彼は凄く焦っている。それに良く見るとどことなく腰が引いている気もする。
ひょっとして…彼にもプライドがあるだろうから、言うのは止めよう。
靴を借りる時も私はローラースケートよりもちょっとだけ難しいローラブレードを借りた。
その分だけ、加速度が違うからどうしても滑るスピードが変わってしまう。
「スカート?平気、平気。ちょっと滑ってくるね。無茶しちゃだめよ」
私は彼を置き去りにして一人で滑る。
きっと…今日は私が知っている誰かがいると思っていた。
滑って暫くすると、見覚えのある三人が見えた。私のプール時代の同期だ。
私は三人に近付いて行く。
「久しぶり!!三人共…元気だった?」
「あれっ?とも?久しぶり!!とももアイススケートの練習?」
私のS高の実力テストの後に、クラブの同期とアイススケートの行くことになっていた。
とりあえず、滑ることに慣れておこうと考えていたのは、私を始め、皆考える事は同じみたいだ。
「それだけって訳じゃないけどね。一緒に来ている連れが情けないからさ、ちょっと自分だけで楽しんでる」
「ふぅん。ひでの親友と別れたってのは本当か?」
ゆう君の事ね。そういえば、付き合う前にゆう君ともローラースケートをして遊んだ事を私は思い出していた。
「うん。そうだよ。ひで君が言ったの?」
「あのなぁ。あの場所でアレだけ大泣きしていたら、誰だって気がつくものだろ?」
あっ…そうですか。そんなに見られていたんだ。私ってば。
「気にはしていたんだけども、ともが声を出さないで泣くって、余程の事だから私はあえて聞かなかったの」
「俺が覚えている範囲で、その前に大泣きしていたのって骨折して復帰した時以来だよな?違うか?」
私は三人が何を言いたいのかが分かった。
クラブを辞めたといえども、幼稚園に入る頃からの約10年の私達の歴史は飾り物ではないようだ。
「ごめん…三人とも。今は大分落ち着いたから」
私は三人に謝った。三人でこの程度って事は既に皆は知っているって事か。
「あの場で動けたのは、ひでだけだから。俺は何もしなかった」
「私も。ひでが抱きしめていたからね」
「ひでの事だから、戻って来いって言ったんじゃないのか?」
三人が今までのひで君と私の関係を知っているから説明する必要はない。
最後に言われた事は図星だった。あの後からひで君には戻ってこいって言われていた。
「ともはどうしたいの?やっぱりひでの所に戻る?」
三人が私に聞きたい事は分かる。
でも、私が決めた事は一つだけだ。
「私は…日で君の所には戻らない。どれだけひで君が私の事を想っているか分かっている。だから…だから戻れないの」
三人に向かって、私ははっきりと宣言する。
そこだけは曲げたくない私の意志だった。
「どうして?ひで君ならもうもう大丈夫だって」
「違う。そんなんじゃない。皆…違うの」
私はそう言ってから、溜め息をついた。
「男と女の恋って…言えるほどの恋の経験はないんだけどね。私が弱っている時に手を伸ばしてくれる男の人の手を取って甘えてるのは、恋のマナー違反だと思うの」
「マナー違反?」
三人が私に聞いてくる。
「だって…彼以外の人をまだ想っているのに、付き合うんだよ。私だったら…そんな事はできないよ。それに、今は…」
私はそこで言葉を濁した。今の私は今のひで君に甘えていられる時期ではない。
そんなこと位、私自身が一番分かっている。
「今…そっか」
「そうだね。ともはそこまで…」
「この春休みだって…ひで君は強化合宿でしょ?今回のチャンスを手にしないと4年後になっちゃうんだよ。私にかまけてる時間なんてないはず。私のことなんかよりも。ひで君の夢を叶えて欲しいの。だから戻れない。今は一人で頑張る」
「とも…」
今回の幹事役の忠君が呟いた。
もちろん、忠君達が言いたいことも分かる。
私達…皆、成長している。
二年前の子供だったころとは違う。
それは十分わかっているから、今は頼れない。
「なあ?とも。あの男が今日の連れか?」
忠君が私に聞いてきたので、私は振り返る。
そこには必死になってこっちに進んでいる広瀬の姿があった。
そういえば…すっかり忘れていたよ。
「忘れてた」
「新しい男?」
「あのね、さっきの話を聞いても…そこな訳?違うって」
「本当に?」
「あいつは気ごころの知れた後輩だよ。彼のお兄さんが高校に先輩になるんだ。本当なら今日はお兄さんに参考書を見て貰う約束だったんだけども…流れて弟が代理で来ているの」
「まあ…そう言う事にしておいてやるよ」
「そうそう、忠君、どうやら数学の教科書が同じみたいだよ。高校に入ったら…分からない時はよろしくね」
「はいはい。とも…あの学校で大丈夫か?」
「さあ?私は、平凡な女子高生になりたいのよ」
「S校に…プール…ないよな?」
「うん。だから行くんだもの」
「それでいいのか?」
「私なりに楽しかったよ。そんな事、皆だって分かっているじゃない」
「そうだよな。じゃあ、今度は俺達を見に来るか?
「読んでくれれば、応援に行くよ。一番近いのは…GW?」
「そうだな。詳しくは、スケートの時でいいだろ?それよりも…睨んでるぜ」
「そう…。それじゃあ戻るね。スケートの時ね」
そう言ってから、私達は別れた。私は急いで広瀬の元に戻る。




