Let's try!! 3
「ちいちゃん。ちいちゃん、どうしたの?」
広瀬が私を覗き込んでいた。
「うわぁ…びっくりしたぁ。ちょっと考え事をしてた。ごめんね。ねぇ…それよりもまだ背が高くなってない?」
「そりゃ…成長期ですから。それから、それを挨拶言葉にしないで下さい。いつも言いますよね?」
「うーん、私としては、おはよう感覚なんだけどなぁ…なんでよ?」
「親が…俺がまた大きくなったって泣いているから」
俺が凄くまじめな顔をして言う。
私は意味が分からなくて、怪訝そうな顔をする。
「制服を買い替えるんだって…さ」
それは確かに親泣かせかもしれない。
けれども、広瀬にはなお君…兄の制服があるはずだよね。
それはどうなっているんだろう?
「なお君の制服は?あるはずだよね?」
「兄貴の制服を今着ていて…。その制服がきつくなってきて…」
シュントした顔で呟く。
なるほど…なお君より大きくなったってことね。
親としては嬉しいけれども…同時に親不孝もしているんだ。
「いいじゃない。それでも。そんなに高くなりたくないのなら…私にちょうだいよ」
「ちょうだいって…。そんな子供見たく言わないで。あげられるものなら熨斗を付けてあげますよ。今すぐに」
「まあまあ。それはともかくとして、何であろうが広瀬は広瀬でしょう?」
「ちいちゃん、俺の事が苦手なのか嫌いなのかと思ってた」
いきなり言われたことの真意が分からない。
それよりも、なぜ私が広瀬の事を嫌いにならないといけないのだろう?
「なんで?」
「ちいちゃん、背の高い男…嫌いだろう?それとも苦手なのかな?」
真剣な顔をして言う彼を見て、私は微笑む。
それは…ちょっと違うんだよね。
説明して、分かってくれるといいんだけど…。
「背が高いから嫌いじゃないの。上から一方的に見下すように見られるのが嫌なだけで、背が高いだけで嫌いって言ってる訳じゃないの。それに私より背の高い男が嫌いってなったら…ほとんど皆嫌いになっちゃうよ。ってことは、私の恋愛対象になるのが、小学生じゃない。そっちの方が…個人的にはどうなのかな?言っておくけど、そういう趣味の人を悪くも言ってないから」
私は広瀬に分かってもらえるように説明する。
こう言う時、人に伝えるのがいかに難しいか痛いほど分かる。
「ちいちゃんの言いたい事が分かったよ。じゃあ、俺は嫌われていないんだよね?」
「もちろん。あのね…嫌いな人とはそれ以前に一緒に本屋に出かけたり、デートなんてしません。お分かり?」
私は彼の目を見て話す。
嫌いな人と出かけるお人よしなんて、この世に存在するんだろうか?
そうならば、ぜひ一度お目にかかりたいものだ。
「ごめんね。気になることを言って。それと、聞いてみたいんだけど…」
「ん?何?」
「兄貴の事はなお君なのに、どうして俺は広瀬なの?」
「…なお君は、去年の学校見学であった時に言われたのよ。それだけなんだけど」
「ふぅん。なんか…兄貴ムカつく。俺も呼び捨ては嫌だな。本当は」
「そう。何て呼ばれたいのよ?さとしくん?」
「それも…ちょっと…」
「何か考えます。それでいい?」
「なんで?」
「だって…皆と同じなのは嫌なんでしょう?だったら時間が欲しい」
私は思い浮かばないからすぐに答える事はしなかった。
「じゃあ、楽しみに待っているから」
彼は目を輝かせている。
そんなに期待されてしまうと却ってプレッシャーになってしまう。
「今日はどこに行こうかな?お金かけない所がいいよね?」
「えっ、本屋とか文房具屋じゃないの?」
「それだけでいいのなら、それでもいいけれども。期末も終わって、ちょっとは遊びたいでしょう?」
「だって、ちいちゃん…実力テスト」
「一日位遊んで出来ないテストな訳ないでしょう?それにこれからはずっと勉強できるんだから。今日くらいはいいじゃない?それなら…少しだけ遊んで帰ろう?」
「うん…だったら、遊んで帰りたい。それよりもお金をかけないで遊べるの?」
「もちろん。でも、ウィンドーショッピングじゃないから。とりあえず、本屋に行こうか?文房具屋は変える前でいいから。行こう」
私達は、本来の目的である本屋での参考書探しをすることにした。
「これでいいの?ちいちゃん」
「うん。貰った中に教科書ガイドもあったしね。ひつようならまた買うからいいわ」
「ふうん。そうなんだ。…で、どこで遊ぶの?」
広瀬は不安げに私を見ている。
彼のイメージでは、私は休日に外出しないイメージなのだろう。
確かに私が自分の意思で出掛ける事は少ないけれども、誘われてそれなりに出かけているんだけどな。
「大丈夫。たまには私に任せなさい。とりあえず行くわよ」
私は広瀬の前を目的地を目指して歩いていく。
今日は日曜日の午後。それでお金を使わないとくればアレしかない。
「歩行者天国でローラースケートをしよう」
「ローラースケート?できるの?」
「アイススケートよりは…ね。アイススケートはなんとか止まれる程度だけど…もしかして…出来ないの?」
「俺も…子供の頃にやったけど…」
「じゃあ、決まり。靴は借りれるから…ほらっ、行くよ」
こうなったら、久し振りに楽しもう。折角の休みなんだもの。
「分かったよ。ちいちゃん、俺が上手だったらどうする?」
「まっくでポテトおごってあげるよ…クスクス」
彼は元々負けず嫌いだから、私の言い方で火がついたみたいだ。
私は早速靴を借りて、歩行者天国で滑り始めた。