君が嘘をついた・・・4
自宅に戻った私はいつもの通りに、食事をして寛いでいた。
今の自宅には私しかいない。一緒に暮らしている家族は外出している。
今日は9時頃にならないと戻ってこないだろう。
お風呂の用意をして入ってしまってもいいんだけど、9時にお風呂が
沸いていればいいかなと思う。
時間はもうすぐ8時になる。夜8時頃にゆう君から電話がかかる時が
あるから、いつも時間が近くなると落ち着かない自分がいる。
でも…明日試験当日だから電話は…どうなんだろう?
8時を少し過ぎてから、玄関の電話が鳴った。
「もしもし?」
「俺?りんは何をしてた?」
「私?家族が出かけてるからそろそろお風呂沸かそうとしてた」
「明日試験な受験生がいるのに?凄い親だな」
「そうだね。普通のお家とは変わっているかもね」
ゆう君に指摘されて私は一瞬答えるのを躊躇ってしまった。
ゆう君に話していないことはたくさんある。ずっと彼といっしょにいると
自分は決めていたから、試験が終わってから話そうと思っていた。
私には両親が交通事故で亡くしてしまっていないこと。
今、一緒に暮らしているのは叔父の家族と一緒なこと。
今の家に私の身の置き場がないこと。
付き合う前にそれとなくゆう君には漏らしたことはある。
それを覚えていてくれれば…そんな質問にはならなかったかもしれない。
私にとってはいつもの事なので、既に気にはしていない。
逃げたくても逃げることのできない…私の現実だから。
「ゆう君は、何をしてたの?」
「俺?もう少ししたら寝ようかと思ってた。声が聞きたくて」
「うふふ…。明日だものね。一緒に通う確率が低いのに同じ学校が
受けれるだけって…私…嬉しいんだ」
「そうだな…。りん…」
いつもより少し低いトーンで私を呼ぶ。一気に不安が押し寄せる。
「何?ゆうくん?」
「俺達…別れよう」
私は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
ゆう君…今…なんて言ったの?
「今日、今、そんな事を言うのは卑怯かもしれないけど…」
「な…ん…で…」
私はやっとの思いで、その言葉を絞り出した。
夕方別れるまでそんな話すら出なかったのに。どうしてなの?
「俺たちの志望校ってK学園以外…別だろう?って事はいずれは別れることに
なるだろうな。だったら…今がいい」
確かに、可能性としては高校生になってから別れることはあり得る。
なのに、何故…今なの?今週末でもいいことなのに…。
急に突きつけられた現実を私は受け入れることができないでいた。
「嫌。私は別れない。私にはゆう君しかいないのに」
「りん…。よく聞け。いずれは一人になるんだ」
「でも…私…ゆう君しかいないの。一人になんてなれないよ」
気が付いたら…両目から涙が零れ落ちていた。
感情の変化にすら自分がついていけていない。
「お前は強いから大丈夫。今は無理でも時間が解決してくれる」
「ゆう君。そんな言葉が欲しい訳じゃないよ。一緒にいたいのに」
「ごめん、それは出来なくなったんだ。今はそれしか言えない」
「絶対に…絶対に駄目なの?」
電話越しのゆう君は私が泣いていることに気が付いているだろう。
もう、なりふり構ってなんていられなかった。
それだけ、ゆう君の存在が自分の中で大きくなっていたことに気づかされた。
もしかして…それは私の独りよがりな感情だったのだろうか?
何を信じていいのか…それすら分からなかった。
「りん…これだけは覚えていて。お前のこと好きだった。好きだから…
大好きだから…キスをした。俺のこと恨んでくれてもいいから」
「好きだから…ゆう君の事恨めないよ。そんなこと言わないで」
「いいや。もう終わりだ。元気でな。りん…大好きだったよ」
ゆう君は一方的に言って電話を切った。
受話器越しに聞こえるプーッという音が全てを物語っている。
もう、ゆう君と一緒にはいられない。手を繋ぐこともない。
囁き合うことも、頬を寄せることも…もうない。
自分が一番大切にしていたものを再び失ったことを悟った。
ほんの3時間前には大好きだよって言ったのに?
キスもしたのに?なんで?どうして?
私…何かしたの?全く分からない。
突然訪れた嵐のような出来事に、私は一人取り残されてしまった。