I will graduate something? 何を卒業するんだろう? 17
「分かったよ。直也には言わない。俺は…俺は何かしてあげられる?」
私の言う事の真意は分かってもらえたようだ。
とも君にして貰いたいこと…か。私は暫く考えた。
「そうだね。私を見ていて?暴走しない様に…」
「それでいいなら。ちいの事を見ている。そろそろ最終下校時間になるから帰ろう。ほらっ」
彼は経って私に手を差し出した。
「暗いの怖いだろう?本館に行くまでの間まで…な」
確かに、私は暗い所は嫌いだ。
私は彼の好意に甘えることにした。
繋いだ手のぬくもりがとても心地よい。
ゆっくりと私達は廊下を歩いている。
シーンと静まった校内は私達の靴音しかしない。
「怖くないか?」
私を心配して彼は尋ねる。
「大丈夫。一人じゃないから。ありがとうね」
「ねぇ、ちいは今…好きな人っているの?」
突然、彼が私に聞いてくる。
自分の気持ち…本当の所は誰にも話してはいない。
けれども…あの直感の鋭いあの人には気付かれてるとは思ってる。
少なくても…後1年は相手に告白するつもりはない。
また、前の様に巻き込まれて気づ付けてしまうのだけは嫌だから。
「まだ…前の彼氏の事…」
「やだ、そんな昔の事。違うよ。他の人よ」
「告白しないの?」
「うーん、今は言えない。今は見ているだけでいいの」
「ふうん、良く分からないな。女心って」
「それは、多分…私自身の問題だと思う。今度は私以外にも無駄に傷つけたくないの」
「その発言…知っているだけに重いな」
「その事はもういいでしょう?いつまでも引っ張らないでよ」
「ごめん…」
「それに、そんな面倒臭い女といてくれるかどうか、見極められるしね」
「本当は理絵先輩に知られたくないんだろう?」
「分かっているなら、口にしないの。分かるでしょう?」
「さすがに、前と同じ事はしないと思いますけど…」
私はそれ以上の言葉を続けられない。
既に黒とも言えないグレーな事を理絵には仕掛けられている。
今までは実害はそれ程なかったからまだ良かったけど、今回の件で…確証が取れた。
あいつが…何か私に対して企んでいるという事を。
「でも…ね。今回の事はきっと仕掛け人だろうね。そんなことをして理絵にメリットがあるんだろうかね?」
「さあ?ちいが生徒会長にさせないためじゃない?」
「やだ。私生徒会長にならないよ。現状維持の予定だけども」
来週、公示になる生徒会選挙の話になる。
「じゃあ、直也は誰に生徒会長を依頼するんだよ」
「私は宮下君を会長にするらしいよ。現2年生をすっ飛ばして1年だけどね」
そう、現2年生でリストアップはしたけれども、部活の部長になっているメンバーが多いので断念したのだ。
「成程…。それでいいのか?2年生としては」
「いいと思うよ。片桐さんは、予餞会委員長でしょ?一応来年の文化祭実行委員長をお願いしたいなって話を水面下で進めてるの。だから片桐さんに会長をやってもらいたくないんだ」
「俺は現状維持できるといいな」
「どうかしら?現役員は、宮下君ではなくてとも君が会長になるべきだって言ってるよ」
「兄貴から引き継ぐのってどうなんだよ?」
「だから、なお君は宮下君の入れようとしたの、来年の任期後はとも君達が決めればいいって」
「現役員で2年はちいと真奈先輩だけじゃない」
「だから、さっき言った通りの理由があるんだってば」
「そっか。でも理絵先輩の彼氏ってまだ…」
「別れたって話を聞かないからまだ…そうなんでしょう?彼が決めたことで私には関係ないもの」
私はそう言うとため息をついた。
「全く…。そう言う事を言うから氷の女って言われるんだぜ」
「別にいいよ。それでも」
「世の中って、なんか理不尽だな」
そう言うと、彼はため息をついた。
「そんなものなのよ。世の中って。為行きつくと幸せが減るんだって、いいの?幸せが減っても」
「それは困る。それよりも…あの日の真相は分かったのか?」
とも君は私に聞いてくる。あの日の真実…。
私に起こったことに限定すれば分かっている。でもそれだけでは足りない。
彼をあんな行動させるきっかけを作った張本人が誰であったか…だけがまだ分からない。
恐らく、もうそこまでは今の私達では辿りつくには難しいだろう。
私達は素人探偵だから。ここら辺が引き際なのかもしれない。
「彼の真実なら、分かったわ」
「創先輩が…ですか?」
彼の顔が少しだけ曇ったきがした。
「正しくは、創君と智子ちゃんがね」
そう。二人がいなければ私は彼にとっての真実すら分からなかっただろう」
「三人とも同じ学校だから?」
「うん。それに…創君と智子ちゃんって付き合い始めたんだって」
「へぇ、俺としては都合がいい話だぜ」
とも君が聞きとりずらい程低い声で何かを呟いた。
「何?」
「何でもない。その事を知った二人の反応は?」
「特に聞いていない。それよりも聞くことが怖い」
第三者の意見を聞くのが怖くて、私は真実しか聞いていない。
私は彼と復縁したい訳じゃない。タダ…知りたい。それだけ。
それ以上の情報は…私には不要なものだ。
「あの二人の事だから、内診残っているかもな」
「創かもね、意外にお人よしだからね。あの二人。もしも…私に何かがあったらその時は全てを明かすつもりらしい。二人とも」
「何かあると思う?」
「私は思わない…違う。あってほしくないと思う。思いたい。理絵の事だから私の事は誰を相手であろうとも悪く言ってると思うよ」
私はそう呟いた。
理絵は私の事が嫌いだから、私の周りが賑やかなのが気に入らないのだと思う。
理絵の彼氏が誰であろうと、私には関係ない話だ。
今の私は…あの二人とは無関係な…はず、そんな時、私にある考えが過った。
ひょっとしたら、私だけが終わったことにしているのかもしれない。
私の存在が二人にとっての何らかのストレスになっている…。
だとしても、私には関係ない。そこは二人でどうにかして欲しい。
重たくなる心を感じて、私は今日何度目か分からないため息をついた。
彼の手が私の頭に触れる。ほんのりと彼のぬくもりが頭上に広がる。
「大丈夫。俺も兄貴もいるだろ?」
不安げな瞳で彼は私を見ている。これ以上、彼を巻き込みたくない。
彼はこの泥沼に入り込んではいけない。
「そうだね。頼りにしてますよ」
「じゃ…本当に帰ろう…ちい」
私達はゆっくりと静まった廊下を歩いていた。
「ちい…起きて…そろそろ立つよ」
私は隣の子に起こされる。そういえば、今は卒業式だ。
ぐっすりと寝ていたみたいだ。
なんか…見ていた夢が妙に生々しいけど…気にしない、気にしない。




