表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
In other word・・・  作者: トムトム
1章 A turning point ~中3冬~
4/134

君が嘘をついた・・・3

「りん…終わったよ。今日はどうしようか?」

ゆうくんが心配そうに私を見ている。周囲を見回すと私達以外は誰もいない。

ようやく、私は授業が終わったことに気がついた。

ノートは見事な位に真っ白。全く授業を聞いてなかったようだ。

「うん…今日は早く帰ろうかな」

ゆうくんは私の肩を引き寄せて抱き寄せる。

「なあ?俺はりんを守ってやれてるか?」

「うん、私は…私はゆうくんがいれば…それだけでいい」

彼の顔が近付いてきたから、私は目を閉じて彼に身を委ねる。

彼の唇が私の唇に触れる。

何度となく彼とキスはしているのに、今のキスはお昼にしたキスと違う気がした。

いつもと同じはずなのに…何かが違う。

押しつぶされそうな位、不安になった私は彼の背中に腕を回した。

彼を手放したくなかった。



ゆっくりと唇が放れて、寂しげに彼が笑う。なぜそんな顔をするのか分からなかった。

でも、その表情はすぐに消えて、いつものゆう君に戻っている。

「そうだな。明日があるから、もう帰ろうか」

私は頷いてから、鞄に教科書を入れ始めた。

でも…本当は帰りたくなかった。今、このまま帰りたいとは思えなかった。

今日はそんな我ままを言ってはいけないことも分かっていた。

彼の手に引かれて私は歩き出した。



帰り路。いつもならあまり聞かない私の学校の事ばかり、ゆう君は聞いてくる。

学校では目立たず、ひっそりと生活をしているから、取り立てて話すことがない。

だから、必死に思いだしては、私はゆうくんに話している。

音楽のギターの課題がクラスで一番早く終わったこと。

校内の合唱コンクールで、たまたまうちのクラスは私立を受ける子と推薦入試で

内定が取れている子が多いから、ハレルヤを歌うことにして、ラテン語を覚え

始めて大変だということ。

明日、同じ学校を受ける子は皆幼稚園からの幼馴染だということ。

いつもは私が聞き役なせいか、すぐに話が途切れてしまう。

「りんは目立たないかもしれないけど、ちゃんとやってるんだな。

そういう子のことをちゃんと見てくれる人がいるからな。」

塾にいる時に私がクラスで浮いているということを意識した返答が返ってくる。

皆が皆…そういう訳ではない。けれども…クラスでいつもいた友達が去って

いったのが、自分にとってはショックだったのが今になって分かった。



「大丈夫か?りん?」

「平気だよ。私…悪いことしていないもの」

「りんは…強いな。俺だったら…無理だな。多分」

「そんなことない。同じ学校じゃないけど、ゆう君がいるから…頑張れる。

私だけが頑張ってる訳じゃないもの。昔から苛められてたから…ね。

一番話をする子は学校では最低限の接触しかしてないんだ」

「なんで?」

「彼女を巻き込みたくないの。私が彼女を守ってあげられるのはそれしかないから。

でも、電話したり、手紙出したりしてるんだよ。それで繋がってる。静香は誰よりも

私の事知っているから。他のクラスにも友達いるから。完全な孤独じゃないから」

「そっか。それならいいんだ。こんな時、学校が違うってキツイな」

ゆう君はそう言うと私の手を少しだけ力を入れて握る。

私達が過ごせる時間は、同じ学校にいる恋人達と比べたら確かに短い。

けれども、恋人のなるまでの時間が私達の絆の素になってる。

どんなに離れても、互いが思い合っていれば大したことないと思ってた。

「私達…一緒の学校じゃないけど、このままいられるよね?」

ふと不安がよぎってしまって、私は聞いてしまう。

「そうさ。別の進路だと分かっていて告白しているんだからさ、その位の覚悟は

とっくにしているさ」

ゆう君が繋いだ手を更に力強く握る。そうだよね。このまま続くんだよね。

大丈夫だよね。



そうして、ゆう君と一緒に電車に乗る。乗っている間も他愛のない話をしていた。

そうしているうちに、私達が乗り換える駅に着いた。どちらかが先に降りて見送るのが

私達の約束だ。今日は私が彼を送るはずだった。

なのに、ゆうくんは電車を降りてしまい、電車は発車してしまった。

「ゆう君…」

「ごめん、俺…もう少しだけりんと一緒にいたいんだ」

駅のホームの真ん中から、隅にある階段の裏に連れていかれて強く抱きしめられた。

いきなりのゆう君の行動に、私の鼓動は一気に早鐘のように激しくなる。

「凄く…ドキドキしてる。俺。でも…こうしたかった」

「私も…心臓が飛び出しそうだよ。次の電車が来たら帰ろうね?」

「そうだな。このまま家に戻らないと逆に問題になるからな」

「うん」

私は彼の肩に顔を乗せる。コートからでも聞こえる彼の鼓動。

私よりもドキドキしていないように思えて…余裕があるんだなって思ってしまう。



それから、抱きしめ合ったまま、互いの額をくっつけている。

凄く近い距離なのに…不思議と感じる距離感。どうして?

月の電車のアナウンスが聞こえた時、彼が私に言う。

「りんは、そのままでいてくれな?」

「ゆう君…んふっ」

何の事と言おうとしたときには、ゆう君が強く唇を押し当てていた。

いつものゆう君はそんなキスをしないから、どうしていいのか分からなかった。

とても怖くて、それ以上にとても寂しかった。

やがて唇が離れて電車がホームに入ってきた。

「りん…じゃあ、俺、先に帰るな」

「うん、ゆう君。また明日ね」

私達はいつもの様に家に帰るだけ。明日はどこかで会って『おはよう』と

挨拶するんだとその時は思っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ