I will graduate something? 何を卒業するんだろう? 9
「ねぇ、静香。卒業したら…解放になるのかな?」
「何に解放されたいの?ちいは」
「中学を卒業ってことは、義務教育が終わるじゃない。その時ってどんな感じかなぁって」
「やだあ。私はそんな事を考えていないよ。そう言う所ちいは真面目なんだから。それよりも立ち直れた?」
「多分…完全じゃないけどね。4月に塾で合格祝賀パーティーで会うのが本当に最後になると思うけど」
「それ…行くの?傷跡に塩を塗るようなものじゃない?」
「静香…彼に会いに行く訳じゃないもの。それに最後まではいるつもりじゃないもの」
明日は卒業式だというのに、私達はあいかわらす電話で話をしている。
「結局、校内で話すよりも、電話ばっかりになっちゃって」
「私は平気だよ。この方が、静香の生活が守れたでしょ?」
「やっぱり、ちいの本音はそこだったんだ」
そう言った後に、静香がため息をついた。
「うん。皆が信用できる訳じゃないから。念の為ね」
「分かるけど。ちいのせいじゃないでしょ?事故の事は。私がちいと同じ立場にいたらちいと同じこと出来ないよ」
「そりゃ、そうでしょ。私と静香は同じじゃないもの」
「私が言いたいのは、そんな事じゃないよ」
静香の口調がきつくなる。静香が言いたいことが私には分かる。
「ごめん。でもね、事故が起きて…もう8年になるよ。さすがに言われ慣れたって言うか、何て言うか」
「そっか。もうそんなになるんだね。ところで…おばさん達はどう?」
「どうも。こうも。私は3年たったら家を出る予定だよ。そうすれば、自分の財産だけは守れそうだもの」
「なるほどね。そこまで冷え切っているんだったら、その方がいいかもね」
「そうでしょう?もっとしっかりとしないと。私」
「本当にあらゆるところで大変なことになっているじゃない。私もちいを見習ってしっかりしないと」
静香はそう言うけれども…静香だってしっかりしているのに。
それにK学園は設備が充実していて学費が安いの。それだけでも親孝行だと思うけどな。
「静香は静香のままでいてね。私はもうスイマーにはなれないんだからこれでいいのよ。元々は好きで始めた訳でもない。生活エリアから離れたあの世界が、等身大の私を受け入れてくれた唯一の場所だったの。生活エリアがそうだった良かったのにね」
「ねぇ、ちい。S高ってそれだけの理由?違うでしょう?」
「…プールないのは本音だよ。遊びで泳ぐのならいいけど、競技には係わりたくないから」
「そう言う事にしておいてあげる。ところで、K学園にクラブから行くのは何人なの?」
「それがねぇ…一人なのよ」
「20人位受けたんでしょう?」
「うん、私みたく完全リタイアでも受けた子もいたしね」
「皆に会うの?春休みに」
「全員はないと思うよ。ひで君も強化合宿があるから来れるかどうか。静香もおいでよ。育成にいたんだし」
「私…バレーに転向したんだよ。それにあの絆の中に入れないよ」
私の提案に静香は言葉を濁す。気持ちは分からない訳じゃない」
「平気だと思うよ。でも無理強いは良くないね。ごめんね」
「その対応があっさりしているからさ。そこに皆がつけ込むんだと思うよ」
静香は私が考えもしなかった事を言う。なるほど、そういう可能性もあるんだね。
「ありがとう。静香。これからは気をつけるよ」
「そうよ。私が側にいてあげられないんだから」
「分かってる。私が全般的に物事に執着しないのがいけないんだろうね」
「それよりも周りを良く見ているのに、無関心すぎなのよ」
「私、クラブにいた時はいつも聞き役もしくはまとめ役だったでしょ?」
「そうだったね。でもね、もっと…私がって言っていいんだよ。自己主張しなさい」
私の事をそうやってアドバイスしてくれる静香も良く見てると思うよ。
「本当にありがとね。でもね、静香がこうしていてくれるから、私は救われているのよ」
「そんな事ないよ。私、ちいに何かしてあげてるの?」
「うん、いっぱい貰ってるよ」
静香はそうかな?とぶつぶつ言っている。
「うん、ゆう君の時、ずっと傍にいてくれた。凄く感謝しているよ」
そう、ゆう君の事は…校内にバレてしまったが、ゆう君と付き合っていた事は事実だったから私は会えて否定することはしなかった。
もしも、私が否定したら、ゆう君といられた時間もないことになってしまう。
それだけは私にはできない。私はそんな気がしていた。




