君が嘘をついた・・・2
塾に着いて、私達は荷物を置いた。私の隣はゆう君。それは今日も変わらない。
「変わらずべったりだな」
「余裕なのかよ…はぁ」
同じクラスの友達にひやかされる。長い子は私でも2年間同じクラスだから
他人行儀な対応はしない。
私も学校では決して話さないような話もここではしている。
今は志望校別にクラスが分かれている。私自身は仲が良かった子達とは離れて
しまったけど皆が同じ学力ならば受験なんてないから…仕方ない。
そんな中、鋭い視線に私は気がついた。それが誰なのか私は見なくても分かる。
美紀ちゃんの友達。美紀ちゃんとゆう君が別れて3カ月以上たってから
付き合い始めたから、特に文句を言われることはないんだけどなぁと考える。
皆仲良くと思っているのに、現実はやっぱり難しいなぁとこういう時は思ってしまう。
私の考えって甘いんだろうな…多分とぼんやりと教室の一番後ろの席で私は考えていた。
バチンッと音がして、右の頬に痛みが走った。
ゆっくりと右の方を見るとすごく怒った美紀ちゃんがいた。
なぜ怒っているの?何で叩かれたの?原因は全く分からない。
人のものは何でも欲しくなるタイプなのかな?
「私から優を獲ったこの泥棒猫!!」
ちょっと…それって何のこと。ゆう君と美紀ちゃんが付き合っていた時はちょっとだけ
ショックで二人に挨拶言葉程度の会話しかできなかったのに。
今度は背中をバシバシを叩かれる。元バレー部って言ってた美紀ちゃんに叩かれている
背中がジンジンする。でも私は美紀ちゃんから奪ったという意識はない。
「美紀、それは違うよ」
「本当は美紀の方が仕掛けたのに」
クラスが美紀ちゃんが起こしたことで騒々しくなる。今のクラスの皆は私がいつの頃から
ゆう君に好意を持っていたか知っている。
夏の講習の最終日に勇気を出して告白しようとしていた私の前に私が行かない合宿に
参加していた二人が合宿中に近づいて美紀ちゃんから告白して付き合ったことも
私達は知っている。私が何もしていないから、あのときは仕方ないと思ってた。
恋に順番はないんだと痛感して、二人が幸せならいいとそう思うことにしていた私が、
二人の仲を裂くなんて卑怯なことは一切していない。
私の目線でクラスの皆は見ているようで、何で泥棒猫な訳?と冷ややかに反応しているようだ。
「美紀止めろよ。俺らが付き合いだしたのは12月だ。美紀は全く関係ないだろ」
ゆう君は淡々と美紀ちゃんに説明する。でもその顔は困惑している。私はゆう君から
告白された時にゆう君の真実を知っていたから。
二人が付き合いだしたときのクラスの微妙な空気が分かったのだ。
二人が別れた時、私達三人は同じクラスだった。その時、私はちょっとした理由で
一番後ろの席で授業を受けていた。なぜか、私の左隣だけが空席だった。
ゆう君がそこに移動するのは、私は嬉しかったけれども、内心複雑だった。
振られて弱っているところに入り込むのは、美紀ちゃんに対しても失礼だし、
恋のルール違反というかマナー違反な気がした。だから努めて笑顔で対応していたけど
あまり自分からは話しかけることはしてなかった。
私達が話すようになったのは、塾の授業の後に英語の先生が個人的にやってくれていた英検対策の
テキストをゆう君が忘れて、一緒にテキストを使わなくてはならなかったのがきっかけだったのに。
付き合ってからゆう君が教えてくれたけど、私と話がしたくってワザとテキストを忘れたことに
したのだということを。確かに美紀ちゃんは私達に大きく影響している事は事実だ。
だけど、美紀ちゃんの発言には当てはまるものはない。
何も言えないでいる私を見て、美紀ちゃんはどんどんエスカレートしていった。
「倫子、学校で優と付き合っていること自慢しているんだって?」
「欲しいものは、力ずくでモノにするんだって?…ふざけないでよ!!
何?今の?私…学校では、ゆう君の事はほとんど話してはいない。
でも、同じ塾に通っていれば知っている。すぐに同じ塾に通っているメンバーを思い出す。
けれども、誰一人としてそこまで親しくはしていない。クラスメイトと言える程度だ。
それに、欲しいものを力ずくでモノにしたことは一度もない。もし、そういう性格ならば
とっくにゆう君と付き合っているはずだ。どういうことだろう?
「美紀ちゃん…私、ゆう君の事学校では言っていないよ。誰からそんな話を聞いたの?」
「私?今倫子と同じクラスにいる理沙からね。あの子は元々同じ中学だから」
私と美紀ちゃんの共通の知人か。でも、私は同じクラスだけども理沙とは話はしないに等しい。
仲が良くも悪くもない。そんな感じだ。
「理沙とは同じクラスだけども、そこまで親しくないわよ。理沙は誰に聞いたのかしら?」
「そんなの、私が知る訳ないでしょう?とにかく、私は許さないから」
「美紀、お前…いい加減にしろよ?」
「ゆう君、もういいよ。私は気にしていないよ。もう…先生が来るから」
すごく気になっているけれども、私は気になっていない振りをした。
私は伝言ゲームのように、面白おかしく言われるのが好きではない。
だから、自分からは言っていない。それは、ゆう君が一番よく知っているはず。
「りん、大丈夫か?」
「うん。実はね、中学でここのところずっと、私のこと悪く言われているんだ」
「どんな風に?」
「お金があるから私立に行くんだって。公立よりはお金かかるのは事実だから
そう言われると反論できないよ」
「まぁな。そこは家庭の事情だから土足で入り込んではいけないのにな」
「ゆう君は聞いているんでしょ?私が幼い時に何があったかを」
私はゆう君を見る。多分ゆう君はその事を知っている。そうじゃなければ土足で入り込む
なんて言い方はしないはず。
「ごめん、秀紀から聞いてる」
「そうか。でも謝らないといけないのは私だよね。言っていないんだもの」
「違うだろ。それは。誰でも言いずらいことはあるだろう?」
「うん…だから…ごめんなさい」
「そんなの気にしてない。大丈夫だからな」
そう言うとゆう君は、赤ちゃんをあやすようにトントンと背中を撫でてくれた。
そのぬくもりが私はとても嬉しかった。
でも…私何かしたのかな?自分が気がつかないうちに。授業を受けているはずなのに、
全く集中できない。ふと黒板から目線を外してゆう君を見た。
そこには眉間に皺を寄せた険しい顔をしたゆう君がいた。
私が見ていることに気がついたゆう君は私に微笑む。けれども、私は見てしまった。
凄く怖くて逃げたしたい位怖かった。ゆう君をトラブルに巻き込んでしまった。
それだけは、はっきりしている。それを誰が仕掛けたのか、全く分からなかった。
受験前日にいきなり襲われたトラブルに私は途方に暮れていた。