I will graduate something? 何を卒業するんだろう? 1
時間はちょっと過ぎて明日は卒業式の夜から始まります。
少しだけ回想シーンが入ります。
「本当に早いねぇ、ちい?」
「うん、そうだね。明日は卒業式だものね」
1ヶ月前、静香の家で4人と話してからはあっという間に時間は過ぎていた。
あの後、私はと言えば本命のS高に合格したので、これからは4人とは別の道に進む。
その代わりに、S高を受けた4人は全員合格して、4月からは皆で通う事になった。
私はS高が受かってからやりかけの仕事をすることにしていた。
一つは、安井を大人しくさせること。もう一つは、理絵を黙らせること。
まずは、S高の合格発表の翌日、私は安井を屋上に呼び出した。
屋上にやってきた安井は心なしかこちらを伺っているようにも見える。
しかも、安井は一人ではなく、創君を伴ってやって来た。
「屋上に男女が二人きりって変な話になったら困るだろう?」
私を見て、ニヤリと創君は笑う。ああやって笑う時の創君は絶対に嘘をついている。
だてに9年間同じクラスで暮らした訳ではない。でも、そのことには不安はない。
「ごめんね。安井ってB高の特待生なの?それとも一般推薦なの?」
私はわざと安井に聞く。けれども、私は知っている。安井の場合は高校でサッカー部に
入らないとならない一般推薦だったと言う事を。
「一般だけども、それがどうした?」
安井がイラついたように早口で答える。私の仕掛けた罠にかかったようだ。
本当に笑っちゃう位に単純な男。だからいいように利用されるんだよ。
私はくすくすと笑いだした。
「何で笑うんだよ?」
「あっ、ごめんね。だっておかしいんだもの。くすくす」
安井は私が小馬鹿にしていると思ったのか顔を赤らめて怒り始めた。
「ヤス…お前、何怒ってんの?ちいも何が可笑しいのか説明しなよ」
創君がさり気なく私に言う。本当の事を言うと、それすら白々しいんだけども言えない。
「だって、私のことをお金持ちのお嬢さんなんて言っていたのに、当の本人は初年度
入学金で100万円を超える人に言われていたなんて…ねぇ?お坊っちゃまな安井君?」
私がそう言うと安井はほおけた顔になった。
「あれぇ?そんな事も知らないの?一般推薦でも限定付きって一口付き10万円の
寄付金を二口以上支払うんだよね?昨年度もそうだったから、今年もそうだよね?
太っ腹なご両親ね。いいなぁ、両親が揃っているって」
私は多分、ここ数年した事のない笑顔を張りつかせて答えた。
安井は口をパクパクさせている。
「知らないのなら、私が教えてあげるね。初年度の納付金の総額は約85万円だよね?
B高は系列大学があるけれども、納付金が高いことで有名だよねぇ。それに寄付金でしょ?
ちなみに、私がS高で支払う初年度納付金の合計は約50万円ね。それに交通費3ヶ月分を
入れても約60万円にもいかないの。これだけでも、お金に余裕があるのはどちらかしら?
ねぇ、教えて欲しいんだけど」
「おっ、俺になるな」
「そうだよねぇ。どう考えたって安井だよねぇ。確かに私は親から貰った遺産があるけど、
その遺産には税金がかかっているからその支払いとか全て私がしているんだよね。
それに、普通に暮らすと出てくる生活費も。光熱費や健康保険のお金も私が自分で払ってる。
安井が払っているのは、親からもらうお小遣いから位でしょう?私もお小遣い貰いたいな。
ないものねだりしたってどうにもならないけどね。それに世間的には確定申告だね。
私も一部の土地を親戚に貸しているから、一応家賃を貰っているから確定申告しないと
いけないのよ。それに私のお金は私が暮らすため全てのお金。最低でも後5年は残さないと。
あるからと言って、贅沢なんてできないのよ。だから、何も知らない癖に、人のことを
言うのは、正直に言うと迷惑だから。私が、私よりも安井の方がお金持ちだって皆に
言ったとしても文句はないよね?」
私は安井を見てにっこりと笑う。もう、彼には逃げ道は一つしかない。
私に謝罪する。それ以外に道はない。