終わった恋の悲しみは 8
放課後、私達は静香の家に集まった。いつもは静香の家に行くんだけど、
今日はリビングにいる。
渡した持ってきたお菓子をローテーブルに並べた。私達はジュースの入った
コップを持っている。
「とりあえず、合格おめでとう」
「乾杯!!」
「俺…来週…本命なのに…」
「大丈夫だよ。12月にA判定だったんでしょ?」
「自信持ちなよ…ね」
「それよりも、俺…いいのか。ここにいて」
創君がポツリと漏らす。確かに、私達四人は合格祝いでもあったから。
「創君は…いてくれてもいい。口が軽い人じゃないの。私は知っているから」
私は数冊のアルバムをテーブルの横に置いた。
「何も知らない創君がいるから、本当に最初から話すよ」
そう切り出して、私は湯栗と話し始めた。
「私がプールを始めたのは、3歳の時、体が弱くて当時の主治医に強制的に入ったの。
今だから言えるんだけど…私ね顔が洗えない位に水が嫌いだったの。まぁ、なんとか
克服して、背泳ぎをマスターした頃に育成コースに上がったの。静香も義人君も
育成には籍を置いたよね。育成に上がって始めて仲間が出来たの」
私はそう言うとアルバムの写真を見せる。
「これが当時の写真。同期って言える仲間は私が止めるまでは20人位になるんだけど。
そのうち同学年は13人。プールを止めた今でも連絡を取っているし、会ってる人もいる。
皆は知らないよね。皆の学校が違うから当たり前だよね。…で、この子がひでくん。
3人は一応覚えているよね?彼は私の初恋の人で最初の彼になった人」
写真の中のひでくんはいがぐり頭で、笑顔で笑っている。その写真の中には
私達4人もいる。付き合う前の秋の遠足の写真。
「おぉ、懐かしいな。この写真」
「そうだね。これって何年生の時の?」
「彼がいるから2~4年生のどれかだろ?」
「これは…2年生の時のだよ。この時は、ひでくんと付き合ってなかったから」
「やっぱり、ひで君が彼氏になるんだ」
「でもさ…あの時もその後もずっと一緒だったろ?」
「あれがちいの初恋だったんだ。ふぅん」
義人君が意味深な事を言うけど…知らない振りをしておこうっと。
[あの遠足のすぐ後に、私達は選手に上がるはずだった。ひで君達と一緒にね。
でも私は上がれなかった。皆覚えてるでしょ?体育の時間に骨折したの。
だから、皆と合流したのが私だけ遅れた。約3カ月のブランク。落ちた体力。
動かないリハビリ中の腕。合流してもすぐには元には戻らなくて。
もちろん、練習にもついていけなくてね。悔しくて、悲しくて家で泣いてた。
ヘッドコーチは必死な私に無理はするなって言ってくれたけど、担当のコーチにまで
私の状態は正しく伝わっていなかった。だから、毎日怒鳴られて育成に帰れって
言われて本当に辛かった。
その頃の私の腕はまだ完全にまっすぐじゃなくて…フォームの矯正で力を入れて
腕を伸ばされた時に凄く痛くって、つい立ってしまったの。いつもなら
怒られないんだけどその日は…皆の集中力があんまり良くなくってコーチも
いらついていたんだと思う。
今まで以上に罵られて、ビート版を投げられて、パドルで叩かれた。
わざと立った訳じゃないのに、本当に痛いのに、サボりの口実にするなって言われた」
暫く独白が続いていきます。