終わった恋の悲しみは 6
静香と二人で封筒の中を見ることにした。中には必要な書類とかなり暑い…課題。
期限は…説明会のある3月頭となっていた。
「ちい…」
「はいはい。一緒にやろうね。S高に受かった訳じゃないからね」
「本当に助かるよ」
静香はホッとしているようだ。今からこれで4月から大丈夫なんだろうか?
「ともかく、年が明けてから、ちいがされたことをまとめてみようか」
「小さな事から大きな事まであるけど…」
「ちい…。そういうことは嫌なら嫌って言わないと。全く顔に出さないんだから。
昔はそんなんじゃなかったよ」
「自分の殻に入り込んだからね」
静香がため息をつきつつ私に言う。静香の言うことだってもちろん分かる。
「ねぇ。もうすぐ卒業するんだから、元のちいに戻ろうよ。ちいばかりが…
こんなの理不尽だと思わないの?」
「思わなくはないけどね。でもね…静香、世の中ってそういう風に出来てると思うんだ」
私がそう答えると、静香はもう一つため息をついた。
「ちい…考え方が冷ややか過ぎるんだけど…。怖いよ」
「そう?静香、ため息つくと幸せが減るんだって。知ってた?」
「そういうことはもっと早く言ってよ!!」
「ごめんごめん。とにかく課題をやろうね。本当は私がやったの待つつもりでしょう?」
「えへへ。分かった?」
「まぁ、いいか。この位。この課題が終わったら…智子ちゃんと放してくるよ」
「そっか。とりあえず戦っておいで。何かあれば…博子を連れて来ればいい?」
「そうだね。そこは保険ってところかな。私のせいじゃないのにね」
私は先生に調べて貰ったデータを見ていた。これで相手とやりあえる。
私はついニヤリと笑う。自習中のクラスは騒がしくて誰も私と静香のやり取りに
気に留める人なんていなかった。
私は自分の席を立って、智子ちゃんの元に向かう。
「智子ちゃん、今…ちょっといいかな?」
「私もちいに聞きたいことがあるんだけど。ベランダでいい?」
智子ちゃんに促されて、私はベランダに出る。一度教室を見回すと理絵の姿がいない。
そういえば、さっき先生に呼び出されていたっけ。志望変更の話だろうな。
智子ちゃんも何かあるようだ。恐らく静香の言っていた…アレの事だろう。
「ちい、理絵に何を吹きこんだの?こっちを馬鹿にしているの?」
早々に智子ちゃんに怒られる。理絵の奴…相当な事を言ったみたいだな。
はっきり言って頭が痛い。この事は性格に言うと、私には無関係だ。
「ごめんね。何の事だかよく分からないんだけど。いつも冷静な智子ちゃんらしくない。
ちゃんと話をしてくれないと…こっちも答えられる訳ないでしょう?」
「まずは、ちいはお金があるからK学園かS高に行くんでしょう?」
「えっと、それは何を根拠に言っているのかな?確かに、公立だけしか受けない子と
比べたら、それは事実なんだけども…」
「私はそう言う事を言ってない」
私が逆に怒られた。智子ちゃんは…確かS高は先生からダメ出しされていた記憶がある。
そこを頭に入れ直して言い方を考えないと…。気を引き締めて私は智子ちゃんに聞く。
「ねぇ、智子ちゃん。智子ちゃんの受けたT高とI高の初年度納付金っていくら?」
「確か…80万円位だったと思う。それが何か?」
「KもSも初年度は50万円台なんだ。じゃあ、2年目は?」
「そんなもの知らないわよ。公立が受かれば行かないもの」
「そうだね。だったら教えてあげる。両方とも60万円位だって」
「へぇ…KとSはいくらなの?」
「40万円位ね。Kはマンモス校で、学費が安いのが有名だもの。Sの場合は合格したら
世間受けもいいし、学校を見に行って、プールの存在がないから決めたの。
私ケチだからね。こんな理由で決めたのは先生も知ってるよ。進路の詳細は
親任せなのね。いいなぁ。ちょっとだけ羨ましいな」
智子ちゃんの顔が少しだけ強張った気がする。気が強い彼女のことだから何かの
反撃はあるはず。
「M高もS大付属に入れる学力ないって誰かから聞いたけど」
なんだ?それ?面白いことを聞いた私はほくそ笑んだ。
「その2高は、先生から推薦入試の話を貰ったけど、合格したら泳ぐのが条件だったから
断ったよ。私も普通の女の子に戻りたいんだから。それに学費が高いって」
変な捏造された話があるものだ。ここまで来るとおかしくて笑えてくる。
クラスの中をこんなにかき乱して何の目的があるんだろう?それが分からなかった。




