表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
In other word・・・  作者: トムトム
1章 A turning point ~中3冬~
2/134

君が嘘をついた・・・1

この問題どうやって解けばいいの?全く分からないよ。こんなんで本当に平気なの?

やっぱり…不安になってきた。コピーをした問題とにらめっこしてからかなりの時間が

たっている。諦めるのは、とても簡単なんだけど…まだ諦めたくない。

ええっと…ここがこっちと…あぁ、やっぱり分からないよぉ…

「りん?大丈夫か?」

りん?それって誰のこと?そうだ、ゆう君は私のことをりんと呼ぶんだった。

ゆっくりと私は顔を上げた。考え込んでいたのが寝たように見えたのかな?

「昨日、遅くまで勉強していたのか?」

ゆう君は心配そうに私を見つめる。



「そんなことないよ。それよりも、この問題が分からなくって。時間配分次第じゃ

ちょっと怪しいのよ」

「今はS高の問題か?」

ゆう君は私を覗き込んで見ている。ちょっとだけ恥ずかしい。

「うーん。確かに。ちょっとコピー貸して」

私は彼に言われてコピーを手渡す。S高は県内の私立高ではベスト10に入るか

どうかのレベルの学校だけども、英語と数学と理科は凄く難しい。

英語は問題数が多くて、ヒアリングもあるし、理科と数学はトップクラスの

学校よりも難しいものも多い。

「あのね…解説を見ても…良く分からないの。大丈夫なのかな?私」



私より理数系が強い優君が考え込んでいる。そんなに難しいんだ。

つくづくS高のレベルの高さに驚かされる。

「りん、俺でもこの問題はそうなんだって程度しか分からないから、これは

手を出さなくてもいいよ。俺もお前に教えられない」

「やっぱりね。一番最後は手を付けてはいけないってことね。少し気が楽になったわ」

数学で悪戦苦闘している私…佐倉倫子。

「そうだな。I高よりも難しいものな。数学と理科。塾の先生は5割解ければいいと

言ってなかったか?」

「うん、そうなんだけどね。今回の入試の結果と3月の実力テストの結果で

クラス分けが決まるんだって」

「お前は基本的にまじめだからな」

彼が私の頭を優しく撫でる。彼のぬくもりが頭から感じて私は幸せになる。

「ゆう君は英語をやっているの?」

「あぁ、ここの所なんだけど…分かるか?」

彼は自分の解いている英語の読解問題を見せた。



「うーん、そこの答えは、2行前のここから書き出すといいと思うよ」

彼は富田優君。私と同じ塾に通っている。同じ中学校ではないから私達が付き合って

いることを知っている人はあまり多くはいないはず。



私は塾に通い始めたころに彼に好感を持っていて、それから約2年間片想いをしていた。

私達が近づくきっかけになったのは、9月の最初の授業でゆう君がやはり同じ塾の

クラスで彼女の美紀ちゃんと別れたため、空いていた私の隣に移動してきたことだった。

ずっと彼と同じクラスだったから、挨拶はしていたけれどもいきなり彼の隣になって

ドキドキしたことは私にとって記憶に新しいこと。



更に距離が近づいたのは、彼に英語の宿題を聞かれたことだった。

当時の私は、ちょっと早めに塾に来て一人で勉強していた。そのことをゆう君に知られて

一人で勉強するよりも二人の方がはかどるからとゆう君から提案された。

それ以来塾の日の勉強会をしている。



告白したのは、彼の方からで、つきあい初めて2カ月になる。お互いに受験生だから

デートは全て勉強。

ゆう君の本命のN高の見学と明日二人で受けるK学園の見学するのに出かけた程度。

私達が付き合うようになってからは、塾からちょっと離れたマクドナルドで一緒に

勉強している。

塾の近くにもマクドナルドはあるけれども、私達が使うこの店は、ビジネスビルに

囲まれているせいか、私達が使う休日の店内は静かでお気に入りの店だ。

私は彼のことをゆう君と呼んでいる。



「明日は問題はないだろう?りん?」

「だって…明日は一緒に受けるんだもの。ちゃんとやらないと気は抜けないよ」

明日は二人で同じK学園を受験する。お互いの第一志望は違う学校だけども、

いわゆる滑り止め校を二人で合わせたことになる。

彼は難なく選べたらしいけど、私は一度学校から難色を示された。

私と彼の違いはなんだろう?

「そうだな。同じ学校だものな。りんはS校に受かったら…塾はどうするんだ?」

ゆう君はほほ笑みながら聞いてきた。

「あのね、3月末に実力テストがあるの、入試は、特待生を決めるだけで、

3月のテストの方がクラス分けに関わってくるんだって。去年入学した先輩から

聞いたんだ。受かったからって浮かれてはいられないの。だから最後まで通うよ。

どうして?」

「いや…俺一人になるとちょっと寂しいなと思ったからさ」

彼はそう言って耳がほんのり赤くなる。照れ屋な彼だからすぐに分かる。

そんな彼につられて私も赤くなってしまった。

「ゆう君ってば」

私はS高が第一志望だからN高のゆう君よりは約3週間ほど早く入試は終わる。

けれどもS高に通っている先輩たちに聞くと、テストに追われていると思う位テストが

多いそうだ。

大変な学校を選んでしまったかもしれないけれども、自分で決めたことだからと自分に

言い聞かせる。



「りん、そろそろ行こうか?」

ゆう君が私に言う。時計が12:30を指している。私の授業は13時からだ。

「そうだね。ゆう君」

私達は席を立った。店を出ると、ビル風が強く寒さを感じる。ゆう君は私の右手を繋いだ。

「相変わらず冷たいな。りんの手」

そう言うと、コートの左のポケットに私の手を入れてしまう。繋いだ手から熱が

生み出される。

「あったかいね。ゆう君」

「そうだな」



信号が赤になったので、私達は立ち止まる。塾の近くのスクランブル交差点。

私はふと、隣の彼を見る。私より、ちょっと高い背。かっこいいとかわいいの中間な顔。

まん丸でクリッとした目。ちょこっと低い鼻。白い肌に柔らかな髪。繋いでいる手を

少しだけ力を入れて繋ぐ。

「何?りん?」

「大好き。ゆう君」

私がそう言うとゆう君はクスリと笑って、私のおでこにチュッと音を立ててキスをする。

「俺もだよ。続きは後で」

耳元で言われて、私は真っ赤になる。

「本当にかわいいなぁ。りん、後では止めた」

そう言うと、彼に引き寄せられて抱き寄せられる。

「…恥ずかしいから、今は…つっ」

嫌と言う前に唇が塞がれてしまう。不意を突かれて私は動けない。合わせた唇が放れて

私は口をパクパクさせていた。

「恨むならこの信号を恨めよ」

そう言うとゆっくりと私を開放する。ようやく変わった信号で私達は歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ