終わった恋の悲しみは 1
月曜日。私はいつもよりはやく学校に着いた。教室には入らずに職員室に直行する。
私は担任に、今自分が置かれている状況を話す。
時期が時期だから。表に出さずに自分で処理したいこと。
その為には早急にあるデータが必要であってそれを調べて欲しい事。
私はその事を淡々と担任に説明した。
「…で、お願いできますか?先生?」
「本当は反対したいんだけども…この方法の方が短期収束しそうね」
「…でしょう?その代わりにクラス分裂になったら…ごめんね」
「そうなったら…担任の私が介入する。いいわね」
「いいですよ。その位。私には、何にもないんだから。絶対に許さない」
私は小声でつぶやく。
「何か言った?」
「いいえ…。私教室に帰ります」
これで、私の必要な手札の準備は出来た。後は時が満ちるのを待つだけ。
私はゆっくりと歩いて教室に向かった。
教室に入ると、少しだけ空気がひややかな事に気がついた。
あえて気が付いていない振りをして、私は席に着く。偶然にも私の隣は静香だ。
「おはよう、静香ちゃん」
いつものように挨拶をする。これはいつも通り。
「ちい、S高の入試前に借りたノート帰すね。土曜日返すの忘れてて…」
静香が私にノートを渡してくれる。でも…嘘付き。ノートなんて貸してないから。
「家でつい探しちゃったわ」
親しく教室で話をしていないから、必要な時はノートの貸し借りで連絡を取っている。
ノートの最後のページを見ると-放課後、うちに来てね-と書いてあった。
私は急いでOKと書き込んだ。私が書き込んだのを確認したのを見て
「ごめん…やっぱりノートをもう一度借りてもいい?」
「別にいいよ。今は使っていないからね」
私は静香にノートを再び手渡す。
ちょうど先生が教室に入ってきた。先生によると、今日は各校で合格発表があるから
どうしても自習が多くなると言う。私達が受けたK学園も今日が合格発表だ。
先生たちが手分けをして見に行くんだって。毎年そうなんだろうけど…先生って大変だね。
私達のクラスはとりあえず3時間目まで自習と書いてある。こういう時は、さっさと3時間分の
課題を終わらせてしまうに限る。私は課題を終わらせて騒がしい教室を脱出することにした。
今の教室にいられるだけの体力も気力もまだないから。
2月の中旬にしては、天気が良くて暖かいから屋上に行く事にした。
後2時間程時間がある。ゆっくりとできそうだ。
私は教室を出るときに持ってきた本を取り出した。かつて読んだことがある本だけども、
その時は横恋慕が理解できなかった。今の私なら…分かるかもしれない。そんな気がする。
「やっぱり…良く分からないや。でも…そういうものなのかな?」
完全とは言えないけど、なんとなくだけは分かるようなきがする。
「親友に片想いの相手に奪われたからって自殺するものかな?何か変」
でも…その気のない人を振り向かせるのは大変な労力だとは思った。
やっぱり…共感は出来ていないから、理解できないってことだろう。
やっぱり…恋って難しいことだけは確実に分かる。
ふと、読んでいた本を閉じて空を見上げた。空の青さが目に染みて泣けてくる。
私はそっと指で涙を拭った。その時、屋上の扉が開く音がした。




