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最後は夜の広瀬家。
In広瀬家
「なあ、あいつってあんなに体が弱かったっけ」
いつもより少しだけ早く帰ってきた兄貴が制服を脱ぎながら俺に聞いてくる。兄貴が俺に聞くあいつとはちいちゃんのことでいいのだろうか?
「それってちいちゃんの事?」
「そういう事」
俺だってそんなに詳しくは知らない。けれども俺が知っている範囲で説明することにした。
「兄貴さ、ちいちゃんが入院したのは覚えている?」
「俺が中学三年の時の秋の事か?ああ、なんとなくな。結構長い間休んだろ」
「そう、その時にかなり体質が変わってしまったみたいなんだ。一気に体力も筋力も落ちちゃったし、周回とかで長時間立っていられないときもあったし」
「貧血体質になったということか」
「多分。そこの経緯は詳しくは知らない。それは内先輩の方が詳しいはず。親戚だから」
「だろうな。実はな……」
俺は朝の出来事を弟に説明する。あいつのそんな体調の変化にいち早く対応できたのは、はとこでもある内だった。あいつが友達と学校に行って欲しいと言わなければ絶対にあいつを支えて俺たちの学校まで届けてから学校に行っただろうと思う。
実際に、放課後あいつを迎えに来たのは内だったらしいし、まあ保護者が迎えに来るよりは内が寄り道をしてあいつを連れて帰った方が確実ではある。
あいつらの関係を知っている俺たちは何とも思わないが、男女が並んで歩いている様は交際している恋人のようにも見えた。
実際に生徒会の連中も生徒会室から見えたあいつらの姿を見て俺に聞いてきたものだ。もちろんはとこであることと幼いころからずっと一緒に過ごす時間が長かったことも説明したので兄弟のようなはとこ君という認識で落ち着いたらしい。
「ずるいな。内先輩。抜け駆けして」
「まあ、お前の気持ちも分からなくはないけどな。仕方ないだろ。あいつらの絆には本当に強いんだから」
「分かっているさ。二人がはとこだからだろ。ちいちゃんが内先輩を異性として意識したら俺勝ち目ないじゃん。マジでピンチだけど」
「それはないと思うな。なんとなく。かといって、前の男を完全になかったことにもできていないみたいだけどな」
「何それ。どういうこと」
「本当かどうかはともかくな、失恋をして立ち直るまでは六か月位かかるんだと。卒業式の頃がまだ鮮やかなカラーの思い出だとしたら、ゆっくりとモノクロに変わっていって、思い出しても辛くならなくなるらしいぞ。その時まで待っていられないのか?普段泣かないというあいつが泣いたんだろ。その位待ってやれよ。お前の恋い焦がれている気持ちは分からなくもないけどさ」
ベッドにふて寝している俺をニヤリと笑いながら兄貴には見ている。
すっごくむかつくけど、事実だから反論すらできない。
「あの時からだろ?今年の夏休みで五年か。一途過ぎて兄貴にとしてはかなり怖い。そろそろ本気を出したらどうだ?」
「本気ね……この一年の差は辛いよ。兄貴」
「だからって、何もしないわけないよな。お前の事だから。付き合っている人がいると分かって奪う事をしないで、弟キャラでちゃっかりあいつの隣で甘えていたことに関しては自業自得だがな」
「うっ。何気に人が気にしていることを抉るよな。本当に兄貴かよ」
「兄だから現実を見てみろよって言ってやっているんだよ。感謝しろよ」
「へいへい。とにかく兄貴たちを追いかけることしか俺には方法がないし。今度はちゃんと捕まえる。そうじゃないと、俺……ちいちゃんを壊しちゃいそう」
「その発言、マジで怖いから止めろ。実の弟が変質者の仲間入りはごめんだぞ」
「誰が変質者だ、このバカ兄貴」
「兄に向ってバカとは何だ」
その後、いつものように兄弟喧嘩に発展して両親から更に叱られてしまったことはいうまでもない。




