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今回は同じ中学出身の加勢&佐藤(ちいは博子ちゃんと呼んでます)の会話中心に進んでいきます。
Side加勢
いつものように教室に行くと俺と同じ中学の佐藤が近づいてきた。正しくは同じクラスなのだが、佐倉がいないと話すことがない相手だ。ちなみに俺のクラスには付属中出身の女の佐藤もいるのでそっちは佐藤さんと呼んで俺は分けている。
「何?佐藤」
「ちいが倒れた」
さらっと話す佐藤を思わず睨む。普通は倒れないぞ。でも佐倉は中二の冬の頃から更に体が弱くなったようで時折顔色が悪かった時があったことを思い出した。
「あいつは、内と広瀬先輩と一緒だろう?」
佐倉は俺と佐藤が利用している駅とは違う駅を利用している。入学してから一度聞いた時は、高専に入った内と広瀬先輩と一緒と言っていたからそのはずだ。
「そうよ。君塚の駅で先輩に会って、ちいを保健室に連れて行くからノートを頼むって言われたのよ」
佐藤の方も佐倉自身を見ていないことに俺は気が付いた。
「貧血か……あいつ」
「多分ね。結構酷かったみたいよ」
「そうか。クラスの連中はどうする。お前が知っているってことはもう少ししたら騒ぎになるだろうな」
「そうね。本人もちょっと体が弱いって言っていたから、貧血を起こしやすい体質で十分じゃないかしら」
俺たち二人が話し終わるのと同時に、田中が大声で俺を呼ぶ。
「加瀬!ちいちゃんが」
「ああ、どうかしたか」
「だから!」
「田中君、まだ何も言っていないよ」
佐藤が冷静に田中に突っ込む。
「ちいちゃんが、高専の男に寄り添っていたんだって!あれは彼氏か?」
高専の男で誰か分かった俺はつい笑ってしまった。
「何?地元じゃそれはみんな知っていることなのか?」
田中は一人で勝手にヒートアップしていく。
「加勢……その位にしたらどうなの?ちいだってそれは迷惑だと思うけど?」
「そうだな。あいつがちいのはとこだ。それと彼氏じゃない」
「は……はとこ?あんなに仲が良さそうに見えて?」
田中は俺の言うことを信じようとしない。まあ、貧血起こしてぐったりしている佐倉を支えていたら、広瀬先輩だってもれなく彼氏認定されそうだ。
「あの二人はね、兄妹同然というか双子というか」
「そっ、それは本当?佐藤さん」
「本当よ。私はあの二人とは幼稚園から一緒だけど、変な兄妹よりは絆は強いわよ」
佐藤が説明するとようやく田中は落ち着いたようだ。
「あっ、今の事はどうか」
「ちいには言わねえよ。でもあいつさ、体調が悪いと熱を出すときもあるし貧血を起こすんだ」
「ふうん。本人が言っていたように体が弱いって事?」
「そういう事だ。今日はあいつの体調が落ち着くまで保健室だろうな」
「家に帰らなくてもいいのか?」
田中に聞かれて逆に困ってしまう。俺だってそこまで桜のプライベートの事は知らないんだ。
「あいつの家もちょっと複雑だからさ。それに内とは田中が思うようなことは何もないさ」
「そうね。最近は見なくなったけどあの二人の喧嘩は見ていて笑えるのよね」
「そうそう。基本的に内は身長以外では佐倉に勝てないからな」
佐藤が田中に昔二人がした派手な喧嘩のうちの一つを話し出した。なんでも佐倉の試合を見に行くという内に対して、絶対に来るなという態度の佐倉がどんどんエスカレートしていったそうだ。
大した話ではないのに、その話に田中が食いついた。
「で、どうなった訳」
「それがね。ちいにチビって言って起こったちいがよっちゃん……これがはとこなんだけども。よっちゃんのデベソって罵って終了だった……はず」
「はずってなんだよ。佐藤もあやふやなのかよ。それでいいと思うけど。身長をネタにしたものだったら独活の大木みたいに役に立たないとまで言ったこともあったじゃないか」
「一番酷くなると、だったら泳いで私に勝ってみなさいよ……というのもあるわよ。あの当時は内もそんなに大きくなかったけど、今の内なら勝てると思うけどね」
「えっ?ちいちゃんって泳げるの?」
田中が驚いて聞く。そうなるのがこの学校では自然ではあるよな。俺たちの学校にはプールは敷地のどこにもないのだから。
「あいつ、ああ見えて県大会に出ているぜ」
「それは凄いじゃないか」
「でも本人はそうでもないと俺は思ってた。もっと上を見ていたと思う」
「負けず嫌い?」
「それもあるだろうけど、本人じゃないから本当のところは分からない。あの子、私達とはちょっとだ引き気味だったから」
「お前ら一体何をしたのさ」
田中が不思議そうに俺達に聞いてくる。確かに今の佐倉の態度はかなり柔らかくなったものだ。
「誰か個人じゃないと思う。私とあの子の距離は昔のままだけど、そこに私の親が入ってくるとちょっと変わっちゃうのよ」
確かに佐藤の親とは距離を取ろうとしていたのは、制服を作る日に俺が見ていてもよく分かった。
「まあ、佐藤のおばさんが絡まなければって制限付きだよな。今は」
「私だって、親を怒っているのよ。でもさ、あの人は言うだけ無駄よ。加勢の家は今まではあまり接触はなかったでしょう?どうな訳?」
「普通だろうな。基本的に今までは接点がないし。一度グループ研究で俺の家に来たけど、その時だってあいつは手ぶらでは来なかったな。ちゃんとマナーもできていた分両親の覚えはめでたいぞ」
「お前ら……。まあいいや。そのはとこと一緒にいるのがちいちゃんは普通ってことな。ちいちゃんの傍にいられるってかなり気を許している相手だけってことか」
俺らの話を聞いていた田中はそんな事を考えていたようだ。
「あいつはさ、トラブルをとにかく嫌うし、怖がるから積極的に他人と関わることには警戒をしているんだよ」
「どうして」
「あいつを一番の底辺だとみなす奴が多かったんだ。地元では。思い出すとそれは傲慢でしかないと思うけどな」
「人の生死なんて誰にも分らないのにね。まあ、私の場合は親が反面教師みたいな存在で表立って仲良くしていたらあの子に迷惑がかかるから程よい距離を置くことにしている」
佐藤は自分は皆と違うと言っているつもりらしいが、本音のところは正直分からない。俺が聞いたことが本当だったら、俺は佐藤も信用は出来ないのだが……佐倉はどうなのだろう。
「まあ、ちいちゃんは今も昔も頑張り屋さんってことか」
「そんなところだ。客観的な意見としてだが、興味本位で近づいて欲しくないのが俺の本音。勿論俺はあいつに恋愛感情は持っていない。けど、あいつの心の強さが俺は羨ましい」
「私は……親と考えると今の状態がいいのかな。でも理絵はどうかしら?」
「ああ……あいつか。あれはだめだろう。どうせ何かやらかすさ」
「誰だよ。理絵って」
田中は俺たちに聞いてくる。仕方ないので俺たちは簡単に今までの話を話した。
「俺、そんな女……パス」
「まあ、俺もあの日がなければ見方は違ったと思う。いい勉強をしたと思っているさ」
あの日、入試が終わって集合場所の駅に着いてから俺たちは解散をしたんだけど、佐倉はまっすぐに家に戻らないで学校に寄ってあったことを報告したそうだ。制服の受け取りがあった後に俺は自分の親からそのことを聞かされた。自宅に戻ってからすぐに俺の家に電話をかけて、学校には報告済みで本当に申し訳なかったと詫びたという。
あの日、面接があるのに緊張して弁当なんて食べれないからいらないと言って持ってこなかった俺に佐倉と佐藤が弁当を分けてくれた。面接も最後の方だったから帰りにちょっとだけ買い食いしようよって言って買い食いをしたこととか……あれからまだ二か月とちょっとしかたっていないんだ。
佐倉が細かいことを報告してくれた為に理絵の急な進路変更にも先生が迅速に動けたのだろうと今では思う。
俺の両親が一番驚いていたのは、K学園の第二志望にした本当の理由。制服注文の時にそれを聞いた訳だが、一時納入金が絡んでいたとは知らなかった。俺も佐藤も理絵も合否が早く出るからと三人そろって同じ学校を受験していたから。夕食の時に俺の両親が「しっかりしているのはいいけどもう少し子供らしくてもいいのに」と言っていたのが印象的だった。
冷静に状況を見ていて、自分に最も適したものを的確に選択する彼女。彼女がした選択は……恐らく地元の切り捨てだろう。それも佐倉らしいけど彼女の生き方がどうも急いで大人になろうとしているように俺には見えるのだった。




