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今回はよっちゃんの目線になります。
Side義人
君塚の駅に着いて、あいつを引きずり出すように電車から降りて近くのベンチに座らせる。広瀬先輩がちょっと頼むなと言って公衆電話のある方向に向かって歩いて行った。恐らく学校に連絡でもするのだろう。
「ちい、大丈夫か?」
「うん。久し振りだからちょっとあせったかも。大丈夫。ゆっくりと学校に行くから」
「あんな姿を見せられてさ、はいじゃあな……ってのはないだろうが。ちゃんと先輩と一緒にお前を連れて行ってやるよ」
「ありがとう」
「ああ。でも、約束。無理はしないって約束してくれ:
「無理?」
「うん。お前が倒れたと聞かされたあの日を思い出して俺は辛かったから。あんな思いを何度もしてたまるかよ」
俺は、あいつの手を握ってやりたいけど、人の目もあるから自分の拳に力を入れる。ここは駅のホームで誰に見られているのか分からない。
「ごめん。よっちゃん。でも大丈夫。きっと直君にも同じことを言われちゃうね」
「そうだな。お前は皆に監視されていろ。それがお前にはちょうどいい」
「うん。じゃあ……ジョギングもダメ?」
「もちろん。ストレッチだけならやってもいいぞ」
「分かった。ちゃんという事を聞くよ」
そして、広瀬先輩が戻ってくる前にちょっとというか、かなり会いたくない奴らにこの光景を見られてしまったのだ。
「おはよ~。内」
「うっちーが女の子と一緒だ」
「誰だよ。ちょっと紹介しろよ」
一気に捲し立てるのは俺の学校の奴ら。俺のクラスには女子は……いなくもないが、全員が彼氏持ち。数少ない出会いの場に希望を持っているという……ちょっと寂しい連中だ。
まあ、俺も奴らとたいして変わりはないのだけど。
「お前達、ちょっと黙れよ。こいつは俺のはとこ。こいつさ、電車の中で貧血を起こしたから今は休ませているところ」
「悪い。それは失礼した」
真っ先に誤ったのは麻生。こいつは高専に受かった途端に彼女に別れましょうと捨てられてしまったという不憫な奴。
「よっちゃん、学校のお友達?」
「ああ。お前はお辞儀禁止な。分かっているだろう」
「うん。はじめまして。義人君のはとこの佐倉と申します。こんな状態でごめんなさい」
「仕方ないよ。電車満員だしさ」
「はとこってそんなに仲がいいのか?」
「家によるだろうよ。君たちは子供の頃から一緒に過ごしてきたんだろう?」
気が付いたらいつも隣にいた。同じ習い事をしていたのだから兄と妹のようなものだ。
「そうだな。親同士が仲が良かったし、同じ町内に住んでいたからだろうな」
「それじゃあ幼馴染以上に絆が強いってことか」
「で、内。お前はこんな状況のはとこさんを放置して学校に行くってことはさすがにしないよな」
「それやったら……人間としてダメだろう」
「流石にそれはしないさ。こいつの高校の先輩……俺の中学の先輩だけどさ。ほらっ、あそこで電話しているから多分学校に連絡しているんだと思う」
俺は前方にいる直也先輩を指差した。
「ふうん。貧血ね。規則正しい生活をしている?」
「なるべく睡眠はしているとは思うけど」
「えっ?ダイエットしているの?」
「そこまでは……していないです」
少しだけ顔色が戻ったちいを相手にクラスの奴らが話しかけている。中でも積極的なのが城山だろうか。
「とりあえじ、学校に着いたら母さんに報告するからな」
「えっ……でも……」
「でもじゃない。これはそういう決まりだったろ?忘れたか?」
「忘れていないです」
「放課後、一人で帰れるとは思うなよ」
「うん、分かった」
多分俺がS高に迎えに行くのだろうなと思いながら、ちいを説得することにした。
「なんか、内が保護者みたいに見える」
「確かに。ずっとこの調子なんだろうな。この二人は」
「ちい、大丈夫か?なんだ?高専の男に囲まれて」
電話が終わった直也先輩がこの状況に茫然としている。
「すみません。俺のクラスの奴らが……。こっちの人は中学の先輩で広瀬さん。生徒会の副会長でバスケ部でしたっけ?」
「その通り。義人も貧血で伸びかけているこいつも、よろしく頼むな。可愛い後輩だから。ちい、学校に行くぞ。今日はタクシーで坂の上まで行くことの許可を貰ったから」
「えっ。でも。それは」
「今のお前には、あの坂は上がれない。分かったか」
通常のS高は正門までしかタクシーで行くことが出来ないと聞いている。まあ、体調が悪いとか足を怪我しているとなれば話は別らしい。
「分かりました。よっちゃん、申し訳ないけどもう少し傍にいてくれる?」
「ああ。タクシーに乗るまでな。皆は行ってもいいけど……お前らどうするのさ」
「男二人で行くのもいいだろうけど、何があるかわからないから、俺たちもタクシーに乗るまでは別にいいと思わない」
「確かに。それもそうだな。よろしく頼む。ちい、立てるか?」
「多分」
直也先輩に促されてちいはゆっくりと立ち上がる。ほんの少しだけ体が揺らいだ。
「無理するな。それと今日は保健室で過ごすように。いいな」
「はい、わかりました。ノートとか……どうしよう」
「ああ、英語と数学はまなに頼むとして。他はクラスの奴でいいか?」
「うーん、今井君には頼まないでね」
「分かった。みちならいいか」
「そうしてくれると助かるかも」
ゆっくりと歩くちいに合わせて駅の改札を出てから一休みさせる。
「タクシー乗り場まで歩けるか」
「大丈夫です。ゆっくりとなら」
「いいから、ゆっくりと歩け」
そうするとゆっくりと歩き始める。いつもよりははるかにゆっくりと歩いてようやくタクシー乗り場に着いた。
「ありがとう。よっちゃん」
「いいや。無理はするなよ」
「うん、皆さんもありがとう」
「今度は元気な時に会おうね」
「はい、そうですね。よっちゃん達もいってらっしゃい」
タクシー乗り場の前で俺たちは別れた。
学校へ行く道すがら、ちいの事をかなりしつこく聞かれたけれども、かなりいい加減に答えたのは、はとこを心配するものとして当然だと思ってもいいよな?




