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「そういえば、佐倉さんは生徒会にも出入りしているよね」
時沢くんにいきなり聞かれる。
「うん、広瀬先輩とは、同じ中学だから私の家の事も分かってくれている一人だし、早く家に帰りたくない私を気にして一緒に途中まで帰ってくれるの。本当は……私は直君に甘えているだけだから、ダメだよね」
私はずっと思っていた本音を思わず漏らしてしまって慌てて手を口元にあてた。こんな事……本当は思っていても言ってはいけないのに……。
「だったら、これからは私達にも甘えてよ。私達も……ちいちゃんって呼んでもいいかな」
「うん。私、ちびっこだから小学校からずっとこう呼ばれるの」
「うんうん。何となく分かるかも。凄く大きかったでしょう?ランドセル」
「時沢君……よく分かったね」
「あれだろ?ランドセルが歩いているってカンジ」
時沢君達は、暫くすると笑い始めた。何を想像しているのか、嫌な程分かる。そのうち綾瀬君まで笑い始めた。
「綾瀬君まで……皆酷いなあ」
「笑うのはちょっと宜しくないな。でも凄く納得。両手で持ってクッキー食べていそう」
「ねえ……私はハムスターじゃないんだけど」
「いやいや、今だってちっちゃくてちょこまかしているし」
「それをハムスターを呼ばないで何と言えと?」
「そんなの、私だって分からないから」
私達はおしゃべりをしながら、次の話し合いの流れを決める事になった。今度のホームルームの前に実行委員の集まりがあるはずだ。既に企画書を書き込む事を前提に書類として形になりつつある。
クラス配置図を大まかに決めている時に廊下から私を呼ぶ声がする。廊下の方向を向くと、そこには直君がいた。
「これは何の集まりだ?」
「文化祭のアイデアの纏めですよ。広瀬先輩」
「ふうん。ずいぶんと早いな」
私達が纏めた企画を覗きこもうとした直君の前に手をかざす。
「そこまでです。生徒会役員は中立と言っても、それ以上はルール違反です。本気で怒りますよ」
「ちぇっ、分かったよ。企画書を提出したら分かる事だしな」
「そう言う事です。過去の文化祭の資料って見せて貰えるのですか?」
綾瀬君が直君に聞いている。確かに過去のデータには私達にとってのお宝があることは確実だ。
「実行委員が見る事は出来るからお前がやれよ」
「はいはい、こんな時間にしかも部活のジャージ……何かあったんですか?」
「あると言えばある。ないと言えばない」
相当歯切れが悪い言い方ですっきりしない。
「はっきりと言って下さい。その言い方……気持ち悪い」
「気持ち悪いって……お前。それはちょっとあんまりじゃないか?」
「いいえ。全く思いません。からかいに来たのなら、とっとと部下にに戻って下さい」
直君が目的を言わないので、私は直君に退場を言い渡す。
「分かったよ。今日は作業終了か?」
「終わりにしようとお思えばできるけど?それがどうかしたの」
「悪い。こいつを連れて行ってもいいか」
連れて行くってどこに?かなり嫌な予感しかしない。断ったらダメなのだろうか」
「私は、何をしたらいいの」
「お前にとっては楽な事さ、今でも両手でストップウォッチやれるのか?」
「その位って言えたらいいけど、流石にコンマゼロイチまでは今は無理だよ」
「十分。やっぱりお前来い」
「行かなきゃだめでしょ。分かった」
その時、手伝うと答えた事が後々トラブルの元になって戻ってくるとはその時は思っていなかった。




