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放課後。皆のアンケートの集計作業。今日はクラスメイトで残れる人が手伝ってくれる事になった。
「ねえ、この作業を一人でやっていたの?」
「うん。そんなに大変じゃないよ」
佐藤さんに聞かれて私は答える。
「いいや。大変だから。今井……、あいつ何で部活に行ったかな」
「今週末に練習試合があるっていっていたから、私が部活に行っていいよって言ったの。ごめんね」
「佐倉さんがいいって言うのならいいんだよ。とりあえず今日は集計が先だよな」
「うん。その意見から、次に決める事を考えて行こうかなっておもっているんだ」
クラス委員の綾瀬君が中心になって作業が始まる。教室にいるのは、私と綾瀬君、時沢君と立石君。女子は私と佐藤さんの合計五人で作業をする事になった。
最初の集計作業は思った割に早く終わった。その中で似ているグループごとに分けていくと、お好み焼きの食材に関する意見が圧倒的に多かった。
「金額がかかる食材は使えないよな」
「お肉ってことでいいのかな」
「それと、どこから仕入れるかが重要だろ」
時沢君達三人がどんどんアンケートの結果から次の行動に向けて意見を言っている。佐藤さんと同じように二人とも付属中の出身なのだろう。そんな三人を見ながら綾瀬君は私を見ている。
「綾瀬君、どうかしたの?」
「ちょっとね。話し合いには関係ない事だから、気にしないで」
お好み焼きなら、私の手持ちの情報が使えるのではないのだろうかと思い、恐る恐る聞いてみる事にする。
「あのね、天候次第だけど……キャベツならある程度の量を無料で確保できると思うんだ」
「何、それ?」
「スーパーで捨ててある外側の葉じゃないよね」
「だから天候次第って制限を入れているでしょ。私がキャベツを家から取って来る」
「うちから?」
「取って来る?」
「そんな簡単に言わないでよ。佐倉さん」
佐藤さん達は否定的に感じているらしい。
「天候次第って事は、佐倉さんの家には畑があるってこと?」
「うん、畑と田んぼがあるの。祖父母の家と私が食べる位だから畑はちっちゃいけどね。お米は出荷しているから一応私も農家だね」
「そうなんだ。大変じゃない?」
「田んぼは祖父母と同居している伯父達も手伝ってくれるけど、今年からは土曜日は学校休もうかな」
「どうして?」
「田植えと稲刈りは待ってくれないでしょう?高校は義務教育じゃないんだもの」
「それよりも誰が取りに行くんだよ」
「一番いいのは、前日の夕方に先生がうちの畑に寄って収穫を手伝ってくれる事が最適かな。だから企画が決まったらその話をこっちからお願いする予定。キャベツの数量とかは、企画が通れば過去の資料を見せて貰えるとは思うんだよね。一応、仕入れにはキャベツは書いておいて値段は時価でいいんじゃない?」
「時価って何」
「その時のお金。企画書には、提出前のスーパーの値段で仕入れ計算はしておけば問題ないと思うの。仕入先を安くあげればその分が装飾に回せるからその方がいいと思って」
「佐倉さんの提案は有難いけど、大変じゃないか?」
「そうでもないよ。野菜と仏壇にあげる花と果樹が生る木が数種類だから。私と祖父母の家だけだから私の持ち出し位平気だよ」
「大変って……。それもそうだけど、税金を支払っているんだろう?それとも親が払っているのか?」
「税金ね。農地には宅地並みの課税がされていないから。もちろん自分名義のものはちゃんと支払っているわよ。税金。私が相続したのだから」
「それは凄いな」
「そうかな。わたしにとっては、それが普通の事でいつもの事だから。おもしろおかしく言われるのも嫌だから、ここだけの話にしてくれると嬉しいんだけど……私、両親は亡くなっていてもういないの」
「じゃあ、今は誰と?」
「叔母と一緒だけど、養子縁組していないから私が家の維持と管理をしているの」
「そうなんだ、だからしっかりしているのね。ご両親はどうして?」
「交通事故。父は私を庇って、母は意識が戻らないまま。私自身は全身打撲で卒園式に出られなかった位かな。ややこしい手続きは、本家の人……大人が全てやってくれたから私は覚えていないの」
「そう。叔母さん達がいて良かったね」
「ある意味でね。姪が生まれてからは同居人みたいな感じかな。私の全財産の我が物にしたかったみたいだけど」
「それ……大丈夫か?」
「うーん、ここに合格してから分かった事なんだけど、私の市から貰えるお金全額と一部の預金……私の預金は親達の保険金とか事故の損害賠償とかそういうものなのだけど。普通預金に入れていた分がかなり使われていたの」
私が言うと皆は絶句している。確かにそうだよね。私だって気が付いた時に真っ白になったもの。
「そんな人と一緒に暮らさないといけないものなの?」
「あの人達は姪をダシにしているわ。折角出来たお友達と同じ小学校に通えないの?だって。私の家から出て家を借りればいいのにね。私のお金を使いたいだけ使ったのがバレテ返済完了するまでは監視の意味もあって同居する事が決まっているの。面倒くさいけどね」
「寮に入る事を考えなかったの?」
「それはもちろん考えたわ。でもね、家を乗っ取られそうだから止めたの。家の権利書とかはこの件でお世話になった弁護士さんに紹介して貰った貸し金庫に入れたし、使われた銀行口座も即座に解約して銀行も変更したからあの人達は勝手に何かしたくてもできないの。そんなこともあって、私の学校にも来る事はないと思う。学校の保護者は同じ学区に住んでいるはとこの家にお願いした位だもの」
「そうか、大変だったな」
「どうなのだろう?私、自分と誰かを比べた事はないから。皆もいずれは同じような経験をすると思うの。私はたまたまそれが早かっただけよ」
「そう考えると相続となるといずれは私達にも関わるわね。さあ、個人的な事はここまでにして作業を続けようか」
佐藤さんの一言で再び集計作業から使えそうなアイデアをピックアップしていく事に専念する。




