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In other word・・・  作者: トムトム
2章 歩いていこう ~Ich werde gehen.~
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side理絵

ここまでの期間の理絵の話です。大人しく……している訳がありません。

「あっ、一緒ではなくて助かった」

入学式前のガイダンスの時に張り出されたクラス分け。私は五組で他の三人は三組の欄に名前が書かれている。ちょっとだけきまずい思いが続いていたので、気分的に楽になる。授業の進行も同じになる事もないと分かり、安心する。

3月の実力テスト後にあった合格パーティーで、どうにか富田君に接触する事ができた。ちょっとだけ視線が佐倉の方に動いている、当の本人はホールの一番後ろで先生達と話していた。

「彼女を見ているの?」

「彼女って誰の事。会場に結構人が集まったなあと思っただけだけど」

富田君は肯定する事も否定する事もしなかった。これ以上追及しても答えてはくれないだろう。

「佐倉さん……S高に行くんですって」

「人づてに聞いている」

「そうなの。私も同じ学校なのよ。新し学校での彼女の事を教えてあげようか?」

「そんな事を頼んでもいいのか?」

意外に富田君は私の提案に食いついてくる。富田君は結局今だってまだ彼女の事が気になっていることが分かる。離れても思うという彼の決意が私の心を締めつける。彼女と寄りを戻すだなんて絶対にしたくない。

「いいよ。友達だもの。電話番号教えてもらえる?」

こうして私は、彼の電話番号をゲットする事ができた。

実力テストの後に早速彼に電話をした。彼女は回答欄を全部埋めたと聞いていたけど、わざと全然埋められなかった……と答えた。回答欄を埋められなかったのは私だ。この位の嘘は別にいいよね。

そして、公立高校の入学式の日の放課後、私は新しい制服を着て彼と千葉の駅で待ち合わせをしていた。

「斎藤さんもかわいいね。似合っているよ」

その言葉が例え社交辞令でも嬉しくなる。

「ありがとう」

私は久しぶりに心から笑えたと思う。自宅では笑う事なんてなかったから。私は佐倉さんと同じクラスになれなかった事を伝える。

「そうなんだ。いいんだよ。全部が知りたい訳じゃないんだよ」

彼は軽く微笑みながら私に答えてくれる彼の顔を見ていたい。私だけにその顔を剥ける方法はないだろうか?

「ごめんね。学校が始まったらもう少し分かると思うんだ」

「そうだね。だったら、今度は土曜日の放課後に会わないか?」

「私の方が遅くなると思うよ」

「いいよ。お昼をどこかで一緒に食べようよ」

「人によっては私達がデートしているって言われるよ」

私はわざと意地悪く聞いてみる。

「言いたい人には言わせておけばいい」

彼はきっぱりと言い切った。そう言ってくれるのなら私も利用する。

「分かった。それじゃあ、今度待ち合わせ場所を決めないと」

彼はちょっと悩んでいたけれども、結果的に私達だけの待ち合わせ場所が決まった。


入学式の時は退場して帰る時に見かけただけで終わってしまった。私の視界に彼女を捉える事が出来たのはオリエンテーションキャンプの時。三キロのジョギングでぐったりしている大半の生徒を見下ろしている一部の集団の中に平気な顔をして立っていた。中学二年までは運動部に入っていたのだから高校でも運動部に入るのだろうか……なんて位にしか考えていなかった。

授業が始まると、たまに前半クラスの話も伝わってくる。実力テストで英語と数学のクラスは決まって、私はグループBに決まっていた。グループAはトップレベルの高校に入れなかった人が多いと聞いていたから自分のポジションには満足していた。

体育が終わって教室に入ろうとしたとき、彼女……ちいが四組に入って行くのが見えた。そんな時に暮らすメイトから聞かれた。

「斎藤さんって、あの事同じ中学なんでしょ?」

「あの子?」

「えっと……確かさくらって……名前でいいの?」

「ああ。佐倉は名字だよ。どうして?」

「ふうん。あの子、中等部も含んだグループAなんだって。英語も数学も。彼女って凄く頭がいいの?」

久しぶりに聞くあいつの話。グループA?どうしてグループAには入れたのだろう?そういえば、実力テストの時に全ての回答欄を埋めたとは言っていた。皆は彼女の事を何もしらない、今、私が何を言って盛るすぐに三組には広がる事はないだろう。

「あの子は陰で何をするか分からない子だから気を付けた方がいいわ」

「そうなの?見た目は普通の子なのに」

「そういう子程、分からないものよ」

「それはあり得るわね。前半クラスの同級生がいるから伝えておこう。

私の言う事を真に受けている暮らすメイトを見て私はほくそ笑んだ。なんだ。この学校でもあの時のようにやれそうだと。一気に広がるのではなく、じわじわと広がっていけばいいと思っていた。


「写真部の説明会に行かない?」

写真には興味はなかったのだけど、私は友人に連れられて生物室に向かった。入部届けに名前を書こうとした時に写真部の部室はこちらですか?と聞き慣れた声がする。声の方を振り向くとそこには佐倉本人がいた。

中学時代に写真で賞を貰った事があったから説明会を聞きに来た事も頷けた。

けれども、入部届けを友人と共に記入してしまった私が今になって辞めるとは言えない。ここは佐倉の動きを見極めた方がいい。彼女の一挙手一投足に注視する。彼女は入部届けは貰ったが、記入もせずに入部の際は改めて提出すると言って入部の意思を示す事はなかった。私に気を利かせたつもりなのだろうか?その余裕さが私を更にいらつかせる。暫くすると、先生が探していると呼ばれて生物室からいなくなった。

「彼女……入るかしら?」

「入ってくれるといいわよね」

先輩達は好意的な態度に高評価をつけた様だ。

「あの子って……広瀬君と朝一緒の子よね?」

「そうかもしれない。千世さんがいるのに、どうしたんだろう?」

「広瀬先輩ですか?」

「あなた知っているの?どうして?」

「中学の先輩になるんです。佐倉さんと広瀬先輩は昔からああなんで」

「昔から?」

「はい、付き合ってはいないと思いますけど。ただ……人のモノを欲しがる子なんで……何と言ったらいいか」

佐倉が人のモノを欲しがるというイメージを植え付ける事にする。

「そうなの?人って見かけに寄らないのね」

彼女の話はそれで終わりになった。今の様に彼女の話題がでたら小出しにマイナスなイメージを持つような事を言っていけばいい。本人が知った時には既に話は広まっている。

あの日、決めた決意を新たに私は動く。あいつの思い通りには絶対にさせない。

今日、家に帰ったらあの人に電話を仕様。別れたと言いながらもどこかで彼女の事を想っているように見える彼に。多少の真実と同量に多大な嘘を共にして。


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