君が嘘をついた・・・9
「…で、私は何をすればいい訳?」
静香は私に聞いてくる。静かに頼みたい事は…まずはこっちだろう。
「ごめん、理沙と少し接触して欲しいの。聞き出して欲しい事が
あるんだけども、直接的に聞いたらバレると思ってて」
「クラス内の事はどうするつもりなの?」
静香は自分が頼まれるのがクラス内での私のことだと思ったらしい。
「そんなもの…私一人でどうにでもなる。今回の扇動していたのが
誰なのかいきつけるが不安だけどもね」
「あたりはつけてるの?」
「クラス内で煽ってるのは分かってるけど、あいつの後ろに絶対に
誰かがいるのだけは確実に分かってる。黒幕が分からない」
静香と私が話していることが義人君と雅子ちゃんには見えていないようだ。
「ねぇ…ちい…もしかして」
「クラスで何かあるのか?」
「うん…私がお金持ちだから私立受けるんだってさ。どういう意味なのかね」
私は苦笑いして二人に簡単に説明した。
「ちいが微妙に学費をケチってるのにな」
「当然、初年度納付金の総額とか知ってるんでしょ?」
義人君達は私に聞いてくる。
「お金があるって言っても、皆の家より少ないよ。叔母さん達に勝手に
使われていたんだから。だからなるべく早く家を出たいんだ」
「ちいのお金って言っても、それは両親が残してくれたお金だものね。
それが使い放題じゃないのは…どんな馬鹿でも分かるものじゃない?」
雅子ちゃんは呆れたって顔をしている。
「そうなんだよね。私の生活費って全部…両親が残してくれたお金で
賄ってるの。家の名義も私だから、税金払うし、光熱費払うし、健康保険も
払わないといけないでしょう?塾のお金も洋服も医療費も全部」
「えっ、叔母さん達って払ってないの」
「そうだよ。今では一緒にご飯なんて食べないし。私の家にいるのにね」
私は皮肉めいて話している。ここまで人に話したことはなかった。
「叔母さん達からお金を戻してもらったら?」
「とりあえず…入院した時の一時金を取り戻そうと思ってる。勝手に自分たちの
懐に入れたみたいだから」
「マジで?」
「うん…多分…ね」
今まで誰に言ったことがない家の事情を話した。
「じゃあ、叔母さん達って居座っているってこと?」
静香がやっと口を開いた。静香は叔母のことをよく思ってはいない。
「悪く言えばそうかもね。良く言えば…一緒にいてくれてる?」
「それって…ちいの世話してないよね?酷くない?」
「雅子ちゃん…言いたいことは分かるけど…親族と叔父の姪の前では別人だから」
「それはタチが悪いな。学校でも針のムシロで家でも…かよ」
「そうだね。今まで言ったことなかったものね」
「そんなこと…普通は言えないから。私達聞いちゃって良かったの?」
雅子ちゃんが少し不安そうに聞いてくる。
「すぐじゃなくても…いずれは知ったと思うよ」
「でも皆が面白おかしく言うよね」
静香はそう言うとため息をついた。
「まぁ、そこのところは何とかするよ。とりあえず…学校のことを終わらせる」
「家の方はどうするんだ?」
「最悪…一人暮らしをすればいいだけだから」
「もう…無理か?叔母さん達と暮らすの」
「信頼関係ないのに?」
「そっか、そうだよな」
私は皆を見てほほ笑む。こんなに私の事を気にしてくれる。
私も心を閉じないで…もっと皆に頼れば良かったのかな。
「とりあえず…俺らの方もさり気なく調べてみるさ」
「いいの?巻き込んじゃって?」
「大丈夫だって。静香よりもノーマークで聞けるかもよ」
雅子ちゃんの言う事も一理ある。任せてみようかな。
「とりあえず…テスト後に皆に詳しく話せるように」
静香が私に言う。そうだね。泣いた理由もその時には話せるようになりたい。
「分かった。頑張る」
今は…ここにいるメンバーを信じてみよう。もう少しだけ頑張れそうな
自分がいる。少しだけ縋ってみようかな。
「やっぱり…強いね。ちいは」
「そんなことないよ。皆…今日の私を見ているのに?」
「そうだけどもな。俺たちが泣き虫だったのを忘れる位…一人で泣かないで
戦ったってことだろ?」
「そうだね。私達が忘れる位…ちいの周りではいろいろありすぎたんだよ」
「私は知っていたけどね。徐々に地位が心を凍らせて…私達…皆に無関心に
なったんだから。凄く不安だったよ」
静香の目に少しだけ涙が浮かんでいる。
「馬鹿ね…静香ったら。静香には十分感謝しているよ」
私は中学に入ってから、始めて静香に感謝の言葉を口にしているかもしれない。
それだけ、静香の存在が私の中で大きかったことも痛感していた。




