第Ⅰ章 第Ⅰ話 ~魔術師2/2~
日が昇りつめた正午近く。
太陽が地面に暖かな陽光を差し向け、春の風がまた一段と眠気を誘う。
「……どこだここは」
一人の少年…、俺は見た事も無い平和な空間に戸惑いながらその言葉を喉からひねり出した。
ベットから体を起こし、部屋を見渡すも見た事も無いほどに綺麗に整った内装という感想しか出てこなかった。
普段生活する中でここまで綺麗な部屋を使うのは王族くらいでは無いだろうか。
それに今体を預けているベットも今までの寝具とは比べ物にならないほどに柔らかくふんわりとしていて、ついつい二度寝をしたくなる程だ。
「二度寝してる場合じゃないな」
俺は取りあえずこの部屋だけでは状況が全く掴めないので伸びをして体をほぐしてベットから名残惜しさを感じながら降り、近くに掛けて合った愛用のコートを着て部屋から出る。
「どうなってんだよここは」
廊下を見ると、もはや芸術レベルの世界が広がっていた。
床には赤いカーペット、壁には身長ほどの窓が一定の間隔で付けられ、その開いた壁には絵が立てかけられていたり小さな机の上にこれまた小さな壷に入った花が飾られていたり。
そして決めつけは……メイドさんだった。
鼻歌を歌いながら掃除をしていたメイドさんがこちらに気付くと掃除用具を持ちながらパタパタと小走りをしながらこちらに来ると、俺に声を掛ける。
「起きられましたか。おはようございます、と言ってももうお昼ですが。……お体はもう大丈夫ですか?」
なんとも心配していると言った様子でこちらの体の具合を聞く。
全く関係の無い俺の事を心配する余裕が在るのはここが平和だから、このメイドさんがお気楽なのか。
まぁ、心配されるのは単純に嬉しいが。
しばしそんな思いを心で呟いていると、黙っている俺をみて「あ、あの。本当に起きて大丈夫なんですか?無理はせずにもう少しお休みになったほうが」と再び寝かしつけようとする当たり、かなりの心配性らしい。
流石に俺もそこまで心配されては少し罪悪感をかんじた。黙っているだけで向こうは心配してしまうらしいので俺は返事を返す。
「あ、大丈夫です。少し考え事をしていただけですので。それよりも俺を助けてくれたのは誰なんですか?」
起きて最初に浮かんだ疑問をメイドさんに投げつける。
そう、俺が覚えている最後の場所は暗い路地裏だった。しかし、今立っている場所はと言うと路地裏とは口が避けても言えないどこかの廊下だ。
かなり重症だったはずなので、あそこに放置されたままなら死んでいた、確実に。ここまで運び、傷の治療を完璧にやってくれた恩人が知りたかったのだ。
「あ~、今庭で本を読んでいる筈ですので。一緒に行きましょうか?」
なんとも可愛らしくメイドさんは首をかしげる。
それが俺の心にキュンッ、と来たのは内緒だ。
「掃除は大丈夫なんですか?」
メイドさんが持っている箒を見ながら俺は聞くと、彼女は「別に構いませんよ。今やっても同じですし」と小さく微笑みながらそう言って彼女は俺の一歩前を歩き始める。
今やっても同じ、という意味が少し気になったが別に聞くほどでも無かったので今はメイドさんの後ろを歩く。
「……」
廊下を歩いて思う。本当に掃除が行き届いていると。
いや、掃除だけでは決して出せない清潔感がこの空間にはあった。
今まで住んでいた所のような空気が淀んで息が詰まる感覚どころか、息をするたびに心地よい花の香りが鼻をくすぐりながら空気が体に浸透するような感覚を覚えた。
「やはり少し落ち着かないでしょうか?」
後ろを振り向きこちらの顔を見ながら前を歩くメイドさん。
心を読むように言われたその言葉に気付く。確かに、少し落ち着かない。
今までとは天と地の差がある環境に今はまだ慣れていないので、どうもやっぱり周りが気になってしまう。
「ええ、どうもなれないと言うか。変に綺麗過ぎるとなんだか。……あ、別に悪口ではなくて」
「わかってますよ。私も最初は慣れませんでしたから」
「メイドさんもですか?」
「そうですね。ここで働き始めた頃はもう戸惑ってしまって、何回もお皿を割ったりバケツの水を零したり、決めつけは窓硝子を割ってしまったことでしょうか」
「そうなのですか?」
過去の出来事を懐かしむように話してくれるメイドさん。
先ほどからすれ違うメイドさん達にお辞儀をされて居る人がするような失敗ではないものばかりで少し驚いた。
「ええ、昔のことですから今は笑いごとに出来ますが。当時はもう凄かったですね。解雇されて居ない事が今でも不思議に思うくらいですから」
「そんなにですか」
「そんなにです。さて外に出ましょうか」
「あ、はい」
いつの間にか外にでる扉の前にに着いていたらしい。
メイドさんが開いて先に外に出ると、俺も続いて後ろを追いかけた。
そしてとうとう俺は外の光景を見て言葉をなくした。
幻想的、と言えばわかるだろうか。
もはや言葉では言い表せない程の世界が目の前にあった。
「あの、大丈夫ですか?」
大丈夫か大丈夫じゃないかと尋ねられれば思わず後者を選んでしまう。
これは夢、と言ってくれたほうが現実味があるのだが、まちがいなくここはリアルの世界なのだろう。
心地よい風がそう思わせてくれた。
「あの?」
「え、ああ、大丈夫です。行きましょう」
「はい、と言ってもあそこにいらっしゃるのですが」
と言ってメイドさんが手を指す方向には一人の……、中性の容姿をした人が小さな白いテーブルに紅茶とお菓子を並べ、その隣に本を積み上げながら静かに読書をしていた。
「本、明らかに量可笑しいだろ」
ついつい呟いてしまった。メイドさんは苦笑いだけで何も言ってくれなかったところから、この人もそう思っているらしい。
メイドさんは「いきましょうか」と先に本を読む人物の方へ歩いていき、俺はすこし小走りでその背中を追った。
「クロさん、お客様が目を覚ましました」
近くに来るとその本の量の多さが分かる。異常だ。
いくつもの本の塔が並んでいる。それも1mも在ろうかという高さで。
そして読む本人の早さもまた異常だった。
メイドさんに声を掛けられたのは表紙を開いた瞬間で、読み終えたのが俺が先程この人物に近づいた5秒前だ。
言えば広辞苑ほどの本をたった5秒で読んだ。
絶対中身入ってないだろ。と言うより、明らかに読んですらないだろう。
「そうですか、ありがとうございますアリシア嬢様」
パタンと本を置き、こちらに向き直る。
「さて、初めまして。ベアル・フェルマード・ハロウィン様」
……、この男は何故俺の名前を知っている?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうも、Raja&Yでございます。
魔術師、1ヶ月半振りの更新。みて居る人はきっと居ない。
だけど書きますよ。自己満足の領域を出ない小説ですから。
…、感想やご意見などどしどし書いて言ってください。辛口コメント、お待ちしております。
*次回予告*
第Ⅰ章 第Ⅱ話 ~王族1/2~
「クロさん。お湯湧けましたよ」
「ええ、ではエスプレッソと紅茶と、…ベアル様はブラックでも入れましょうか」
「…あんた、本当に何者だよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――