正義の味方? 戦うスイーツメイド!
ノリと勢いだけで走り出した物語。
日曜日の朝8:30くらいのノリでお送りします。
正義の味方? 戦うスイーツメイド!
この街には、正義の味方がいる──という噂があった。
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「ハァ……ハァ……ハァ……なんだよアイツ……」
男は肩で息をしながら裏路地に逃げてきた。
彼は自転車にまたがっているが、それは彼のものではない。
歩くのがめんどくさくなったので、コンビニ止まっていた自転車をちょっと借りただけなのだ。
満足したら駅前やスーパーなど、人目のつくところに置いておけばいい。
持ち主は知らないが、盗んだわけではない。
彼はそういう理屈で生きてきた。
そう。彼には罪の意識が無いのである。
だから、今日も勝手に自転車を借りた。
いつものように、バレないと思っていた。
だが、今日はその様子を見ていた者がいる。
「待ちなさい」
走り出してすぐに、彼は1人の女性に止められた。
「んだよ! 邪魔だ! どけっ!」
彼がこうやって威嚇すれば、相手はいつも怖気付いて勝手に居なくなってくれた。
しかし……その女性は引かなかった。
「それは貴方の自転車ではないわ。 勝手に乗っていくのは泥棒よ?」
女性はそう言って、やたらキラキラしている鍬のようなモノを出した。
「あぁん? 余計なお世話だ。 ふざけたカッコしやがって! そんなもんでビビると思ってんのか?」
男の前に立っているのはメイド姿の女性だった。
金髪で、長い髪の毛にヘッドドレスを付けている。
男は、見た目だけで自分の方が格上だと思い込み、怯むことなく威嚇を続ける。
だが、彼は知らなかった。
彼女こそ、この街で噂の正義のヒーロー。
『戦うスイーツメイド きな娘』ちゃんなのだ!
「もう……、困った人ね……」
出来れば言葉で説得できれば良かったが、彼に言葉は通じないようだ。
ため息を一つ吐いたきな娘は、鍬のような武器を振り上げた。
そして、躊躇いもなく彼の胸に刃を振りかざした。
「うわぁ! な……、なんだコイツ!」
間一髪避けた男は、180度転回して全力で逃げ出す。
しかし、戦うスイーツメイドは人間とは思えない速さで追いかけてきた。
「やばいやばいやばいやばい……」
そして、彼は焦りながら転がり込むように裏路地に入ったのだ。
呼吸を整え、来た道を振り返ると、そこには誰も居なかった。
「へ!ザマァみろ!」
逃げ切った事で再び強気になった男は、視線を前に戻した。
その時。
「なっ……!? なんで居るんだよ……」
男が見たのは、さっき撒いたはずのメイドだった。
一転、彼を恐怖が襲った。
ありえない光景を前に、体が硬直して動かないのだ。
「悲しい人ね……。でも、もう逃げられないわ。 さあ、覚悟しなさい! あなたの心を──マインド・クリーンアップ!」
きな娘は再び鍬を振りかざして、今度は彼の胸にクリティカルヒットさせた。
だが、決して人体を傷つけてはいない。
吸い込まれるように、胸の中へ鍬の先端が消えて行くのだ。
「あ……あっ……あ……」
彼は目を見開いてブルブルと震えている。
そして……
「らっしゃーす……」
気持ちよさそうな顔を浮かべた直後、ふわりと力が抜けたように、その場で気を失った。
「あなたの心の闇を耕しました。 次に育つのは光でありますように……」
そう言ってスイーツメイドは立ち去っていった。
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この街には、正義の味方が居る。
それは、心が闇に染まった人々の前に現れ、人知れず心を『整地』していくメイドだという。
だが、そんな彼女の正体は、誰も知らない。




