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第一話 俺は強いと思った。 なお、首輪が付いていた。

※転移初日で詰みます。

奴隷スタートです。

会社は後から作ります。


その日、俺はコンビニの深夜バイトを終えたところだった。


「ありがとうございましたー……」


 声が死んでいる。自分でも分かる。

 レジ前には誰もいない。客ゼロ。

 ホットスナックの棚だけが、なぜかやる気に満ちている。


 時刻は午前二時四十五分。


 八時間立ちっぱなし。

 クレーム一件。

 「袋いらないって言ったよね?」を三回。

 なお、最初に言われていない。


「……今日も人類は滅びなかったな」


 バックヤードで制服を脱ぎながら、俺はそう呟いた。


 正社員じゃない。

 夢もない。

 かといって、絶望するほど不幸でもない。


 ただ、ずっと微妙。


 帰り道、夜風に当たりながらスマホを見る。


 通知ゼロ。

 残高は怖いから見ない。

 明日の予定、特になし。


「……このまま一生、

 レジと揚げ物の往復で終わるんだろうな」


 そう思った瞬間だった。


 視界が、真っ白になった。


 信号?

 車?

 トラック?


「……あ、これ死――」


 そこまで考えたところで、意識が途切れた。



 目を覚ました瞬間、俺は思った。


「……あ、これ異世界だわ」


 反省はしていない。

 空が青すぎる。草が元気すぎる。

 空気が「冒険しろ」って顔をしている。


 俺は仰向けのまま、片手を掲げた。


「指、五本。欠損なし。

 よし、最低条件クリアだな」


 体が軽い。

 寝起き特有のだるさがない。


「これは来たな。異世界補正。

 ワンチャン俺TUEEEコース」


 周囲を見る。

 石畳の道。草原。遠くに城壁。


「はいはい、テンプレ。

 説明助かります」


 立ち上がって、少し待つ。


「……ステータス、出ないな」


 さらに待つ。


「……あ、もしかして課金制?」


 何も起きない。


「渋いなこの世界」


 その時だった。


 背後から聞こえたのは、

 絶対にイベントじゃない足音。


「……ん?」


 振り返った瞬間、後頭部に強烈な衝撃。


「っっだァ!?」


 視界が裏返る。


「あ、これ気絶イベントだ。

 知ってる。知ってるけど――」


 暗転。



 次に目を覚ました時、俺は硬い床に転がされていた。


 冷たい。

 臭い。

 首が重い。


「……ん?」


 首元に手を伸ばす。


 金属。


「……は?」


 首輪だった。


 装飾ゼロ。

 オシャレ要素ゼロ。

 希望、ほぼゼロ。


「いやいやいや。

 段階を踏もう? 普通」


 顔を上げる。


 檻。

 人。

 人。

 全員、首輪。


「……あー……」


 理解した瞬間、声が一段落ちた。


「俺、奴隷だわ」


「起きたか、新入り」


 筋肉で服を着ている男が、俺を見下ろしていた。


「ここ、どこですか?」


「奴隷管理所だ」


「ですよね」


 否定してほしかったが、人生そう甘くない。


「今日から働いてもらう。文句は首輪に言え」


「……その首輪、労基通ってます?」


 男は一瞬黙り、


「……ろう、き?」


 首を傾げた。


「あ、すみません。

 なんでもないです」


 異世界に労基はなかった。



 最初に連れて行かれたのは、モンスターの解体場だった。


 巨大な死体。

 血。内臓。骨。鱗。


「……うわ」


「解体、運搬、選別だ」


「選別って?」


「売れる部位と、捨てる部位」


「命の扱い、雑すぎません?」


 返事はない。


 刃物を渡される。


「……昨日まで俺、

 コンビニで揚げ物揚げてたんですけど」


 刃を入れる。


「うっ……」


 ぬるり。


「無理無理無理。

 これR指定超えてます」


「慣れろ」


「慣れる前提なの怖いんですけど」


 午後は鉱石の搾取場だった。


 狭い坑道。

 空気が悪い。

 照明が暗い。


「……ここ、普通に死にません?」


「死ぬ」


「即答!?」


 掘りながら周囲を見る。


(……配置、雑だな)


「……右から掘った方が崩れにくいと思いますけど」


「素人が口を出すな」


「ですよね。

 昨日まで素人でした」


 数時間後。


 崩落なし。

 作業速度アップ。


「……おい、新入り」


「はい。クビですか?」


「違う。

 明日も同じやり方でやれ」


「……え?」


 通った。


「……あ、通るんだ」



 その夜。


 粗末な寝床で、天井を見上げる。


「……詰んでる」


 首輪。

 奴隷。

 重労働。


 でも。


「……でもさ」


 今日一日で、はっきり分かったことがある。


「この世界、仕組みが雑だ」


 雑で、非効率で、気合論。


「……つまり」


 俺は小さく息を吐いた。


「日本式、めちゃくちゃ刺さるなこれ」


 勇者でもない。

 魔法もない。

 剣も振れない。


「でも」


 胸の奥は、不思議と落ち着いていた。


「ブラック企業で生き残った俺を、

 この世界が甘く見るのは――」


 ちょっと違う。


 こうして俺は、異世界で奴隷になった。


 なお、初日の感想はこうだ。


「前のバイト先の方が、

 まだホワイトだったかもしれない」



 翌朝。


 俺は首輪の重みで目を覚ました。


「……目覚まし機能、雑すぎない?」


 返事はない。

 あるのは、隣で寝返りを打った誰かの肘と、湿っぽい空気だけだ。


 昨日と同じ寝床。

 昨日と同じ天井。

 自由だけが、相変わらず見当たらない。


「おはよう異世界。

 今日も元気に奴隷です」


 誰にも届かない挨拶をして、立ち上がる。


 外に出ると、すでに作業が始まっていた。

 モンスター解体場。

 朝一番に嗅ぎたい匂いではない。


「……朝からこれはキツい」


「文句言うな。動け」


「はいはい。

 朝礼とか無いんですね」


「何だそれは」


「あ、なんでもないです」


 異世界に朝礼はなかった。

 それはそれで怖い。


翌朝。


 俺は首輪の重みで目を覚ました。


「……目覚まし機能、雑すぎない?」


 返事はない。

 あるのは、隣で寝返りを打った誰かの肘と、湿っぽい空気だけだ。


 昨日と同じ寝床。

 昨日と同じ天井。

 自由だけが、相変わらず見当たらない。


「おはよう異世界。

 今日も元気に奴隷です」


 誰にも届かない挨拶をして、立ち上がる。


 外に出ると、すでに作業が始まっていた。

 モンスター解体場。

 朝一番に嗅ぎたい匂いではない。


「……朝からこれはキツい」


「文句言うな。動け」


「はいはい。

 朝礼とか無いんですね」


「何だそれは」


「あ、なんでもないです」


 異世界に朝礼はなかった。

 それはそれで怖い。


 今日運ばれてきたモンスターは、昨日よりデカい。

 四本足。牙あり。皮膚が硬そう。


「これ、誰が倒したんです?」


「ハンターだ」


「へぇ。

 じゃあ俺たちは“後処理専門”ってことですね」


 返事はない。

 どうやら誇りという概念は、解体済みらしい。


 作業が始まる。


「そこ持て」


「どこですか?」


「内臓だ」


「部位名が雑!!」


 内臓は思ったより温かかった。

 というか、生きてたんじゃないかって温度だ。


「……これ、もう少し冷ましてからじゃダメです?」


「時間がもったいない」


「命より時間が軽い世界だ……」


 周囲を観察する。


 ・同じ作業を三人でやってる

 ・運搬ルートが無駄に長い

 ・待ち時間がやたら多い


「……あの」


「何だ」


「これ、役割分けた方が早くないです?」


「全員でやれ」


「全員でやって遅いなら、

 全員でやる意味なくないです?」


 睨まれた。


「……すみません。

 昨日まで一般市民でした」


 無言の圧に負けて、俺は刃を動かす。


 でも、口は止まらなかった。


「この人は解体担当。

 この人は運搬。

 この人は選別」


「勝手に決めるな」


「いや、もう決まってますよ。

 さっきから自然にそう動いてるんで」


 一瞬の沈黙。


「……続けろ」


「え、いいんですか?」


「結果を出せ」


「急に成果主義!!」


 数十分後。


 明らかに、作業が早くなっていた。


「……あれ?」


 俺だけじゃなく、周囲も気づいている。

 終わる時間が、目に見えて短い。


「……おい、新入り」


「はい。怒られるやつですか?」


「違う。

 その配置、明日もやれ」


「……え?」


 二回目だ。


「……あ、

 ここ、話が通る世界なんだ」


 ほんの少し、希望が芽生えた。



 午後。


 今日は鉱山だけ、と思ったら違った。


「お前、こっちだ」


「え、俺だけ?」


 連れて行かれた先には、昨日見かけた連中がいた。


 狼の獣人の少女。

 腕を組んで、こっちを睨んでいる。


「……視線が痛い」


 眼鏡をかけた人間の女。

 周囲を観察している。


 小柄なドワーフ。

 工具を見つめている。俺は見ていない。


「……集められた理由、

 だいたい察しました」


「お前ら、今日から同じ班だ」


「理由は?」


「扱いやすいからだ」


「言い方!!」


 狼の獣人が鼻を鳴らす。


「人間のくせに、

 よく喋るな」


「喋らないと、

 昨日みたいな作業になるんで」


「……生意気だ」


「否定はしません」


 眼鏡の女が口を開く。


「昨日の配置、

 あなたが考えたの?」


「はい。

 考えたというか、

 考えないと気持ち悪くて」


「……なるほど」


 彼女は小さく頷いた。


「無駄が多すぎたものね」


 分かる人がいた。

 それだけで、だいぶ救われる。


 ドワーフがぼそっと言う。


「……あの配置、

 腕が楽だった」


「ですよね!?

 ありがとうございます!」


 初めて、肯定された気がした。



 作業開始。


「じゃあ、簡単に決めましょう」


 俺は言った。


「狼さんは前線。

 力仕事と警戒」


「名前で呼べ」


「あ、すみません。

 今日中に聞きます」


 睨まれた。


「眼鏡さんは管理。

 数と順番と時間」


「……合理的ね」


「ドワーフさんは製作と補修。

 工具の管理も」


「……分かってるじゃねぇか」


 全員が、少しだけ動きやすくなる。


 作業は、明らかにスムーズだった。


「……なぁ」


 狼の獣人が、ぼそっと言う。


「お前、

 なんでそんな指示出せる」


「前の世界で、

 こういうのばっかりだったんで」


「戦士か?」


「いえ、バイトです」


 沈黙。


「……可哀想だな」


「否定できません」


 その日の作業は、予定より早く終わった。


「……解散」


 監督が、渋々そうに言う。


 俺たちは顔を見合わせた。


 誰も笑わなかったが、

 空気は少し軽かった。


 寝床に戻る途中、眼鏡の女が言った。


「あなた、

 上に行く気あるでしょ」


「……バレました?」


「分かりやすいもの」


 俺は肩をすくめる。


「下にいるの、

 もう慣れちゃったんで」


 その夜。


 天井を見上げながら、俺は思った。


 昨日より、ほんの少しだけ、

 状況がマシになっている。


「……悪くない」


 首輪は重い。

 自由はない。


 でも。


「人がいれば、

 やりようはある」


 異世界二日目。


 俺はまだ奴隷だ。


 でも――

 一人じゃなくなった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第1話は、エブリスタ掲載分の1話・2話をまとめた構成になっています。

今後は1話あたりの読み応えを重視しつつ、

話数を整理した形で連載していく予定です。


次回からは、

「やりすぎると、だいたい怒られる」フェーズに入ります。


よければブックマークや評価で応援してもらえると、

ブラック労働経験者が一人、異世界で救われます。


それでは、また次回。


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