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Rain for the Unseen【前編】

梅雨の季節。

生ぬるい空気と湿気に、心まで重くなりがちだが、王都南西ヴォルテナ区だけは例外だろう。


市場はまだ昼前だというのに、人の声と足音が絶えず

流れている。

果物籠の瑞々しい香り、香辛料の刺激臭。

それらを風の精霊〝ヴェント〟が運び、今日も

慌ただしい活気に満ちていた。


「ひと雨来そうだねぇ…。」


そう言って乾物屋の女主人はお釣りを手渡した。

リィナは乾燥根菜と一緒に受け取りながら、

同じ様に空を仰いだ。


リィナ「…分かるんですか?」


女主人は目を細め、高めのカウンター越しに

指を空に向けた。


「〝ルミエル(水)〟様の精がいつもより多いからね。

今日は早めに帰った方がいいよ、リィナちゃん。」


リィナ「そうなんですね。ありがとうございます。」


リィナも女主人に向き合い、にっこりと微笑んで、

丁寧に頭を下げた。


最近はこうやって、市場の人に声を掛けてもらえる

ことも増えてきた。

街に馴染んできたーその事実はリィナを自然に

笑顔にさせる。


自分は小さな田舎の出。

三十にも満たない住人たちが暮らすその村は、家々が

寄り添うように建ち、山と田畑に抱かれている。

隣町まで半日は要するような閉鎖的な村と、

大陸唯一の大都市では、文化も常識も何もかもが異なる。

王都アストリアから神託召喚の命を受けた時は、

随分と不安だったが、それも杞憂だったようだ。


リィナはロゼから頼まれた買い出しリストを籠から

取り出しながら、乾物屋のテントを後にした。

空には薄暗い雲が広がっている。

助言通り、早く買い物を済ませた方が良さそうだ。


リィナ「えっと、次はー…。」


リストに目を落としたまま歩き出した、その時。


布商と雑貨屋が並ぶ一角から

低く湿った囁きが、音となって耳に刺さった。


「……なぁおい、見たか…? 」「〝道化師(ピエロ)〟だ…。」

「勘弁して欲しいよな…。ここは〝サーカス〟じゃねぇんだぞ。」


リィナ「!」


道化師(ピエロ)……。


リィナの胸がどくり、と脈打った。


〝君は「戦乙女︎(ワルキューレ)」になるべきではないよ。〟


漆黒の長髪に走る白のバイカラー。

白い肌、わずかに青みを帯びた唇…。

そこから放たれた言葉が、胸の奥で蘇る。


(オルフェン……さん…?)


リィナはざわつく心を抑えながら、人垣の中へと

踏み込んだ。

活気に満ちていた空気が重たくなるのを感じる。


リィナ「すみませんっ…、通してください……っ。」


この胸騒ぎは何だろう。

初めて会った時、リィナの〝戦乙女︎(ワルキューレ)〟を

否定した人。

髪色と同じ、白と黒で隔てた

〝笑い顔〟と〝眠った顔〟の仮面姿が

脳裏で切なげに揺れる。


「何度言わせる気だ。ウチにゃおまえらみたいなモンに

売るモンはねぇよ。」


リィナ「!」


人垣を抜けた先で、布商の大柄な男が声を張っていた。

色とりどりの反物が揺れるその下に、二つの小さな影。


(……違う……。)


走った訳でもないのに額から汗が滲む。

早まる呼吸を整えながら、リィナは心で呟いた。


「異端」、「道化師(ピエロ)」と囁かれていた者は

リィナの知る人物では無かった。

〝彼〟にしてはーあまりにも背が小さい。…それに二人いる。


オルフェン以外の「道化師(ピエロ)」を目にするのは初めてだったが、

やはり似た仮面を纏っている。

以前、オルフェンは言っていた。

〝雫模様〟の刻まれた素顔を隠すために面をするのだと…。


リィナは王都に来るまで「道化師(ピエロ)」の一族のことも、

彼らが人々から疎まれてることも知らなかった。

素顔同様、隠し事の多い一族のようで、

今、目の前の「道化師(ピエロ)」からは

〝小さい子〟ということと、そのふわりとしたワンピース姿から

〝女の子〟ということしか分からない。


「…お金なら払うと言ってる。」


寄り添う幼子の、猫の目のようにつり上がった仮面を

付けた少女が、一歩前へ出た。

淡々とした言葉の中に苛立ちが見える。


「そういう話じゃねぇんだよ! …異端が。

人として真っ当に扱って欲しけりゃ、せめてその

不気味な面を外せ。」


「……………。」


布商の吐き捨てるような「異端」という言葉に、

傍らの「ノ」の字のような面の少女がびくっと

身を震わせた。


逃げ場を求めるように、猫の面の少女と

繋ぐ手に力が籠る。

その様子に猫の面の少女はさらに苛立ちを見せたが、

強く手を握り返すと、再び布商の男を見上げた。


「おまえらが〝素顔〟を嫌がるから隠してやってるんだろ!」


「このガキッ!そういう屁理屈を言ってるんじゃねぇんだよ!!」


リィナ「! やめてくださいっ!!」


大柄の男が反物を持ったまま腕を振り上げる。

リィナは反射的に地面を蹴っていた。

手を大きく広げ、二人の少女を背に庇う。


「……………!!」


殴られるーそう構えていた猫の面の少女が、咄嗟に

「ノ」の面の少女を抱き寄せながら

突然の目の前の影に驚いた。


手から買い物籠が離れたが、

リィナの頭からその存在は消えていた。

市場の路面に散る干し根菜や瓶の鈍い乾いた音が、

周囲の緊張を一気に張り詰めさせた。


「なんだあんた!関係ねぇやつは引っ込んでろ!!」


リィナ「それはこちらの台詞です!こんな小さい子たちに

手を挙げようなんて何考えてるんですか!」


「そいつらは異端だ!」


「いいえ、子供です!!」


黒々とした眉と髭。肉の付いた大きな身体。

近くに立たれるだけで、空気が圧し掛かってくるような大男に、

それでもリィナは視線を逸らさず真っ向から向き合った。


「その〝子供〟がなぁ! 将来神々を否定する

イカれた思想に染まって行きやがるんだよッ!!

ーそうなる前に、オレが害虫駆除しておいてやるって言ってるんだ!!!」


リィナ「………!!」


(駄目だ、話をできる状態じゃないっ……!

一旦この子たちをここから離さないとっ……。

……その前に防御祈術をーーっ……!!)


周囲から布商の男を囃し立てる声が上がる。

唾を吐き散らしながら、怒号と丸太のような

腕が降ってくる。

誰にもアテにできないと悟ったリィナは、

目まぐるしく思考を走らせた。


(人の拳を抑えるくらいの、ギリギリの加減にしなきゃ……、

この人の腕折っちゃうっ……!タイミング……っ!!)


リィナは後ろで怯える少女たちの息遣いを

肌に感じながら、少し腰を落として両手を組んだ。

視線は、真っ直ぐに男の拳だけを捉える。


瞬きを忘れた瞳から、熱い雫が一粒こぼれ落ちる。

拳が頭上まで空を切って降りてきた。ーーー今っ!!


リィナの静かな祈りに

(セイクリア)の精がうっすらと身を寄せてきたーー。


「雨だぁーーーーーーーぁ。」


リィナの詠唱を割って入ってきたのは、

何とも気の抜ける声だった。


リィナ「…え?」


瞬間、頬に冷たい感触が弾ける。


「雨!!」 「拙い!!商品が!幕下ろせぇ!!」


冷たい水滴が次々降り注ぎ出すと、群衆は一斉に

〝商人〟に戻りだした。


我先にと自分の店を守ろうと、人の塊は波のように

渦を巻き始める。

駆け回る人々が割り込むたび、リィナと

少女たちと、布商の男との距離は引き裂かれ、

あっという間に視界の外へと切り離される。


リィナ「きゃっ……!」


押し流されそうになる足元を踏みとどめ、

リィナは必死に二人の少女を抱き寄せた。

だが、自分の力では支えきれない——そう汗が滲んだ刹那。

ぐんっと、リィナの腕が、何者かの手に掴まれ

強く引き寄せられた。


「…全く。無茶するね、君も。」


リィナ「ーーっ!

オルフェンさんっ!」


引き寄せられた拍子に、一気に視界が回る。

左右で表情の違う仮面。

「道化」は言葉で語らないと言っていたその口のない面から

相変わらず余裕を含んだ、どこか戯れるような声が流れる。


片腕には「ノ」の仮面を付けた少女を軽々と

抱き上げ、もう片方で確かにリィナの手を掴んでいる。

オルフェンは猫の面の少女もしっかりと

付いてきていることを確認すると、

そのまま手を引いて、しっとりと冷えた路面を駆けた。


仮面の端から覗く少し上がった口角が

降り注ぐ雨音の奥へ沈んでいったー。


ここまで思いつくまま… ゼル編、ノクシス編… 乙女たち編と揃ったので… オルフェンver.も作ろうかなっと試みました。

書き上げてみたら過去一?で長くなってしまったので

前編/後編に分けておきます( ˊᵕˋ ;)


……というか、私このサイトを未だに使いこなせてなくて… どこで見たのか忘れたのですが

「ブックマーク」に加えて下さってる方がいらっしゃるようで……!!> <

こんな自己満足の世界を共有して下さって

ありがとうございます;;;

一から書いている訳ではないので… 意味不明な箇所も多々あるでしょうが……; 良ければまた妄想の世界に

お付き合い下さると嬉しい限りです(*_ _))*゜

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