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南宋末期の英雄:孟珙⑥

「忠義の果てに、剣は空を裂く」


1233年(てんこう2年)、秋。南宋なんそうとモンゴルの連合軍による猛攻の中、きん朝の将・武仙ぶ せんは、蔡州さいしゅうに逃れた金哀宗きん あいそうからの召集を受けていた。


その報を受けた孟珙もう きょうは、忠順軍ちゅうじゅんぐんの本陣で地図を広げていた。


「武仙が動いたか……金州きんしゅうを奪い、蔡州さいしゅうへ向かうつもりだな。」


副将・王堅おう けんが眉をひそめる。 「将軍、武仙は再起を図っております。あの男、まだ忠義を捨ててはおりません。」


孟珙もう きょうは静かに頷いた。


「忠義を貫く者は、敵であっても侮れぬ。だが、我らが守るべきは民だ。金州を奪われれば、蔡州さいしゅうの包囲が崩れる。」


夜、孟珙は兵を集めて語った。 「武仙はかつて、民のために剣を振るった将だ。だが今、彼の剣は我らの背を狙っている。この戦いは、忠義と忠義のぶつかり合いだ。勝者が正義を語るのではない。民を守った者こそが、正義となる!」


兵たちは剣を掲げ、叫んだ。


「宋の柱なり!盾となる!」


その夜、武仙は南宋領の金州へ夜襲を仕掛けた。敵陣を突破し、蔡州への道を切り開いた。孟珙はその報を受け、すぐさま追撃の準備を整えた。


「王堅、蔡州の包囲を維持しつつ、武仙の進路を断て。彼の忠義は、我らの忠義とぶつかる運命にある。」


王堅は剣を握りしめ、力強く答えた。 「将軍の方針、必ず守り抜きます!」


翌年、1234年(てんこう3年)。蔡州が陥落し、金朝は滅亡した。武仙の軍は瓦解し、彼はわずか十数騎を率いて澤州たくしゅうへ逃れようとしていた。


孟珙はその報を聞き、静かに目を閉じた。 「武仙……最後まで忠義を貫いたか。」


その夜、孟珙は王堅と語り合った。


「王堅、武仙は敵であったが、その志は我らと同じだった。民を守り、国を支える柱となろうとした。だが、時代は彼に味方しなかった。」


王堅はうなずきながら言った。


「将軍、武仙の最期を見届けた者の話では、彼は戍兵じゅへいに囲まれながらも剣を抜き、最後まで戦ったそうです。

 仲間に『国を忘れるな』と託したと。」


孟珙は剣を見つめ、静かに語った。


「忠義とは、命を懸けてでも守るもの。武仙の剣は折れたが、その魂は空に残った。我らはその魂を受け継ぎ、宋を守る盾となる。」


王堅は拳を握りしめ、叫んだ。 「孟将軍の志、武仙の魂、我らが継ぎます!」


その夜、孟珙は兵たちの前に立ち、語った。


「金は滅びた。だが、戦は終わらぬ。モンゴルの脅威は迫っている。我らが守るべきものは、民の命、そして未来だ。忠義の剣を掲げよ!」


兵士たちは一斉に剣を掲げ、空に向かって叫んだ。 「忠義の剣、宋を守る!」


その声は、澤州の空にも届いたかのようだった。孟珙は空を見上げ、静かに言った。


「武仙よ……お前の忠義、我が剣に宿す。」


こうして、孟珙は忠義の将として、次なる戦いへと歩みを進めた。彼の剣は、民のために振るわれ続けることとなる。




「忠義の剣、盟友の影」


1234年(端平元年)、冬。蔡州さいしゅうの空は灰色に染まり、冷たい風が戦場を吹き抜けていた。南宋なんそうの将軍・孟珙もう きょうは、モンゴル軍との連合軍を率いて、きん朝最後の砦へと迫っていた。


「将軍、蔡州の城門は堅く閉ざされております。金哀宗きん あいそうは最後の抵抗を試みるようです」 副将・王堅おう けんが報告する。


孟珙は地図を見つめながら、静かに答えた。 「この戦いで金は滅ぶ。だが、我らが滅ぼすのは国ではない。民を苦しめる戦のわざだ。」


王堅はうなずき、言葉を続けた。 「モンゴル軍はすでに包囲を完成させています。彼らは容赦なく攻め込むでしょう。」


「それが気がかりだ。」 孟珙は剣を握りしめた。 「彼らの力は確かだ。だが、その冷酷さは、我ら南宋の志とは異なる。」


夜が明け、蔡州への総攻撃が始まった。矢が飛び交い、城壁が揺れる。孟珙は先陣に立ち、兵を鼓舞した。


「皆の者、聞け!この剣は、祖父・孟林もう りんより授かった忠義の剣。岳飛がく ひ将軍の魂が宿る剣だ!我らは民のために戦う!」


兵士たちは一斉に叫んだ。 「忠義の剣、宋を守る!」


激戦の末、城門が破られた。孟珙は城内へ突入し、金軍の残兵を制圧した。蔡州は陥落し、金朝は滅亡した。


勝利の歓声が上がる中、孟珙はふと、モンゴル軍の兵が城内の民を捕らえ、容赦なく処刑している光景を目にした。


「やめろ!その者たちは戦に加わっていない!」 孟珙は叫び、馬を駆って止めに入った。


モンゴルの将・クウン・ブカが現れ、冷ややかに言った。


「戦に勝った者が、裁くのだ。情けは不要。」


孟珙は剣を抜き、彼に向き直った。


「我らは盟友だ。だが、民を守ることこそが、将の務めだ!」


クウン・ブカは一瞬、孟珙の目を見つめ、そして言った。


「宋の将よ……貴様の忠義、見事だ。だが、我らの道は違う。」


その言葉に、孟珙は深く息を吐いた。


「ならば、我らはこの地で別れる。私は宋の盾となる。お前たちが南へ進むなら、我が剣が立ちはだかる。」


戦後、孟珙は王堅と共に蔡州の城壁に立ち、遠くを見つめていた。


「王堅、金は滅びた。だが、真の脅威はこれからだ。モンゴルの剣は、民を守るためのものではない。」


王堅は静かに答えた。 「将軍、我らが守るべきものは、国だけではない。民の命、希望、そして未来です。」


孟珙はうなずき、剣を掲げた。 「この剣は、忠義の剣。宋の魂を守るため、私は戦い続ける。」


その日、蔡州の空に、南宋の旗が高く掲げられた。だが孟珙の胸には、勝利の喜びと共に、盟友の冷酷さへの深い警戒が刻まれていた。


彼は知っていた。次なる戦いは、もっと厳しく、もっと深い覚悟が必要になることを。




「忠義の旗、北風に翻る」


蔡州さいしゅうの戦いが終わり、きん朝は滅亡した。だが、孟珙もう きょうの心は晴れなかった。戦場に残された民の嘆き、モンゴル軍の冷酷な振る舞い──それらが彼の胸に重くのしかかっていた。


王堅おう けん、北方の地は荒れ果てている。だが、そこにはまだ希望があるはずだ。」


副将の王堅は頷いた。 「将軍、民は剣を持つ覚悟があります。守るべきものがある限り、立ち上がる者は必ずいます。」


孟珙は地図を広げ、指を北へ滑らせた。


「この地に、我らの新たな軍を築こう。名は──鎮北軍ちんほくぐん。北を鎮め、そうを守る柱とする。」


その言葉に、王堅の目が輝いた。


「忠義の旗を掲げましょう。岳飛がく ひの魂を継ぐ者として!」


孟珙は剣を抜き、空に掲げた。


「この剣は、祖父・孟林もう りんより授かった忠義の剣。今こそ、その志を形にする時だ!」


数日後、孟珙は北方の村々を巡り、民に語りかけた。


「皆の者、聞いてくれ。戦は終わったが、平和はまだ遠い。モンゴルの脅威は迫っている。だが、我らが立ち上がれば、宋は守られる!」


一人の若者が叫んだ。 「将軍、俺たちに剣を!この手で家族を守りたい!」


孟珙はその手を握りしめた。


「よく言った。その心こそ、忠義だ!」


こうして、志ある者たちが次々と集まり、鎮北軍は15,000人の兵を得た。だが、彼らの多くは農民や商人で、戦の経験はなかった。


「将軍、この者たちに剣を教えるには時間がかかります」 王堅が心配そうに言う。


孟珙は笑みを浮かべた。 「剣の振り方は教えられる。だが、守る心は教えられぬ。彼らはすでに持っている。」


寒風の吹く野原で、孟珙は自ら剣を振るい、兵士たちに訓練を施した。夜明け前から日暮れまで、声を枯らし、汗を流した。


ある日、訓練中に一人の兵が倒れた。孟珙は駆け寄り、肩を支えた。


「無理をするな。命は、守るためにある。」


その兵は涙を流しながら言った。


「将軍……俺は弱いかもしれません。でも、家族のために戦いたいんです。」


孟珙は静かに頷いた。


「ならば、お前はすでに強い。守りたいものを守ろうとする心こそ、強さの証だ。」


冬が深まり、雪が舞う中でも訓練は続いた。兵士たちは次第に剣を操り、隊列を整え、声を揃えて叫ぶようになった。


「忠義の剣、宋を守る!」


その声は、北風を裂いて空へと響いた。


ある夜、孟珙は王堅と焚き火を囲みながら語った。


「王堅、この軍はただの兵ではない。希望だ。民が自ら立ち上がり、国を守る力となる。」


王堅は火を見つめながら言った。


「将軍、この軍があれば、宋はまだ戦える。民の心が剣となるなら、どんな敵にも負けません。」


孟珙は剣を火にかざし、静かに語った。


「この剣は、岳飛の志。我らが継ぎ、守り抜く。鎮北軍は、宋の魂だ。」


こうして、鎮北軍は誕生した。寒風の中で鍛えられた兵士たちは、忠義と希望を胸に、南宋の再建を支える柱となった。


その旗は、北風に翻りながら、民の誇りとして高く掲げられた。

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