南宋末期の英雄:孟珙⑤
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1232年初春。孟珙は、忠順軍の本陣で雪を見つめていた。冷たい風が吹きすさぶ中、彼の心は熱く燃えていた。
「武仙が三峰山で敗れたか……」
報告を持ってきた王堅が、眉をひそめながら言った。
「はい。わずか四十騎で留山へ逃れたそうです。しかし、彼は荒野に散った兵を一人ずつ呼び戻し、十万の軍を再編したとか」
孟珙は静かにうなずいた。
「武仙は、かつて敵であった。だが、その忠義は本物だ。民を守るために剣を振るう者に、我らは敬意を払うべきだ」
王堅は目を見開いた。
「将軍……敵に敬意を?」
「そうだ。忠義とは、国を越える。武仙は、民のために立ち上がった。ならば我らも、民のために剣を取る」
その言葉に、王堅は拳を握りしめた。
「ならば、我らも負けられません。武仙が再び立ち上がったなら、我らも南宋の盾として、立ち続けましょう!」
孟珙は微笑み、雪の空を見上げた。
「岳飛殿の志は、今も生きている。武仙もまた、その志を継ぐ者だ」
その頃、武仙は留山で兵を集めていた。雪の中、彼は声を張り上げた。
「我らは敗れた!だが、心まで折れてはならぬ!民が待っている!剣を取れ、旗を掲げよ!」
兵たちは次々と集まり、再び武仙のもとに立ち上がった。
そして三月。南京がモンゴル軍に包囲される中、武仙は金哀宗から参知政事に任命され、完顔思烈と合流して救援に向かった。
雪の中、武仙の軍は進軍を続けた。民衆は道端で声援を送り、兵士たちの士気は高まった。
「武仙将軍!民を守ってください!」
「我らの命、将軍に託します!」
武仙は馬上から叫んだ。
「我が剣は、民のために振るう!必ずや南京を救う!」
敵陣を突破し、城内に糧食を届けた武仙の軍は、士気を回復させた。城内の兵士たちは涙を流しながら叫んだ。
「武仙将軍、万歳!」
その報が南宋にも届いたとき、孟珙は兵たちに語りかけた。
「武仙は、かつて敵であった。だが今、彼は民のために剣を振るっている。我らもまた、民を守るために剣を取る者。敵味方を越えて、志を持つ者こそ、真の武人だ」
兵たちは拳を握りしめ、声を揃えた。
「忠義のために、命を懸ける!」
──こうして孟珙は、武仙の決起を胸に刻み、戦場に立ち続けた。剣を振るう者として、そして民を守る者として。忠義とは何かを問い続けながら、彼の歩みは南宋の希望となっていくのであった。
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「忠の剣、山河を貫く」
1232年、南宋の名将・孟珙は、唐・鄧方面へ急行していた。金哀宗が四川へ逃れようとしているという報を受け、彼はその退路を断つべく、険しい山道を越えて進軍していた。
「将軍、夜襲の準備が整いました!」
副将・王堅が駆け寄る。
孟珙は静かに頷き、剣を腰に差し直す。
「よし。金の命運は、今夜で尽きる。民の未来を守るため、我らが魂を燃やす時だ。」
夜の闇に紛れ、孟珙軍は金軍の背後を突いた。火矢が空を裂き、敵陣に炎が走る。混乱する金軍の中、孟珙は先陣を切って突撃した。
「宋の魂、ここに在り!」
彼の叫びに兵士たちは奮い立ち、包囲網を完成させた。
翌朝、民衆が集まり、孟珙の勝利を讃えた。
「孟将軍!我らの英雄!」
「この地を守ってくださり、ありがとうございます!」
孟珙は民に向かって深く頭を下げた。
「この剣は、民のために振るうもの。我が祖父・孟林が岳飛の忠を継げと教えてくれた。今こそ、その志を果たす時だ。」
その後、武仙率いる金軍が奇襲を仕掛けてきた。
武仙は手飼いの騎兵たちと共に孟珙達の軍に突撃する。
だが孟珙は冷静に迎撃し、敵将の陣を突き崩した。
図らずも、孟珙と武仙は対峙した。
「名のある将軍とお見受けした!」
「我が名は、宋の孟珙と申す!岳飛将軍の志を継ぐ『抗金の将』なり!
武仙殿とお見受けするが相違ないか!」
「その通り!我が名は武仙!」
「金国への果てなき忠義、お見事である。
しかし、金は命脈尽きる時。降伏なされよ」
「あほう!ワシがそなたが言う忠義の将ならば、ここで降伏するわけがなかろうが!」
「おっしゃる通りである!失礼した!では、武仙殿。その命もらい受ける!」
「さらなるあほうか!ワシに勝てると思ったか!」
孟珙と武仙は槍を交えて戦う!
槍檄が火花を散らし、一騎打ちは白熱する。
しかし、金の軍は隊列を乱し、劣勢となる。
軍の士気では孟珙の方が一枚上手だったのだ。
「むっ!これはたまらん」
武仙は素早く馬首をめぐらせて退却する。
「勝負は引き分けとする。孟珙と言ったな?
お前の命は俺のものだ。俺に再会するまで死ぬな!」
そう言い残すと金軍は素早く退却した。
戦いは、宋・モンゴル連合軍の勝利となった。
戦後、王堅が孟珙のもとに駆け寄る。
「将軍、勝利です!武仙軍は潰走しました!」
孟珙は剣を地に突き立て、空を仰いだ。
「祖父よ、父よ……我は、生き残りました。そして勝ちました」
王堅がそっと言った。
「将軍、あの夜、私に言ってくれましたね。『信じる者のために剣を振るえ』と。あの言葉が、今の私を作りました。」
孟珙は微笑み、肩を叩いた。
「王堅、お前は忠の剣だ。いつか、この国を背負う者となるだろう。」
その言葉に王堅は胸を熱くし、涙をこらえながら叫んだ。
「私は、孟将軍の志を継ぎます!この命、宋のために!」
その後、孟珙は蔡州でモンゴル軍と共に金国を滅ぼす戦いに参加した。激戦の末、勝利を収めたが、モンゴル軍の冷酷な振る舞いに心を痛めた。
「盟友であっても、彼らは我らの未来を脅かす存在だ……」
孟珙は剣を見つめ、静かに語った。
そして、彼は北方で志ある民兵を募り、鎮北軍を創設。寒風の中、兵士たちと共に訓練を重ねた。
「この軍は、忠義と希望の象徴だ。宋を守る盾となれ!」
兵士たちは声を揃えて叫んだ。
「忠義の剣、我らが振るう!」
孟珙はその姿を見て、心の中で祖父の言葉を思い出した。
「この子は国を支える柱となる」──その言葉は、今まさに現実となっていた。
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「忠の剣、嵐を裂く」
1232年、秋。空は重く曇り、唐・鄧の山々に冷たい風が吹いていた。南宋の将軍・孟珙は、金軍の武仙軍団が迫っているとの報を受け、忠順軍を率いて陣を張っていた。
「将軍、敵軍が動きました!西の谷から奇襲を仕掛けてきます!」 副将・王堅が息を切らして駆け込む。
孟珙は静かに剣を握りしめ、空を見上げた。 「奇襲か……武仙め、まだ戦の魂を捨ててはおらぬか。」
「どうしますか、将軍?」 王堅の声には焦りがあった。
「迎え撃つ。だが、慌てるな。忠の剣は、嵐の中でも折れぬ。」
孟珙は兵たちの前に立ち、声を張り上げた。 「皆の者、聞け!敵は我らを試すために来た。だが、我らには岳飛の魂がある!この剣は、民のために振るうものだ!」
兵士たちは一斉に剣を掲げた。 「忠義の剣、我らが振るう!」
戦は始まった。武仙軍は谷を越え、猛然と突撃してきた。
「我が名は武仙!孟珙よ出てくるがいい!」
だが孟珙は冷静だった。地形を読み、伏兵を配置していたのだ。
「今だ、包囲を解け!」 孟珙の号令で、左右の山腹から弓兵が現れ、敵を狙い撃つ。
「ぐっ……宋の策か!」 武仙は叫んだが、すでに遅かった。
孟珙は馬を駆り、敵将の陣へと突入した。剣を振るい、敵兵をなぎ倒す。
「武仙殿、出てきたぞ!この命は、貴殿の野望を断つためにある!」
武仙が姿を現した。
「孟珙……また遭えたな。小癪にも吠えるようになりおって!ならば、我が剣で試してやる!」
二人の剣がぶつかり、火花が散った。激しい一騎打ちの末、孟珙の剣が武仙の甲冑を裂いた。
「ぐっ……見事だ……孟珙……」 武仙は膝をつき、敗北を認めた。
「だが俺はまだ再起する」武仙は再び立ち上がり、逃走する。
不屈の闘志こそが彼の持ち味なのだ。
戦が終わり、民衆が戦場に駆けつけた。 「孟将軍が勝ったぞ!」 「我らの地を守ってくれた!」
孟珙は剣を地に突き立て、静かに語った。
「この勝利は、私一人のものではない。兵の忠義、民の願い、そして祖父・孟林の教えがあってこそだ。」
王堅がそっと近づき、言った。
「将軍。武仙殿は我が軍に太刀打ちできませんでしたな」
孟珙は微笑み、王堅の肩を叩いた。
「王堅、俺たちは強くなったのだ。この国の柱だからな。」
その言葉に王堅は胸を熱くし、涙をこらえながら叫んだ。
「私は、孟将軍の振るう刃となります!この命、宋のために!」
その日、孟珙の名は英雄として広まり、民の心に深く刻まれた。彼の剣は、ただの武器ではなかった。忠義と希望を宿した、南宋の魂そのものだった。




